昨季途中にベルギー屈指の名門アンデルレヒトに加入し、エースナンバーの10番を背負う森岡亮太(左)と、ロシアW杯メンバーに選ばれながら出番のなかった遠藤 航(右)

■日本人選手が増えた4つの理由

今、欧州サッカーリーグへの新たな移籍先として、にわかに注目を集めているのがベルギー1部のジュピラーリーグである。

昨季開幕時には久保裕也(当時ヘント、現ドイツ1部・ニュルンベルク)と森岡亮太(当時ベフェレン、現アンデルレヒト)のふたりだったが、今年1月にはリオ五輪世代のFW豊川雄太(オイペン)と東京五輪世代のDF冨安健洋(とみやす・たけひろ/シント=トロイデンVV)が続き、今夏には共にロシアW杯メンバーだったDF植田直通(うえだ・なおみち/鹿島→セルクル・ブルージュ)とDF遠藤 航(えんどう・わたる/浦和→シント=トロイデンVV)のほか、17年11月に日本企業の「DMM.com」が経営権を取得したシント=トロイデンVVがMF関根貴大(せきね・たかひろ/ドイツ2部インゴルシュタット)とDF小池裕太(流通経済大学4年)を獲得。1部リーグに7人もの日本人選手が所属するのはドイツ・ブンデスリーガに続くものだ。

ロシアW杯でピッチに立てなかった植田と遠藤が「現状打破」を掲げて海を渡ったことは想像に難くないが、ベルギーにこれだけ多くの選手が新天地を求めた理由はなんなのか。ベルギー全国紙『Het Nieuwsblad』のステファン・スメット記者はこう話す。

「ひとつは、一昨季から昨季まで久保がヘントでコンスタントにゴールを重ねてきて、それに森岡が続いたこと。森岡は昨季ベフェレンで素晴らしいプレーを見せ、名門アンデルレヒトに引き抜かれてリーグ通算13ゴールを挙げたわけだからね。

ほかのリーグでもそうだが、ある国の選手がひとりかふたり活躍すると、同じ国の選手に対する関心が高まることはよくある。それに、日本とベルギーにおいてはロシアW杯での両国の対戦も見逃せない。ベルギー人が日本の戦いぶりに感心しただけでなく、欧州の小国ベルギーに対しての日本人の見方も変わったのでは」

また、過去に本田圭佑や吉田麻也がそうだったように、これまで日本人選手の欧州移籍の入り口的な役割を果たしていたオランダに比べ、ベルギーはEU圏外選手への最低年俸が低く、日本人選手が移籍するハードルを下げているとの声も。

オランダリーグの最低年俸が約5500万円なのに対し、ベルギーは約1000万円程度とされ、下位のクラブでも外国人選手を格安で獲得できる土壌があるのだ。

加えて、ベルギーには最低6人のホームグロウン(自国育成)選手のベンチ入りが義務づけられているが、若手は3年でホームグロウンと見なされるだけに、実質、外国人選手の人数制限はないに等しく、これも日本人選手移籍の後押しになっている。

だが、前出のスメット記者はこうも指摘する。

「日本人選手が増えたのは間違いない。ただ、現地で話題になっているかといえばノーだ。ベルギーはもともと外国人選手が多いリーグ。日本が特別ということではない」

■激しい競争を勝ち抜き成り上がれるか

9月には新生・森保ジャパンの活動がスタートするだけに、代表候補の植田、遠藤の活躍は特に気になるところだ。今季唯一の昇格チームであるセルクル・ブルージュの植田は、第3節のリエージュ戦で4バックのセンターバック(CB)として初先発してフル出場を果たすと、続くワレゲム戦では終盤に逃げ切りを図るなか3バックの一角として投入されている。現状はCBの3番手だが、それでも本人は初の海外移籍で得るものは大きいと手応えを口にする。

「まだ自分の力を出し切れているとは思わないですし、現状はベンチに座る時間が多くてもマイナスにはとらえていません。実力のある選手がいるからこそ、ポジションの奪いがいがあるし、自分も学びながら成長できる。レベルの高い相手とバチバチやり合えるのは楽しみだし、試合の中で自分がもっとできることをアピールしていきたい」

一方の遠藤は、浦和時代のDFとしてではなくMFとして起用され、すでに2ゴールをマーク。移籍の理由についてはこんなふうに話している。

「対世界ということを考えれば、CBよりボランチで勝負したいという気持ちが強くなってきました。もちろん、CBとしては小柄だということもありますし、それを確信に変えたのがロシアW杯でした。幅を広げる意味でも、ここではまずボランチ、その上でCBもこなせるユーティリティ性を見せたい」

現状、Jリーグとの違いについてはどう感じているのか。

「ボールを持ったらまずは前を見ろで、守備はやっぱり人に行きますよね。いい意味でも悪い意味でも1対1が大事。守備は特にですね(苦笑)」

遠藤が所属するシント=トロイデンVVはすでに4人の日本人選手を獲得している。日本でも話題のクラブだが、ひと言で表せば地方の小規模クラブだ。どの国にも存在する1部と2部を行ったり来たりしている典型的な"エレベータークラブ"といえるだろう。

会長となった村中悠介氏は「できれば5年以内に(上位6チームが進出する)プレーオフ1に残ってヨーロッパのカップ戦出場を目指したい」と高い目標を口にしているが、現地ではどう見られているのか。

「日本の企業だから信頼はしているけど、まだ何をしたいのかは見えないし、評価するのはこれからだね。ヨーロッパの舞台を目指すといっても、すぐにトップ6を目指すのは無理。昨季は10位、その前が12位で、さらにその前が13位だしね。

日本企業がついたことでアンデルレヒトの森岡などの獲得も期待したけど、どうやら資金的に難しいという話だ。ここと首都ブリュッセルのクラブには、資金力で約5倍の差はあるからね。私だって自分の予想が外れることを願っているし、それがサポーターの願いなのも間違いないよ」(地元紙『Het Belang van Limburg』のギュンター・スホーフス記者)

W杯で3位と躍進したベルギー代表選手の多くは、自国のリーグを足がかりに、イングランド・プレミアリーグなどにステップアップを果たしている。もちろん外国から来て、ビッグクラブに引き抜かれる選手も数知れずだ。しかし、毎年のように多くの選手がこの地にやって来ることを考えれば、その波にのまれるリスクも高いといえる。

ヘントの久保は、今季もこれまでと同様に開幕2試合は先発していたものの、結果を出せずにいると3戦目以降は新戦力に押し出され、レンタルという形でニュルンベルクに逃げ場を求めた。森岡にしても、昨季の活躍ぶりから一転、今季は開幕3試合で出場機会はなく、4戦目でようやく初出場を果たしたが、放出の噂は絶えない。

活躍次第で、夢は開けるのがベルギーリーグともいえるが、その裏には厳しい生存競争があるのも事実。果たして、誰が生き残るのか。日本人選手の今後の動向に注目だ。

8月27日発売の『週刊プレイボーイ37号』では、植田、遠藤のほかに、シント=トロイデンVVでセンターバックの一角としてスタメンに定着した冨安健洋、昨季最終節でハットトリックを演じたKASオイペンの豊川雄太、両選手の現地インタビューも掲載している。