目標は、日本人史上最高の選手──。弱冠19歳にしてオランダリーグで結果を残し、新生・森保ジャパンのエース候補に堂々と名乗りを上げた堂安律(どうあん・りつ)。
間もなく、『週刊プレイボーイ』で連載をスタートする天才レフティを現地で直撃した。
* * *
昨夏、ガンバ大阪からオランダ1部リーグのFCフローニンゲンに移籍すると、早々に定位置をつかみ、29試合9ゴール4アシストと結果を残した堂安律。移籍1年目にして主軸となり、サポーターが選ぶクラブのMVPにも選ばれた。
ロシアW杯出場こそ逃したものの、世代交代が叫ばれる"日本代表の次世代エース"として期待を集める20歳のアタッカーは、欧州2年目のシーズンを迎え、何を思うのか。
■チームメイトのことを考えるのは自分のため
8月12日に行なわれた2018-19シーズンのオランダ1部リーグ開幕戦、フローニンゲンは敵地でフィテッセに先制を許すも、一時は堂安の今季初ゴールで同点とした。
しかしその後、守備が崩壊して1-5と大敗すると、続くホーム初戦となったヴィレムⅡ戦も0-1で敗戦。堂安にとっては幸先よくシーズン初ゴールが生まれたものの、試練のスタートとなった。
それでも、第3節のデ・フラーフスハップ戦では、堂安のロングパスを起点とした攻撃から決勝点を挙げ、1-0と勝ち切り今季初勝利。堂安自身のコンディションも上々なだけに、今後はさらなる活躍が期待できそうだ。
──シーズン開幕の心境は1年前とはだいぶ違ったようですね。
堂安 やっぱり、1年間やってきたことで心に余裕が生まれましたし、いい意味で自分に自信が持て、程よい緊張感を持ちながら、ポジティブなメンタルで開幕を迎えることができました。
例えば昨季はよくも悪くも一生懸命で、チームメイトのことを考えている余裕などなかったですが、今は「アイツ、調子悪いんかな?」とか「アイツ、ビビってる?(笑)」とか、周りの選手がどんなことを考えているのかも感じられるようになりました。
もちろん、周りを見ているのは、あくまで自分のためなんですけどね(苦笑)。周りの選手に合わせて、自分がポジションを変えることで、自分がより生きる。これは日本にいたときにはなかった感覚です。
──視野が広がったことで、より自分がチームで生きるようになったということ?
堂安 どうやってチームで生きていくかにフォーカスしたら、自然と周りを見なければと感じたんです。まあ、結局は自分が好きだし、チームが勝てばオレも目立つじゃないですか。この感覚に気づけたのは、昨季のラスト5、6試合ですね。
──開幕からここまでを振り返っての手応えはどうですか?
堂安 正直、ストレスがたまりました。開幕戦もその次の試合も、あまりボールに触れられなかったので。ロングボールを使って放り込みをするなら、オレを代えてセンターバックを入れたほうがいいんじゃないかと思ったりしましたよ。
ただ、そんななかでも必ずチャンスは来るぞ、というメンタルでいられたので開幕戦でゴールを奪えました。サッカーがやっとわかってきたという思いもありますし、このチームでは自分がやらないとダメだとも感じています。
──フィテッセとの開幕戦でのゴールは、右からの低いクロスにワンタッチで合わせたもので、「昨季までにはなかった形」とも話していました。
堂安 昨季はミドルシュートやドリブルで相手を何人かかわしたキレイなゴールが多かったですが、やっぱりワンタッチゴールを増やさないとシーズンを通して15点、20点決められる選手にはなれない。
メッシにしてもそうだし、最近のC(クリスティアーノ)・ロナウドなんて特にそんなゴールばっかりですよね。だからこそ、そうしたゴールの必要性を感じて臨んだ開幕戦で、自分の考えていることをすぐに形にできたのはよかったです。
──オフには完全移籍となり、フローニンゲンと2021年までの契約を結びましたが、そのことで何か変わりましたか?
堂安 去年の今頃はガンバからの買い取りオプション付きのレンタル契約だったので、ホントに生きるか死ぬか、練習生のようなメンタリティでここに来ましたからね。
正直、去年は表に出さなかったですが、「結果を出さないといけない」という気持ちが常に頭の中にあったというか、そればかり考えていました。ただ、気持ちに余裕を持ちすぎても成長できないし、今年はそのへんのバランスを考えながらプレーしたいです。
──今季のチーム、および個人の目標はどのように考えていますか?
