W杯での韓国代表のプレーについて語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第57回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、W杯での韓国代表について。今大会の韓国代表は、グループリーグ第3戦でドイツに勝利するなど劇的な場面もあったが、全体を通して何よりも目立ったのは、ファウルの多さだ。アジアのライバルとして期待をしているからこそ宮澤ミシェル氏が苦言を呈する。

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今回のW杯で韓国サッカーには心配を寄せている。日本との直接対決以外では、ライバルであり、東アジアの仲間である韓国を、いつも応援しているのだが、今回のロシア大会で見せた彼らのサッカーに対しては、先行きに不安を感じずにはいられない。

なにを懸念しているかと言えば、それはファウルだ。グループリーグのメキシコ戦で韓国は24回もファウルを犯し、グループリーグ3試合のトータルでも63回。これは出場32カ国のなかで、もっとも多かった。

その数の多さはもちろんだが、それ以上にファウルの内容がひどいのだ。相手ボール・ホルダーから奪おうとして激しくチャージした結果、ファウルになるのは仕方ない面もある。勢い余ってというケースもあるからだ。

しかし、韓国のW杯3試合でのファウルは、そうしたものよりは、ほとんどが『楽をしたいから』という理由で、相手に抜かれそうになればファウルで止めるという印象が強いものだった。

サッカーでは戦略的ファウルと呼ばれるものがある。たとえば3位決定戦のベルギー対イングランドの試合でそうしたシーンがあった。イングランドが攻め込んでいたときに、センターサークル付近でベルギー代表のエデン・アザールにボールが渡った。

速攻を出されれば失点につながるため、イングランドDFのジョン・ストーンズは手を使ってアザールを止めた。このファウルにはイエローカードが出されているが、それでもファウルで止めることで、確実に失点を防ぐことになった。

日本代表もセネガル戦で乾貴士が戦略的ファウルで相手を止めたが、そうした状況のときは、ファウルをするしか止めようがないことを、守備側も攻撃側も互いにわかっている。だから、怪我をすることもほとんどないし、揉めたりもしないから、試合が荒れることもない。

だが、韓国のファウルはこうした戦略的ファウルとも異なる。中盤で足を軽く引っ掛けて転ばせたり、レイトタックル気味に強く当たったりしていた。相手の攻撃をファウルで一度止めて、全員が自陣に引いて守れる時間を稼ぐためにやっているように見えたのだ。

ファウルを犯しても失点しなければ、それが強さであるという解釈もできる。しかし、W杯で格上に対してすべてファウルで止めていては、サッカーのクオリティーは高まっていきはしない。だからこそ、苦言を呈したいのだ。

アジア勢は前回ブラジル大会では1勝もできなかったが、今回はサウジアラビアが1勝(エジプト戦)、イランが1勝(モロッコ戦)、韓国1勝(ドイツ戦)、日本1勝(コロンビア戦)と、グループリーグ延べ12試合で4勝を挙げた。

しかし、それでも決勝トーナメントに進めたのは日本の1カ国のみ。韓国はFIFAランク1位だったドイツに勝利したことで溜飲を下げたと聞くが、アジア全体で考えた場合には、もっと多くの国が決勝トーナメントに進み、アジアのサッカーを盛り上げていくためには、韓国がもっとレベルアップしてくれないことには厳しいのだ。

W杯でアジア勢が決勝トーナメントに進むための課題は得点力にあるが、この点において韓国ほど期待できる国はない。それはソン・フンミンの存在があるからだ。

183cmながら、自分よりも上背も体重もあるDFとの競り合いにも、フィジカルで負けない強さがあり、カットインしてシュートにいける速さと巧さもある。そして、ズドーンと決めきるパワーも持っている。アジアレベルを超えているセンターフォワードの彼が、4年後は30歳。ここからの4年間が選手として脂の乗った時期に入っていく。

それなのに、ファウルで簡単に相手を止めていては、なんとも勿体無いのだ。韓国はフィジカル的にアジアの中では図抜けているし、日本はそうした韓国の強みを苦手にしている。しかし、サッカーはアジアの枠組みのなかだけでは完結しない。世界との戦いを見据えて強化しなければ、4年後もまたグループリーグで敗退という可能性もあるのだ。

韓国の人たちの気質は、ものすごく熱い。だからこそ、その気質が日本を上回る原動力になることもある反面、世界との戦いでは空回りして悪い方向に出てしまうこともあるのだろう。これは選手だけではなく、国民にも言えることだと思う。

韓国代表がドイツに勝利してW杯から帰国したときに空港で卵を投げつけられたり、スウェーデン戦でPKを献上するファウルを犯したキム・ミヌが過剰なバッシングをされたりという方向に出てしまうと、特有の「熱さ」が、韓国サッカーを後押しするものにはなっていないように感じるのだ。

準優勝したクロアチアをはじめ、スウェーデン、デンマーク、スイスなど、サッカー大国とは言えない国が、決勝トーナメントに進めた背景には、彼らがヨーロッパの高いレベルに身を置いていることがある。だから、どんどん強くなれるのだ。

日本がベスト8や、それ以上の結果を目指すには、まだまだ解消しなければいけない課題がある。その多くは日本独自に取り組むべきものだが、切磋琢磨しながら力を伸ばすためには、やはり隣国・韓国サッカーの存在は必要不可欠。それだけに今後、韓国サッカーがどう変貌するのかをしっかり見守っていきたいと思っている。