10月27日のフェニックス・サンズ戦の第4クオーター残り4分31秒から出場し、2得点2リバウンドをマークした渡邊雄太

2004年の田臥勇太以来、日本人史上ふたり目のNBAプレーヤーの誕生だ。

デビュー戦の興奮冷めやらぬなか、米国在住のスポーツライター・杉浦大介氏が、身長206cm、規格外のオールラウンドプレーヤー・渡邊雄太(わたなべ・ゆうた)を直撃した。

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■予想外の早さで「歴史的瞬間」は訪れた。

メンフィス・グリズリーズと「2ウェイ契約」を結んでいる渡邊雄太が、10月27日(現地時間)に本拠地テネシー州メンフィス(米国)で行なわれたフェニックス・サンズ戦でNBAデビュー。第4クオーターの残り4分31秒から出場すると、フリースローでの2得点と、2リバウンドをマークしてチームの勝利に貢献した。

日本人選手のNBA出場は、2004年にサンズでプレーした田臥(たぶせ)勇太以来14シーズンぶり2度目の快挙。世界最高の舞台を目指して高校卒業後に渡米した男は、24歳にして夢を叶(かな)えた。

渡邊が交わした2ウェイ契約は、Gリーグ(マイナーリーグ)に所属しながら、シーズン中にNBAに45日間昇格が可能というもの。しばらくはGリーグのチームで経験を積む見方もあったが、わずか開幕5試合目でNBAデビューを飾った。

チーム内に多くのケガ人が出たことが昇格の最大の要因だが、トレーニングキャンプやプレシーズンゲームで、実力と適応能力が認められたのも大きかった。

合計4試合に出場したプレシーズンで、NBAのパワー、スピードに引けを取らないことを証明。得意の守備でも、複数のポジションで相手のエース級の選手とマッチアップできることをアピールしていた。

その働きを見て、「早いうちから使っていけば今季中に戦力になる」と首脳陣が考えたのかもしれない。能力が認められれば今後もプレー時間は確保されるだろうし、グリズリーズから本契約をオファーされる可能性もある。

果たして、"夢を叶えた男"はどんなNBAキャリアを紡いでいくのか。デビュー戦を終えた後の渡邊に電話インタビューを行ない、コートに立った瞬間の気持ちや今後について聞いた。

■NBAデビューはおまけみたいなもの

――今の率直な気持ちは?

渡邊 素直にうれしいです。ずっと目標としてきた舞台ですし、そこで約4分でもプレーができて点も取れた。今日の試合は、自分の記憶の中にずっと残るでしょうね。

――コートに立つときは緊張しませんでしたか?

渡邊 タイムアウト中に、コーチに名前を呼ばれたときが緊張のピークでした。でも、コートに入ると思ったより落ち着いていましたね。「とにかく自分ができることを一生懸命やろう」と考えていたので、コートに入ったら緊張が解けていました。

――サマーリーグ、プレシーズンでは、「ここが目標ではない」と言い続けていました。実際にシーズン中にコートに立ったことで、NBA選手としての実感は湧きましたか?

渡邊 肩書は「NBAプレーヤー」になって、当然うれしい気持ちもあります。ただ、(点差が)20点以上開いて残り4分になり、コーチに「試合に出ていない選手を使おう」という意図があったことは明確でした。

だから今日はおまけみたいなもので、チームメイトのみんなが頑張って点差を開けてくれて、コートに立たせてくれた。自分が必要だからコートに送り出されたというわけではなかったので、まだまだ満足はしてません。スタートラインに立っただけ、という感じです。

――NBAデビューは"到達点"ではないと。

渡邊 NBAのコートに立つことだけが自分の目標ではなかったので、もっと重要な時間に試合に出ること、ローテーション入りを果たすことが、今後の目標になります。

――記念すべき初得点がフリースローだったことは?