堂安 チームとしてはトップ6に入りたいと思っています。チームが上に行けば行くほど、それが自分のためになるので。個人としては、昨季よりも1点でも多くということで、まずは2桁ゴールを狙いたいです。
―最低でも10点ということ? 昨季の数字を考えれば、もう少し上の数字も狙えそうな気もしますが......。
堂安 いや、「最低10点」っていったらどこかで高望みしてしまうので、まずは10点(笑)。高望みは焦りにつながりますし、ネットなどでは「2年目のジンクスに苦しむ」みたいにも言われているようなので、そういう声に対して反骨心を持ってプレーしていきたいと思います。
■悔しかったW杯落選。同年代の活躍が刺激に
自身もサプライズ招集を期待していたというロシアW杯は、残念ながら招集されず。悔しさもあり、大会前には映像を「見たくない」とも話していた。そんな堂安がW杯とどう向き合ったのかも気になるところだ。
──あらためて、ロシアW杯行きを逃したことについてはどんな思いがありますか?
堂安 やっぱり、サッカー選手として目指すべき場所なので、悔しかったですよ。もちろん、昨季は自分自身これ以上の結果は出せないんじゃないかと思うくらいの結果を出して、それなりの手応えも感じていたので、「これで無理だったら仕方ない」という思いと、「なぜ?」という気持ちが半々。
それこそ、シーズンが終わってメンバー落選のことについて自分なりにゆっくり考えましたが、仮にオレがドイツで9点取っていたら間違いなく選ばれていたんじゃないかなと。
今はそんな考えは消えましたが、そのときは「オランダリーグだから落選したのか?」と思ってしまった自分もいました。結局、ポルトガルリーグやベルギーリーグでやっていた選手は全員外されたわけですから。
もちろん、それはリーグのレベルも関係しているので仕方ないんですけどね。だから、今は早く次のステップに行って、誰にも文句を言わせないくらいの結果を出してやるというモチベーションでいます。
──素朴な質問ですが、結局W杯は見ましたか?
堂安 本音では見たくなかった。でもW杯が始まれば、いちサポーターとして応援していましたね。やっぱり、見ちゃうと何かこみ上げてくるものがありました。
ベルギー戦にはすごく感動させられましたし、誰もが応援したくなるような試合を日本代表がしてくれたことも大きかったですね。そこでダメな試合とかされたら、「なんでねやん」って思ったかもしれないですけど。
──できることはやったから、すっきりと見られた?
堂安 すっきりはしてないですし、もちろん「選べよ」って気持ちはありました。ただ、そればかり言っていてもしょうがないので。
これは新しいシーズンが始まったからこそ言えるのかもしれないですけど、オレがもしロシアW杯へ行っていたら、今頃調子に乗っていたかもしれないですし(笑)。そういう意味では、今はいい経験になったと感謝しています。
――以前から活躍ぶりを気にしていると話していたフランス代表のFWムバッペやウルグアイ代表のMFベンタンクールら同世代の選手の活躍もありました。
堂安 正直、日本代表を見るよりもそういうヤツらを見るほうが悔しかった。韓国代表でいえば(同じ98年生まれで、アンダー世代の頃から何度も対戦してきた)FWイ・スンウが10番つけて試合に出ているのを見たら、「オレでもできたやろ」と思っちゃいましたよね。
W杯の試合結果を伝える番組はそういう選手を褒めまくるので見ないようにしていました(笑)。もちろん、次に進むためにも、そういうことも受け入れないといけないのはわかっていますけど。
──W杯を見た上で、サッカー選手として20歳という年齢をどうとらえていますか?
堂安 いろんな人と話をしていて「まだ若いんだから」と言われますけど、そうした考えは変えたほうがいいんじゃないかと思います。サッカーは年齢じゃないという割にそういうことを言う人が多い。
でもW杯のムバッペのプレーぶりを見れば、サッカーに年齢は関係ないってわかりますよね。単純にうまい選手が試合に出て、上のステージに行くってことじゃないですか。
――将来的なキャリアについては、割と遠くまで描いていると言っていましたよね。
堂安 オレの中では明確ですね。でも、絶対言わないです(笑)。もちろん、このままフローニンゲンにい続けたら、どこかで満足してしまう部分も出てくるので、いいタイミングでハイレベルな場所に行きたいとは思っています。そのへんの考えは、今後の連載の中で少しずつ出していければ。
プレーに関しては見てくれればわかると思いますが、自分の考え方は言葉にしないとわかってもらえない。「堂安律ってそんなことを考えているのか!」と思ってもらえるような、自分なりの考え方や思いを伝えていけたらと思います。
●堂安律(どうあん・りつ)
1998年6月16日生まれ、兵庫県出身。オランダ1部のFCフローニンゲン所属。ガンバ大阪の下部組織出身。2015年6月3日、16歳11ヵ月18日でJ1でのクラブ史上最年少デビューを果たした。
2016年にはアジア連盟の年間最優秀ユース選手に輝き、翌年の夏にオランダへ渡った。海外挑戦1年目の昨季はリーグ戦29試合に出場して、9得点4アシスト