サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第61回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、カンボジア代表監督に就任した本田圭佑について。宮澤ミシェルも驚いたと語る"現役選手でありながら監督"というチャレンジについて解説してもらった。
*****
本田圭佑はW杯ロシア大会が終わったタイミングで日本代表からの引退を表明。彼がサッカー選手としてキャリア最終章をどう進めていくのかに注視していたら、カンボジア代表監督になるっていうからビックリしたよ。しかも、現役を続けながらっていうんだから。
最初こそ驚いたけれど、すぐに本田圭佑らしいチャレンジだなと思ったよ。彼のこれまでを振り返れば、いつだって他の選手が思いつかない決断をしてきたからね。
オランダ、ロシア、イタリアときて、昨シーズンはメキシコのパチューカでプレー。そして、新シーズンはオーストラリアのメルボルンに新天地を決めた。イタリアは別にして、日本では馴染みの薄い国のリーグを渡り歩いてきた。
世界中のあらゆるサッカーを吸収したいという貪欲な心意気だけでもスゴイのに加えてカンボジア代表監督を選手兼任でやるっていうんだから感服しちゃうよ。
ただ、この選択ができたのも、本田は代表戦で日本に戻るたびに、その帰りにカンボジアへ寄ってサッカースクールを開催してきた。そういう貢献が認められたからこそであって、なにもしてこなかった選手が望んでも実現することではない。
ライセンスの問題などは置いて話をすれば、日本代表選手が日本代表監督を兼任するのはハードルが相当高いけれど、頑張ればやれると思う。だけど、普通に考えたら、現役選手が他国で代表監督はやれないよ。
本田の場合もそうだと思う。10月からオーストラリアのAリーグは開幕するから、10月からはメルボルンでの現役選手としての活動が主体になる。そうなると、代表監督としてはカンボジア代表をなかなか見ることはできない。
今回の本田はカンボジア代表のGMも兼ねているし、ライセンスの問題もあって、実際に監督登録されるのはフェリックス・ダルマス監督がつとめる。本田は実質的な監督として彼に指示を出しながらチームを強化していくんだけど、そういうサポートを頼めるスタッフがいることも彼の特異性だよな。
カンボジアサッカーにしてみれば、本田が持っている人脈をフル活用しながら、まだ見たことのない世界を広げていくことができれば、本田を監督として招聘した意義はあるからね。
ただ、本田が人脈を貸しただけで終わるかといったら、そんなことはないよね。彼は主張が強いからワガママに映ることが多いけれど、実際はチームを一番大事にする男。直接的に指導できる時間が限られていても、手は抜かないよ。
いまだって本田は自分がやっているサッカースクールに直接電話してきて、現場のコーチと熱心に話をするそうなんだよ。サッカーへの情熱が溢れ出ちゃうタイプだから、カンボジア代表でもきっと熱心に教えていくはず。
でも、これが将来的な監督業への足がかりかと言ったらわからないよね。本田には監督としての資質はあると思うんだけど、彼の目線はもっと大局的なところにあるように感じるんだよな。俳優のウィル・スミスと新たなファンドを立ち上げたりしているしね。
彼の目的は、サッカーで"世界をつないでいく"ことだと思うんだ。1チームの監督になってしまうと、そのチームのことしか見られないけど、彼はこれまでのサッカーキャリアで培ってきた人脈を活かしながら、いろんなチームに携わりたいタイプ。だから、コーディネートする能力を活かす方向に進むような気がしているよ。
日本サッカー界の常識にとらわれずに、開拓者として新たなフィールドを突き進む本田圭佑からは、これからも目が離せないよ。