渡邊 初得点の形にこだわりはなくて、フリースローでもレイアップでもダンクでもなんでもよかった。今回の試合では自分がガードの選手にマークされていたので、身長のミスマッチをついていこうとアグレッシブに攻めた結果、フリースローを2本得られました。当たり前なんですけど、それを2本とも決め切れたのはよかったと思います。

――初得点を決めた瞬間には笑顔も見えましたね。

渡邊 ただ出るだけか、少しでも数字を残して終わるかでは、やはり印象が変わってきますからね。

――ファーストブレイクからのアリウープは、残念ながら失敗に終わりました。

渡邊 チームディフェンスをしっかりやった後に速攻の先頭を走ることは、常に意識してやってきたことです。自分が走ることによって味方がオープンになるし、自身の得点にもつながる。今日は失敗しましたけど、ああいうチャンスは今後もあるでしょうし、継続していきたいです。

■田臥さんの偉大さをあらためて感じた

――少し話は戻りますが、今日の試合に選手登録されると聞いたのはいつでしたか?

渡邊 最初は火曜日(10月23日)ぐらいに、Gリーグのコーチから「可能性があるよ」と言われました。それはあくまで「可能性」だったんですけど、いつ呼ばれてもいいように準備はしていました。そして正式に「明日、ユニフォームを着る」と言われたのは前日の夜くらいです。

――その瞬間の気持ちは?

渡邊 正直、まだ(メンバーが)変わる可能性はあると思っていたので、その時点で特別な感情が生まれたわけではありません。ベンチ入りの実感が湧いたのは、ロッカールームに入ったとき。自分のユニフォームがロッカールームにかかっていたときに、「ああ、本当に自分がベンチ入りするんだ」と思いました。

――デビュー戦の対戦相手が、田臥選手が属したサンズだったことについて何か思うところはありましたか?

渡邊 田臥さんが所属したチームとやれたことはすごくうれしいです。自分もここに来るまでかなり苦労したので、日本人が誰も成し遂げていなかった状態からNBAのコートに立った田臥さんが、どれだけすごい選手で、どれだけ努力されてきたかを身をもって感じました。

0から1にするのと、1から2にするのでは難しさが全然違う。田臥さんはもともと尊敬している方なんですけど、その偉大さをあらためて実感しました。

――両親、コーチ、チームメイトから何か言葉をかけられましたか?

渡邊 デビューを知った両親はすごく喜んでくれて、「コートに出たら思い切りプレーしておいで」と伝えられました。試合でもその言葉を胸に、思い切ったプレーができたと思います。

チームのみんなは、試合後に「本当におめでとう。今日の試合は一生記憶に残るよ」と言ってくれたんですけど、あくまでここはスタート地点。自分でも、これぐらいでチヤホヤされたくはないですし、これからもNBAという舞台でいろいろな思い出をつくっていきたいと思っています。

――これからどんな選手になっていきたいですか?

渡邊 まずはディフェンス面で信頼してもらうところから始めたいです。グリズリーズはディフェンスがいいチーム。自分もその一員として、チームディフェンスに貢献できるような守備力を身につけたいですね。

オフェンス面では、オープンシュートを正確に決めることができたら、出場機会が増えていくと思います。そのふたつをしっかり伸ばしていかないといけません。

――渡邊選手に勇気づけられただろう、日本の子供たちに伝えたいことは?

渡邊 簡単な道ではなかったですけど、ずっとNBAを目標にして一生懸命に努力をして、ここまで来ました。夢は叶えられるということを、まだ第一段階ですが証明できたと思います。

NBAという夢を持っている高校生、中学生、小学生、これからそれを目標にする子供たちも、ひたすら努力して夢を追いかけ続けてほしいです。

●渡邊雄太(わたなべ・ゆうた) 
1994年生まれ、香川県出身。高校卒業後に渡米し、ジョージ・ワシントン大学に進学。昨季は所属カンファレンスの最優秀守備選手に選出。高い守備力と正確なシュートが持ち味のサウスポー。両親ともに元実業団所属のバスケ選手。身長206cm、93kg