俳優やモデルと見まごうほどのハンサムなボルシンガー投手。その上、性格は「勉強熱心でマジメ」とチーム関係者は口をそろえる

「今、日本で最も勝てるピッチャー」マイク・ボルシンガーの大きな武器となっている球種が"魔球"ナックルカーブだ。一般的なカーブよりも曲がりが大きくスピードも速いこのボールを彼はどのように操っているのか?

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――ボルシンガー(以下、ボル)投手の球種別割合を見ると、ストレートと並んでナックルカーブが全体の約3割と、投球の大きな軸となっています。このボールはいつから投げているのですか?

ボル 初めて投げたのは大学生のときだね。当時から僕はパワーピッチャーではなくて、ゴロに打ち取るタイプだったから、その意味でもカーブは大事な球種なんだ。大学時代は「案外、使えるな」ぐらいだったんだけど、プロ入り後にマイナーリーグで磨いて、コントロールできるようになったんだ。

――一般のカーブよりも曲がりが大きく、スピードも速いといいますが、握りを具体的に教えてください。

ボル 僕は人さし指を折って握っているよ。第1関節から爪のつけ根あたりまでをボールの縫い目から外して押し当て、固定させるんだ。縫い目に合わせるとどうもしっくりこなくてね。

――よくぞこれで投げられるなぁ......と感心してしまうような変則的な握りですが、どのようにリリースするのでしょう? 指で弾(はじ)いたり、ひねったりしますか?

ボル ノー。弾かないし、ひねりもしない。手首から上は完全に固定した状態でハンマーを振り下ろすように投げるんだ。イメージとしては、キャッチャーのマスクを目がけて腕を振り下ろすと、そこから落ちていい球筋になる。カーブはそれより高くても低くてもダメだからね。

――とてもコントロールしづらい難しい球種だと思うのですが、どのように操るのでしょうか?

ボル もちろん簡単ではないけど、僕は試合前のブルペンから、内外角に入念に投げ分けてからマウンドに上がっているんだ。それでも試合の序盤は高めに浮いたり、沈みすぎたりするから、ゲームのなかで修正しながらやってるよ。

――そもそもなぜ、一般的なカーブではなく、ナックルカーブを投げるようになったのですか?

ボル 実は普通のカーブは投げたことがなくて、最初からこのナックルカーブを投げていたんだよ。

――本当ですか!?

ボル 本当だよ。ほかの球種にもいえることだけど、僕の投球の生命線は中指にうまく力を入れること。その上で自分なりにどうやったらいいカーブが投げられるかを試行錯誤した結果、この握りにたどり着いたんだ。発明っていうとちょっと大げさかな(笑)。

――ほかにはなかなか投げる投手のいない"魔球"と話題になっています。

ボル 同じような球質のカーブを投げる投手は、アメリカでもふたりぐらいしかいないんじゃないかな。先日のオールスターゲームでも日本ハムの上沢(直之)投手が「どうやって投げているのか教えてほしい」と声をかけてくれたから「キミはほかにも素晴らしい球種をたくさん持っているからいらないよ」と冗談で返したよ(笑)。でも、興味を持ってもらえるのはうれしいね。

――あらためてボルシンガー投手のピッチング哲学について教えてください。

ボル ドジャース時代にマダックスGM補佐(メジャー通算355勝)から「同じ球種でも緩急をつければ打者にとっては厄介だ」ということを教えてもらったんだ。僕はストレートでも最速144キロくらいしか出ないけど、138キロくらいの真っすぐを投げることで打者のタイミングを外すことができる。

同じようにナックルカーブやほかの球種も微妙にスピードを変えて投げるようにしているんだ。それとコンビネーションも大事だね。ナックルカーブをうまく使うことによって、僕の144キロのストレートも、打者は152キロぐらいに感じるんじゃないかな。

★『週刊プレイボーイ』33号(7月30日発売)より

●マイク・ボルシンガー
1988年1月29日生まれ(30歳)、アメリカ・テキサス州出身。右投げ右打ち。15年には米ドジャースで21試合に先発し6勝を挙げるなど、メジャー4年で通算8勝。185cm、97kg。今季推定年俸9000万円