新加入したファジーカス(左)と八村(右)の活躍もあり、日本代表はワールドカップ2次予選に駒を進めた

正真正銘のジャイアントキリングだった。何より、代表新加入の八村 塁(はちむら・るい/ゴンザガ大)が言うように、「日本バスケのために大事な一勝」だった。

男子バスケットボール日本代表は6月29日、FIBAバスケットボールワールドカップ2019アジア地区1次予選で、オーストラリア代表をホームの千葉ポートアリーナに迎え79-78で勝利。歴史的な快挙を成し遂げている。

オーストラリアはリオ五輪4位、現在の世界ランキングはアジア1位、全体10位の強豪。日本は昨年11月の対戦では58-82の大敗を喫していた。そんなオーストラリアを相手に、世界ランク49位の日本が挙げた勝利は、"千葉ポートアリーナの奇跡"と呼んでいいだろう。

勝利の立役者となったのが、前出の八村とニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)の代表新加入組。オーストラリア戦では、ふたり合わせて49得点19リバウンドの活躍でチームを牽引(けんいん)している。

八村はインサイドのみならずアウトサイドからの1on1で得点を重ねた。今年4月に帰化した210cmのファジーカスもまた、インサイドだけでなく、3ポイントも沈めるなど、多才な両選手が個の力で得点を量産している。

さらに、オーストラリアが、八村とファジーカスを意識しアウトサイドにつり出されたため、比江島 慎(ひえじま・まこと/シーホース三河)、馬場雄大(アルバルク東京)らがドライブするスペースが生まれ、日本のオフェンスにリズムを生むという効果をももたらしている。

ディフェンスにおいても、八村とファジーカスの存在は大きい。高さで勝るオーストラリアに対し、日本はゾーンディフェンスを多用。もちろん、それでもオーストラリアにオフェンスリバウンドを22本取られたが、セカンドチャンスを与えても、簡単には得点を許さない粘り強いディフェンスは、今後日本が世界と戦う際に目指すべきスタイルの指針となるはずだ。

オーストラリア戦の勝利がまぐれではないことを証明したのが、7月2日に行なわれたチャイニーズ・タイペイ戦。日本は2月にホームで行なわれたチャイニーズ・タイペイ戦を69-70で落としている。しかし、この日はアウェーながら108-68で勝利。この試合、日本は調子がよかったわけではない。それでいて40点差の圧勝。今の日本代表は、間違いなく世界との距離を一歩縮めている。

もちろん、オーストラリア戦の勝利をもって、日本代表が世界トップクラスに肩を並べたというのは早計だ。オーストラリアは、2名のNBA選手が参加し、字面としては戦力アップしていたものの、チームになじむ時間が少なく、NBA選手2名が足を引っ張っていた。

そもそもオーストラリアは、NBAで今季新人王となったベン・シモンズ(フィラデルフィア・76ers)、リオ五輪のアメリカ戦で30得点したパティ・ミルズ(サンアントニオ・スパーズ)などの主力を欠く、いわば2軍のような状態だった。

ハマれば世界の強豪とすら互角に戦える可能性が、今の日本代表にはある。しかし、ファジーカスのコメントを忘れてはいけない。

「チームは一足跳びには強くならない。一歩ずつステップアップしなくてはいけない」

9月13日から始まる2次予選。1次予選の4グループをふたつに統合し、日本(世界ランク49位)はオーストラリア(同10位)、フィリピン(同30位)と共に、イラン(同25位)、カザフスタン(同68位)、カタール(同61位)のいるグループFに。各国、1次予選では未対戦の3チームとホーム&アウェーで6試合を戦う。

また1次予選の成績が持ち越され、1勝が勝ち点2、敗戦が勝ち点1で計算されるため、グループFは1位オーストラリア(勝ち点11)、2位イラン(勝ち点11)、3位フィリピン(勝ち点10)、4位カザフスタン(勝ち点9)、5位日本(勝ち点8)、6位カタール(勝ち点8)という順位で始まる。

来年開催されるワールドカップには、各グループ上位3チームに加え、各グループ4位のうち成績上位のチーム、計7チーム(開催地の中国を除く)が出場できる。

新生日本代表ならば、3位に入ることは十分可能だが、一筋縄にはいかない。八村は所属するゴンザガ大の新シーズン開幕に向けトレーニングが始まり代表への参加が難しい。また、ファジーカスが足首のネズミ(関節遊離体)除去手術のため、2次予選に最初から出場できるか不透明とも噂されている。

ファジーカスと八村の2次予選出場が不確定ななか、新たな戦力として期待がかかる渡邊。ブルックリン・ネッツの一員としてNBAサマーリーグの5試合に出場。決勝トーナメントではスタメンに抜擢されるなど存在感を示した

救世主となりそうなのが、渡邊雄太だ。現在、NBAのサマーリーグでの活躍が評価され、9月下旬から始まるNBAのトレーニングキャンプに呼ばれる可能性が浮上。その場合、日本代表への参加が難しくなるが、渡邊が参加できるのであれば、日本代表の大きな戦力となる。

ただ、1次リーグ最終戦で、オーストラリアとフィリピンが大乱闘を起こし、FIBAは、後日両チームに制裁を下す可能性を示唆。乱闘に関与した選手が出場停止となった場合、2チームの戦力ダウンは必至だ。日本は両チームとの対戦が済んでいるが、カザフスタン、カタールなどが想定以上に勝ち点を伸ばす可能性が高まり、ワールドカップ出場権争いは、期せずして混沌(こんとん)としそう。

ワールドカップ本戦、そして東京五輪へ向け、険しい道は続く。それでも、歴史的な一勝を糧(かて)に、日本代表の躍進を期待したい。