サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第63回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、風間(八宏)監督が率いる名古屋グランパスについて。Jリーグ前半戦を終えた段階では、2勝しかできず最下位だったものの、後半戦が始まると破竹の7連勝を達成! なぜ名古屋グランパスは快進撃を遂げられたのか、その要因を宮澤ミシェルに聞いた。
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はたから見れば、どのクラブを率いている監督もやっていることは同じように映るかもしれない。だけど、強豪クラブを率いて負けられないプレッシャーと戦うのが向いている監督もいれば、下位チームでジャイアント・キリングを起こすのに快感を覚える監督もいる。中堅チームをリーグ戦の台風の目になって3位、4位になれればいいという監督もいる。
もし僕が監督をするならやっぱり優勝を狙えるチームを率いたいよ。だけど、チームというのはどんなレベルにあっても、それなりにメンツが揃っていないと勝てない。いまの名古屋グランパスを見たら、それがよくわかるよな。
風間監督のもとで今季からJ1に戻ってきた名古屋は、開幕前に元ブラジル代表のジョーを獲得したことで上位を狙えると見る向きもあった。
だけど、そう簡単には問屋は卸してくれなかったよね。開幕から2連勝スタートを切ったけど、その後は黒星続き。前半戦を終えた時点では2勝4分11敗。勝ち点はわずか10での最下位だった。
それがW杯の中断期間中にCBに中谷進之介と丸山祐市を獲得し、左SBに金井貢史、中盤の底にエドゥアルド・ネット、攻撃的なポジションには前田直輝を獲得した。しかも、補強した選手のクオリティーが単に高いだけではなく、その中でも風間監督のサッカーに合う選手を獲ったことが大きかったね。
やっているサッカーは前半戦と同じだけれど、選手の質が高くなれば試合内容が変わるのは当然のこと。新たに獲得した選手たちがすぐにチームにフィットして、後半戦8試合で破竹の7連勝(1分け)。現在、連勝はストップしたが勝ち点21を荒稼ぎして一気に降格圏から脱出しつつある。
ジョーも前半戦は17試合で6得点だったけれど、後半戦は7試合で12ゴール。前半戦はチーム状況が悪かったから、なんでもかんでも自分でやろうとしていたけれど、後半戦は味方がチャンスをつくってくれるから、ゴール前で待ち構えることができている。
DF陣も失点はしているけれど、攻撃力で失点を補うのが風間監督のサッカーだからね。前半戦は得点を取りに行って、ゴールに繋げられないでミスから失点が増えたけれど、後半戦は得点を取りに行ったら決め切れている。
そのポイントになっているのが新加入した前田直輝だよ。松本山雅がよく放出したなと思うけれど、彼が右サイドにハマった。右サイドからチャンスを作れるし、左サイドからの崩しのときにはゴール前でシュートを狙う。相手が前田をマークするから、ガブリエル・シャビエルは自由にプレーできるようになったし、ジョーはゴール前での存在感を発揮すればいいだけになったんだ。
風間監督のサッカーは極論すれば、ボールを保持して攻撃し続ければ、守備は必要ないっていうものだし、その根底にはチケット代に見合うだけのサポーターの喜ぶサッカーをしようという高い志がある。いまは、ようやく少し形になり始めたところだよね。
こうした姿勢は、バルセロナでヨハン・クライフが取り組んだのと同じ。ドン引きで守って、カウンターで勝つだけのサッカーは観客にとっては退屈なだけだってことでクライフはポゼッションサッカーをやって、夢のようなサッカーを現実に築きあげた。
J1リーグは優勝するために攻守のバランスを取るチームが多いけれど、名古屋が風間監督の攻撃的なサッカーに徹して優勝したらロマンがあるよ。
今年の優勝はもう無理だけれど、いまやっているサッカーに、さらに質の高い選手を上積みすることができれば来シーズン以降は実現するんじゃないかな。それができるだけの資金力があるクラブだし、ビッグクラブが確固たるポリシーのもとで自分たちのスタイルを構築することは、日本サッカーにとってはいいことだからね。
ただ、まだ今シーズンの戦いは残っているし、名古屋の連勝が単なる勢いか、それとも本物なのかは見守っていきたいよね。これが本物だとしたら、ここから先どこまで熟成させていけるのかによって、来季の行方が見えてくるから。
まあ、小難しいことは置いておいて、いまのJ1リーグで、あれだけ攻撃的なサッカーでエンターテインメントとして見ていて楽しいサッカーをする名古屋の試合を見逃さないでもらいたいな!