サガン鳥栖に加入したトーレスについて語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第60回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、サガン鳥栖に加入した元スペイン代表FW、フェルナンド・トーレスについて。先日の天皇杯では待望の来日初得点、そして昨日のガンバ大阪戦ではJリーグ初ゴールを決め、今後の活躍への期待もさらに高まっている。そんなトーレスのここまでのプレーを宮澤ミシェルが振り返る。

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フェルナンド・トーレスが、ようやく来日初得点を決めたね。8月22日の天皇杯4回戦のヴィッセル神戸戦に途中から出場して、左サイドを突破した福田晃斗のパスを、中央に走り込んで右足で合わせてゴール右隅に流し込んだ。絶妙なタッチだったね。リーグ戦のゴールじゃないけれど、この得点でトーレスも少しはホッとしているんじゃないかな。

天皇杯でのゴールでトーレスはホッとしたんだろうな。その週末にあった8月26日のJリーグのガンバ大阪戦は、1ゴール2アシストと得点すべてに絡む活躍を見せて、3対0での勝利に導いた。リーグ戦での初ゴールも決めたし、降格争いのライバルを直接叩いたし、ここからトーレスにはもっと乗って行ってもらいたいね。

トーレスはサガン鳥栖に加わってから、ずっとコンディションは良かったんだよ。J1リーグ戦は7月22日のベガルタ仙台戦でデビューし、その後は6試合連続でスタメン出場。得点こそなかったけれど、去年までよりも自分で打開しようとするプレーが多かった。暑い日本であれだけのプレーができるのは、トーレスが日本で真剣にプレーしたかった心意気が伝わってくるよな。

いいトラップから前を向いたり、突っかけたりと随所で好プレーをしていたし、Jリーグは守備の当たりが弱いから、スペイン時代はやらなかったマルセイユルーレットを見せたりもした。シュートまでのテクニックでもワールドクラスらしさを発揮しているよ。

あと印象に残ったのは、DFに突っかけていき、ペナルティーエリアのなかでアウトサイドで切り返して、シュートしたシーン。切り返しからシュートまでの一連の動きの中で、"間"を置かずにシュートしたあたりがさすがだったね。日本人選手だと、切り返した直後に"間"ができちゃうし、"間"があることでDFは対応できちゃう。そうした世界トップレベルの力は見せてきた。

それだけに早くゴールを取らせてあげたかったけれど、コンビネーションがなかなか合わなかったよね。クロスが上がってくる時にゴール前に走り込むフリをしてキュッと止まって、マークを振り切ったりしても、味方がその動きを予測できていないから、クロスもトーレスの狙いとは違う場所に上がっちゃったりして。

アトレチコ・マドリードでデビューした若い頃のような爆発力はもうないけれど、ベテランになったことでの違った味を見せてくれている。だけど、やっぱりストライカーだからね。ゴールを決めないことには、「騒がれたけど、大したことないじゃん」ってなっちゃう。トーレスがどんなにいいプレーをしていても、クローズアップされないし、見ている人にはなかなか伝わらない。そこが歯がゆいとこなんだよな。

降格圏に沈んでいる鳥栖は、もっとトーレスを生かさないと残留が厳しくなる。そのためには中盤のパサーが必要なんだけど、ちょっと人材が足りないんだよね。だから、トーレスはチームの一員としてチームプレーに徹しているけれど、やっぱりストライカーらしく、もっとエゴイスティックになって、シュートを無理にでも打つくらいでいいと思うよ。

2トップを組む金崎夢生には、トーレスのゴールシーンをお膳立てして「ありがトーレス」ってお礼を言われるくらいのプレーをしてもらいたいと思っているよ。トーレスがリーグ戦でももっとたくさんのゴールを決めるようになれば、トーレスにマークが突くから、金崎だってゴールを決めやすくなるメリットもあるんだからさ。

せっかくトーレスがJリーグに来たのに、来季はJ2ですなんてことは避けてもらいたいから、この2戦で見せた得点をキッカケにして、鳥栖がトーレスのゴールによって浮上することを期待しているよ!