日本代表の次世代を担う司令塔として期待される、パナソニックの山沢(中)。代表、チーム内のレギュラー争いを勝ち抜くためにも、今季は勝負のシーズンとなる

8月31日、16年目のラグビートップリーグ(TL)が開幕する。今季は2019年に日本で開催されるワールドカップ(W杯)を控えており、サンウルブズや日本代表の活動に備えるため、例年とは違って年内に優勝が決まる短期決戦となる。

まず、昨季の順位によって16チームが「レッドカンファレンス」と「ホワイトカンファレンス」に分かれ、10月までリーグ戦を行なう。10、11月の代表活動期間を挟んで、12月にカンファレンスの上位4チームずつが1位~8位決定トーナメントに進出し、今年の王者を決める。

優勝候補は、3連覇がかかるサントリー、王座奪還をもくろむパナソニック、悲願の初優勝を目指すトヨタ自動車とヤマハ発動機。そして、15季ぶりの優勝を狙う神戸製鋼あたりとなるだろう。

神戸製鋼には、Jリーグのヴィッセル神戸でプレーするアンドレス・イニエスタと比べても遜色ない"世界的ビッグネーム"が加入した。イケメン選手としても知られる、元ニュージーランド(NZ)代表SO(スタンドオフ)のダン・カーターだ。

36歳のカーターは長短のパス、ラン、タックルのスキルが高く、左足のキックも正確で、ゲームコントロールにも秀でた司令塔。「オールブラックス」ことNZ代表として112試合&4度目のW杯に出場、11年、15年のW杯連覇に貢献している。

11年大会はケガにより途中離脱したが、15年のW杯決勝で優勝を決定づけるドロップゴールを決めるなど輝きを放った。国と国との真剣勝負「テストマッチ」で挙げた1598得点は、現在も世界歴代1位の記録だ。

また、スーパーラグビーでは母国のクルセイダーズでプレーし、3度の優勝を経験した。04年と06年には年間最優秀選手に選出されるなど、15年まで141試合に出場し、通算最多得点記録(1708点)を保持している。

こうした活躍から、カーターはサッカー界のバロンドールにあたる「ワールドラグビー年間最優秀選手賞」に5回ノミネートされ、05年、12年、15年と3度受賞した。3度の受賞は、同時期にNZ代表として活躍したFL(フランカー)リッチー・マコウと並んで最多タイだ。

フランスを経て日本にやって来たカーターは日本でキャリアを終える予定で、「新しいモチベーションを見つけるためやって来た。私のプレーを見ればラグビーをわからない方でも面白いと感じると思います。長い歴史を持ったチームに貢献して優勝したい」と意気込んでいる。

神戸製鋼にはカーター以外にも有力外国人選手が数人加わり、チーム力は大きく増加。なかでも国際経験豊富なカーターは日本人選手にとってもいい模範となり、トーナメント戦に入ればさらに存在感を増すはずだ。

インスタグラムのフォローワーが約87万人いるレジェンドが活躍すれば、W杯に向けて日本ラグビー界の盛り上がりを世界にアピールできるはずだ。その点においても、カーターが神戸製鋼の"優勝請負人"となってくれることに期待したい。

そのほか、NZ代表FLのマット・トッド(パナソニック)やFB(フルバック)のイズラエル・ダグ(キャノン)、南アフリカ代表NO(ナンバー8)のドウェイン・フェルミューレン(クボタ)やFLのクワッガ・スミス(ヤマハ発動機)らが新加入。日本にいながら世界レベルの選手が見られるところがTLの楽しみでもある。

それでもやはり、ラグビーファンは日本代表選手の活躍に期待しているだろう。11月にはNZ代表戦、イングランド代表戦も控えているが、TLから代表選手らしいパフォーマンスを見せてほしい。

BK(バックス)では、昨季のMVPに輝いたFB松島幸太朗(25歳)が、今年もサントリーのアタック陣の要になる。また、20年東京五輪を最後に医者の道に進むことを決めているパナソニックWTB(ウイングスリークォーターバク)の福岡堅樹(けんき)(25歳)は、今年が最後になるかもしれないTLでのスピード感あふれるトライに注目したい。

さらにFW(フォワード)では、昨季はルーキーながらトヨタ自動車の主将としてチームをベスト4に導き、新人賞を受賞したFL姫野和樹(かずき)(24歳)が、2年目も体を張ったプレーでチームを引っ張るはずだ。

W杯に向けて最も注目を集めるのは"日本代表SOのポジション争い"だろう。現在は、キヤノンの田村優(ゆう)(29歳)が卓越したスキルと戦術眼で定位置を確保。2番手としてはパナソニックの松田力也(24歳)がいるが、チームではCTB(センタースリークォーターバック)で、昨季はCTBで「ベスト15」を受賞している。SOとしてどこまでプレータイムをもらえるかはわからない。

そこで、若きSOとして台頭が期待されるのが、エディー・ジョーンズ前日本代表HC(ヘッドコーチ)もスキルの高さに惚(ほ)れ込んだパナソニックの山沢拓也(23歳)だ。高校3年時に日本代表候補に選ばれた逸材は、左ヒザ前十字靱帯断裂など多くのケガを乗り越え、筑波大学4年時にデビュー。3年目となるTLでさらに成長した姿を見せてほしい。

それに続くのは、田村優の弟、サントリーの田村煕(ひかる)(24歳)。昨季はリーグの規定により1年間出場できなかったが、外国人らチーム内にライバルが多いなかで高いパフォーマンスを見せたい。同じサントリーでは、15年W杯で日本代表を3勝に導いたベテランSO小野晃征(こうせい)(31歳)も、代表復帰が待たれる選手だ。

日本代表のジェイミー・ジョセフHCが「TLには目を向けている。可能な限り多くの試合を見ていく」と言うように、今季の活躍次第で、W杯で桜のジャージーを着る選手の顔ぶれが変わる可能性もある。W杯を控えたTLは、世界トップレベルの選手、日本代表、若き才能たちが躍動する姿を見つつ、ラグビーを堪能してほしい!