バルセロナを長年支えたイニエスタを中心としたポゼッションサッカーの実現には課題も

9月17日、Jリーグ神戸は吉田孝行監督をチーム強化スタッフに転身させ、スペイン人のフアン・マヌエル・リージョ氏(52歳)を新指揮官に迎えると発表した。

神戸は頻繁に監督のクビが飛ぶことで知られる。今回の交代劇は直近のリーグ戦での3連敗が直接的な原因ではあるものの、どうやらシーズン当初からの既定路線だったようだ。スポーツ紙神戸番記者のA氏が打ち明ける。

「今季開幕時、すでにフロントが水面下で後任探しを始めていて、番記者の間では『吉田監督は秋まで持たないだろう』とささやかれていました。それでも彼は、現役時代に神戸で主将も務めたクラブのレジェンドで、三木谷浩史会長のお気に入りでもあるので、解雇にはならず"異動"で済んだのです」

もはや神戸のお家芸ともいえるシーズン途中の監督交代だが、選手に慕われていた兄貴分的存在の吉田氏までがその犠牲になったとあって、クラブ内には静かな怒りが渦巻いているようだ。

「表立っての会長批判こそないものの、『いろいろ思うところはある』と漏らす選手やフロントスタッフはけっこういます。解任時の順位は8位でしたが、過去のリーグ戦終了時のクラブ史上最高順位は7位。決してひどく低迷していたわけではありませんでしたからね。三木谷会長が唱えるクラブの"バルセロナ化"の犠牲になった形です」(A氏)

後釜に決まったリージョは、バルサでのプレー経験も指揮経験もない。しかし、バルサ出身で"現代最高の名将"と称されているグアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)が、師と仰ぐスゴ腕監督なのだそうだ。サッカージャーナリストの西部謙司氏が言う。

「神戸がバルサ化を目指すのなら、ドンピシャの人選ですね。彼は世界中のポゼッション志向の指導者から信奉される存在。まず自分たちがボールを持つことを出発点にしていて、パスがよくつながり、相手を徹底的に押し込むスタイルが身上です。最近のバルサは以前ほど圧倒的なボールポゼッションをしていないので、リージョのサッカーはある意味、バルサよりもバルサらしいといえるでしょう」

だが、「ただし」との注釈も。

「彼のサッカーを実現するには、選手ひとりひとりに高度な技術が求められます。敵のプレッシャーを受けない適切なポジションを取り、正確にボールをコントロールし、高い精度のキックでパス、これを90分間続けるわけですから。監督として渡り歩いたクラブではほとんど結果を残せず、1シーズン前後の短期でクビを切られることが多かったのは、彼の要求に応えられる選手を数多くそろえられなかったからでしょう」(西部氏)

今の神戸に、リージョの眼鏡にかなう選手はいるのか。

「イニエスタ、ポドルスキはもちろんOK。日本人なら藤田直之、三田啓貴(ひろたか)、郷家友太(ごうけ・ゆうた)、古橋亨梧(きょうご)あたりはやれそうですが、残りの選手に今からどれだけ伸びしろがあるかというと......」(西部氏)

では、神戸らしく、大金を使ってよそから選手を買ってくるっていうのは?

「現実問題として、手っ取り早くバルサ化を実現するにはそれが一番の解決策。今季は現有戦力の見極めで終わってしまうでしょうが、来季の神戸はがらっとメンツが替わっているかも。Jリーグでも彼のサッカーに合いそうな選手は少なからずいるし、ひょっとしたらバルサの下部組織出身の外国人選手が2、3人加入したとしても不思議はありません」(西部氏)

果たして、神戸が本家バルサのその先を行くスタイルを披露できる日は来るのか?