前半戦で苦戦した鳥栖も、トーレス加入から地道に勝ち点を積み重ねている。鹿島から電撃移籍した元日本代表FWの金崎とトーレスの2トップは、相手チームにとってかなりの脅威になりそうだ

ロシアW杯の興奮が冷めやらぬ7月18日、約2ヵ月ぶりにJ1リーグが再開した。

ちまたでは、ヴィッセル神戸に加入したアンドレス・イニエスタと、サガン鳥栖に加入したフェルナンド・トーレスという"スペインの世界的スーパースター"の一挙手一投足に注目が集まるなど、Jリーグは近年にない盛り上がりを見せている。

そのご両人は18日の第17節で途中出場ながらJリーグデビューを飾ると、続く第18節では共にスタメン出場を果たすなど、順調にチームにフィット。随所にレベルの違いを見せつけるプレーを披露し、スタンドを埋めたファンはもちろん、対戦相手の選手もため息を漏らすほど。特に神戸は"イニエスタ効果"もあって柏レイソルに1-0で勝利を収め、順位を浮上させている。

現在の「Jリーグフィーバー」のきっかけを作った神戸のイニエスタは、ロシアW杯の疲れを感じさせぬプレーを披露。あとは、ケガで離脱中の元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキの復帰を待つばかりだ

一方、W杯の中断期間中にはそのほかのチームも前半戦で露呈した弱点を克服すべく、新戦力獲得に動いた。補強策が成功したチームもあれば、逆に今夏の移籍マーケットで補強に失敗したチームもあり、早くもその明暗が分かれている。

まず、豊富な資金力をバックに大型補強に成功したのが、最下位に低迷している名古屋グランパスだ。

最大の補強ポイントになっていたボランチに、風間八宏(やひろ)監督の古巣でもある川崎フロンターレのエドゥアルド・ネットを獲得。センターバックにはFC東京から丸山祐市、柏レイソルから中谷進之介を補強した。さらにトップ下には、J2松本山雅から即戦力の前田直輝(なおき)を加え、大幅な戦力アップを果たしている。

彼らがそろって新天地デビューを飾った第17節では、コンビネーションに課題を残したものの、首位サンフレッチェ広島にスコアレスドローを演じるなど、補強の効果が表れ始めている。

ほぼ"新チーム"となり、再出発を図るためには多少の時間を要するかもしれないが、すでに名古屋にはFWジョー、MFガブリエル・シャビエル、GKランゲラックといった大物助っ人を擁しているだけに、新戦力の活躍次第で当面の目標とされる「J1残留」は十分に可能とみていいだろう。

前半戦で8連敗を喫するなど、低迷する名古屋が充実の補強を行なった。前半戦は孤立することが多かった、元ブラジル代表FWのジョー(後列左から2人目)の得点が増えれば、J1残留に光が見えてくる

また、ピンポイント補強が奏功しているのが、浦和レッズである。得点力不足に悩まされていた浦和は、移籍金推定6.5億円を投資してブラジル人FWファブリシオを獲得し、弱点克服に成功している。

2016年に半年間だけ鹿島でプレーした経験もあるファブリシオは、今季のポルトガルリーグで15得点を記録した点取り屋で、浦和でのデビュー2試合目の広島戦で初ゴールをマークした。相手のマークを引きつけて周囲を生かすプレーも見せており、その試合でエースの興梠慎三(こうろき・しんぞう)が2ゴールを挙げるといった相乗効果も生まれている。

同じく、テクニカルディレクターとしてジーコが16年ぶりにクラブに復帰した鹿島アントラーズも、ピンポイント補強を敢行した。

今夏に放出したFWの金崎夢生(かなざき・むう)とペドロ・ジュニオールの穴を埋めるべく、ブラジルのサントスからFWセルジーニョを獲得。DFには、ベルギーに新天地を求めた日本代表の植田直通(なおみち)に代わり、韓国代表としてロシアW杯に参加したチョン・スンヒョンを鳥栖から獲得した。すでに中断期間後のチームは勝ち点を積み上げているだけに、新戦力ふたりがチームになじめば今年も上位争いに加わってくるだろう。

逆に、補強に失敗して戦力ダウン必至とみられているのが、柏レイソルとガンバ大阪だ。

5月に下平隆宏(しもたいら・たかひろ)前監督が解任された柏は、この夏にFWハモン・ロペス、DFユン・ソギョン、DF中谷進之介を失って戦力ダウンしながら、J2ジェフ千葉からDF高木利弥(としや)、ブラジルのフルミネンセから期限付き移籍でDFナタン・ヒベイロを獲得したのみ。

いずれも応急処置的な印象は拭えず、中断明けも3連敗を喫するなどJ2降格圏内が迫ってきている。今後は、加藤望(のぞむ)新監督がどこまでチームを立て直せるかが、成績浮上のカギとなりそうだ。

同じくリーグ再開後に2連敗を喫し、監督がレヴィー・クルピから元日本代表の宮本恒靖にバトンタッチしたガンバ大阪も、状況は厳しい。

前半戦の不振から脱出すべく、ライバルのセレッソ大阪からFW柿谷曜一朗の獲得に動いたほか、ドイツのデュッセルドルフから日本代表FW宇佐美貴史を古巣に復帰させようと試みたものの、いずれも破談。結局、戦力の上積みなしで後半戦を迎えたことが、監督交代の引き金になった格好だ。

しかも、宮本新監督は"クラブのレジェンド"ではあるが、トップチームを率いた経験はゼロ。初陣となった第18節の鹿島戦では組織的な守備を展開するなど改善が見られたが、現有戦力だけでは順位の急浮上は望めそうにない。故障で長く戦列を離れていたFWアデミウソンが復帰を果たしたことが、唯一の希望の光となっている。

そのほか、堅守速攻で首位を独走していた広島も、DF丹羽大輝(にわ・だいき)をFC東京に引き抜かれながら、夏の補強はなし。必ずしもその影響が出たとはいえないが、リーグ再開後3試合は1勝1分け1敗と、前半戦の勢いはすっかり失われているように見える。もともと選手層は厚くないだけに、故障者や出場停止の選手が増えそうな終盤戦は苦しい戦いを強いられそうだ。

W杯の盛り上がりの陰で、しっかり後半戦を見据えた戦力補強を行なったチームと、それができなかったチームの今後はいかに。J1リーグの後半戦は見どころ満載だ。