イニエスタのプレーについて語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第59回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、ヴィッセル神戸に加入した世界的MFイニエスタのプレーについて。Jリーグデビューからすぐにその高い技術を披露し、先日の2戦連続スーパーゴールも大きな衝撃を与えた。そのプレーのすごさを宮澤ミシェルが解説する。

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イニエスタはやっぱりすごいね! ジュビロ磐田戦(8月11日)、サンフレッチェ広島戦(8月15日)と2試合連続でスーパーゴールを決めたけど、彼にしてみたらバルセロナやスペイン代表でやってきた"普通のプレー"。だけど、それがJリーグのなかで発揮されると、世界トップレベルの技量が際立ってくるよな。

ジュビロ戦で決めたゴールは、DFの大井健太郎も驚いたと思うよ。マークしていた大井にしてみたら、イニエスタのトラップは想像もしてない領域にボールを止められたよね。

若い頃から見ているけど、大井はいいDFだからね。むかしはポカも多かったけど、湘南に行ったり、新潟でプレーしたりして、粗が削られてジュビロにキャプテンとして戻ってきた。34歳だけど、日本代表でプレーしても、まったく不思議でないレベルにある。

もしイニエスタのトラップが足元だったら、大井は対応できたと思うんだ。それが大井の予想を越えた方向にトラップされ、しかも少し離れたところにボールを出された。もう勝負あったよね。大井はバランスを崩されちゃったし、スライディングせざるを得なかった。

イニエスタのすごいところは、そこからさらにゴールライン際にボールを持ち出しているとこだよな。相手GKの191cmあるカミンスキーもかわして流し込んだ。

美しいトラップからのスーパーゴールだけど、あのプレーのすごいところは、右サイドでボールを持ったポドルスキが中央にカットインしてくるタイミングで、ゴール前にポジションを上げた判断の目だね。

普通なら中央に入ってきたポドルスキの後方にポジションを取って、ボールを受けてはたこうとしたり、ワン・ツーパスを出そうと考えたりするんだよ。

それが何度も首を振ってピッチの状況を確認し、ゴール前が空いていることを見逃さずに入ってきてフリーになった。そこの判断力。大井はもうその時点で後手を踏まされちゃったよね。

また上手いのが、イニエスタは全力疾走でゴール前には入ってこないんだよ。軽いジョギング程度のスピードだから、パスのコースが多少ズレたとしても合わせられる。全力疾走で入ってきていたら、パスがズレたらそこで終わりだからね。

実際、ポドルスキからのすごく速いパスは少し弾んで浮いて、イニエスタが本来欲しかったコースとも違った。だけど、トラップから体を回転させてDFとすり替わっていったよね。

ただ、ゴールシーンがクローズアップされるけど、イニエスタのトラップは見ているだけで楽しめるんだよ。ボールを見ないでまわりの状況を確認しながら、足元にピタっと止める。その技術力の高さもだけど、トラップする方向や止める場所に、次のプレーのメッセージがあるよな。そこを見逃さないでもらいたい。

どのプレーもイニエスタにしたら特別なものではないんだけど、彼が活躍することでポドルスキもプレーのクオリティーが上がっているよね。きっと彼のなかには、「なにがイニエスタだ、オレだってやってやるぜ!」という気持ちがあるんじゃないかな。

でも、一緒にプレーするヴィッセルの日本人選手たちには、まだ「スゴイ!」となってる部分があるように思うな。

ぼくも現役時代にW杯の優勝メンバーだったリトバルスキーがジェフに加入した当初は、「スゲー」となったし、チームメートはサインをもらったり、一緒に写真を撮ったりしていたからね。それが一緒に練習して試合をしていくうちにリティの存在に慣れた。そうしたら日本人選手も彼に遠慮せずに堂々とプレーできるようになって、チームはさらに好循環になっていったんだよ。

こんなに暑いなかでも、イニエスタはすでにJリーグで世界最高峰のレベルのプレーをたくさん見せてくれている。これから涼しくなっていけば、Jリーグの試合は自然とスピーディーになっていくから、そこでイニエスタがどんなプレーを見せてくれるのかが楽しみでならないよ。