記者会見はバラエティ番組ではないんだから、記者が聞きたいことを聞くべきです 記者会見はバラエティ番組ではないんだから、記者が聞きたいことを聞くべきです

テニスの全米オープン女子シングルスで、大坂なおみが初優勝を果たした。

日本人が四大大会のシングルスで優勝するのは男女通じて初。注目度も高く、帰国後の記者会見ではさまざまな質問が上がり、物議も醸した。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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いろいろと話題になっている大坂なおみ選手の記者会見。くだらない質問が多すぎると批判もあるようです。アメリカでの記者会見の映像も見たのですが、例の名前の由来だとか、賞金は何に使うんだとか、試合以外のことを聞く人もいる一方で、セリーナ選手が主審に抗議したときは本当に聞こえていなかったのかと食い下がって聞く記者もいました。

日本の記者会見では試合の内容について突っ込んで聞く質問は確かに少なく、海外通信社のAFPくらい。ほかはテレビ局が多かったせいか、とにかく「チャーミングでゆるい大坂選手」を引き出そうという狙いが強かったように思います。テレビ局としては、独特のとぼけた感じで笑顔を見せる映像が欲しかったんでしょう。

日本人らしさについて尋ねたハフィントンポストの記者の質問内容が曖昧だったために通訳が誤訳し、大坂選手が「それって質問なの?」と困惑する場面もありました。

ハフィントンポストの別の記者によると、質問した記者は「大坂選手の活躍で海外の古い日本人のイメージが変わると思うか?」と聞きたかったんだけど、通訳が「海外はあなたを古い日本人のイメージでとらえている」と誤訳。「テニスのこと?」と意味をとらえかねた大坂選手が「私は私。テニスは日本らしいプレーではないかも」と答えました。

このやりとりを「失礼な質問だ」と批判する声があるけど、私はそうは思わないなあ。質問がへたすぎたことは確かだけど、記者会見はバラエティ番組ではないんだから、どんなことでも、記者が聞きたいことを聞くべきです。

ただ、海外での日本人のイメージの変化について彼女に聞いても的外れ。あえて聞くなら、彼女自身が自分と日本との結びつきをどのように意識しているかじゃないのかな。日本とハイチにルーツを持ち、アメリカで育った大坂選手はきっと多くの日本人にとっては「変わった日本人」。

2017年にノーベル文学賞を取ったカズオ・イシグロさん(英国籍)のときもそうだったけど、日本で育った期間が短く、日本語もあまりしゃべれない人は、日常生活では「日本人」として受け入れられないのに、世界的な評価をされた途端に「あの人は日本人だ!」と親近感を抱く。

そういう矛盾した、というか現金な反応をする人が多いのは、日本人らしさという謎のイメージにこだわる習慣ゆえ。国籍や人種や出身国がいろいろでも、人は自分が何人であるかを他人にどうこう言われる筋合いはないし、自分と文化とのつながりは超個人的な形で育まれるもの。それを引き出す質問であれば良かったと思います。

そもそも他人の手柄で自分を誇ろうとすること自体が厚かましくない? 彼女の偉業は彼女のもの。私は大坂選手が日本だからではなく、彼女が成し遂げたことをたたえたいです。

●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など

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