61年前のセンバツ優勝から甲子園100回記念大会を語る王 貞治氏と江夏 豊氏

21年の長きにわたり、週刊プレイボーイの連載コラム『アウトロー野球論』の中で歯に衣着せぬ直球を野球界へ投げ込んできた江夏 豊氏。

9月10日発売の『週刊プレイボーイ39・40合併号』では、その連載が1000回を突破したことを記念し、現役時代に"球史に残る名勝負"を繰り広げてきた王 貞治氏をスペシャルゲストに迎え、野球談議に花を咲かせる――。

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江夏 お久しぶりです。

 久しぶり。連載が1000回なんだって?

江夏 そうなんです。これが通過点なのか、これで終わりなのかはわからないですけど(笑)。年数でいえば21年になります。

 21年もすごいねえ、この実績は。大したもんだ。

江夏 その記念に、ぜひ王さんにご登場いただきたいと思いまして。今日はよろしくお願いします。

 はい、よろしく。

江夏 まずは、王さんも高校時代に活躍された甲子園に関して。この夏の第100回記念大会は見られましたか?

 見た。盛り上がってたねえ。優勝した大阪桐蔭はじめ、みんなすごかった。それこそ、100年の積み重ねで野球のレベルが上がって、われわれの18歳の頃に比べて全然違うよね。

江夏 野球自体もどんどん変わってきましたよね。

 訓練もされてるし、食事も含めた生活様式もよくなった。体が強くなって、昔に比べると足も速くなってるよね。

江夏 そうですね。あらゆる面でレベルアップしてますけど、僕の場合は甲子園は出てませんから。この年になっても、甲子園でプレーしている球児たちは憧れなんです。

 そうねえ、僕も子供の頃は甲子園に憧れたし、そこだけを目指して野球をやってた。自分の将来のためにどうこうとか、なかったな。近頃は初めから甲子園の先にあるプロが見えている選手がいるかもしれないけど、昔は高校野球を始めたら、とにかくなんとかして甲子園に行きたい、という思いだけだった。

江夏 もうそれだけでしたよね。その点、王さんは早稲田実業で1年の夏から甲子園に4度出場されて、第29回の春の選抜大会(57年)で優勝投手になられてますね。

 うん。その選抜のときはね、「あれよあれよ」という間に勝ち上がって、4日間で4試合を投げたんだよね。

江夏 全試合、完投ですか?

 そう。だから考える間もないんだよね。ただ毎日、毎日投げるだけ。完封、完封、完封、完投だったかな。決勝は8回に3点取られたけど、一応、最後まで放ってね。でも、優勝なんて考えてないんだよ。だから今、あらためて思うんだけど、今回の、あの吉田(輝星[こうせい])君?

江夏 はい、金足農業の。

 彼もそうだし、早実の後輩の斎藤佑樹(現日本ハム)。彼らは大会中にグッ、グッ、グッと伸びたね。僕もたぶん、大会中に伸びたんじゃないかなと思う。

江夏 「甲子園には魔物が棲んでいる」とよくいわれますけど、魔物もいれば、そのようなすごい力を与える神もいる、ということですかね。

 そうだろうね。高校野球のファンの人たちからすると、見ているうちに「前の試合よりも今日の試合、次の試合」って、選手がどんどん成長していく姿が見られる。それがファンの人にはたまらないんじゃないかな。

江夏 確かにたまらないと思います。ただ、それがちょっと異常な盛り上がりにつながっていく部分もありますね。

 そうかもしれない。例えば今、「球数を多く投げて壊れたらどうするんだ」なんてことがいろいろ話題になってるけど、僕は、彼らがやりたいのならいいじゃないかと思う。その子の将来的なことまで周りが心配する必要ないんだよ。本人がやりたいからやる、やりたくなかったらやめればいい。あんまり、これはいかん、あれはいかんと言わなくていいと思う。

江夏 ルール、ルールで縛るのはよくないですよね。

 高校球児にとっては、甲子園がひとつのゴールなんだから。先のことは考えないで一生懸命にがんばって、勝ったらまた次の試合っていう、それだけだもんね。

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その後、「投手・王貞治」として巨人入りした王氏が味わった挫折。さらに川上監督時代の巨人V9から盟友・長嶋茂雄についてまで、『週刊プレイボーイ』39・40合併号(9月10日発売)「『江夏豊のアウトロー野球論』連載1000回突破記念!! 王貞治×江夏豊」で語っている。

●王 貞治(おう・さだはる)
1940年5月20日生まれ、東京都出身。独特の一本足打法を駆使してホームランを量産し、65~73年の巨人の9年連続日本一に貢献した。国民栄誉賞受賞者第1号(77年)であり、2010年には文化功労者として顕彰された。通算本塁打868本の世界記録を保持。現在は福岡ソフトバンクホークス株式会社取締役会長兼GMを務める

●江夏 豊(えなつ・ゆたか)
1948年5月15日生まれ、兵庫県出身。大阪学院大学高校卒業後に阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