サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第70回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、J1の残留争いについて。昨年は上位だったチームが降格の危機にさらされるなど、例年にも増して熾烈を極める残留争いを宮澤ミシェルが解説する。
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佳境を迎えたJ1リーグは、降格圏をめぐる争いが例年にも増して熾烈だよ。31節を終えた時点(名古屋グランパスとセレッソ大阪のみ30節)での最下位は、勝ち点29のV・ファーレン長崎。その上の17位に勝ち点33の柏レイソル、16位に勝ち点34で名古屋と続く。16位ならJ1残留の可能性を残すプレーオフに回れるけど、17位なら自動降格になる。
現状はこの3クラブが降格圏内にいるけど、その上には、F・トーレスを擁するサガン鳥栖が勝ち点36で15位、ルヴァンカップを制した湘南ベルマーレが勝ち点37で14位にいて、このあたりまでが降格の危険性があるんじゃないかな。
例年なら勝ち点38が残留ラインと言われているから、31節終了時点で勝ち点38の11位に位置する横浜Fマリノスは、ピンチを脱したと見ていいだろうね。
そして、ついこの間まで降格圏にいたガンバ大阪は、気づけば勝ち点42で9位。8月末の時点で最下位に沈んでいたことを考えれば、宮本(恒靖)新監督のもとで守備を再構築したのが大きかった。
7月末にレヴィー・クルピ監督に代わってチームを率いた当初は苦しんだけれど、今野泰幸の復帰や新たに獲得した渡邉千真、アジア大会から好調を維持するファン・ウィジョの活躍もあって、9月から7連勝をマークして勝ち点を一気に21点も積みあげたのが効いたね。
30節終了時点で12位だったヴィッセル神戸はどうなるかと思ったけど、31節はイニエスタの見事なアシストからポドルスキのゴールもあって名古屋との一戦に勝利。これで、勝ち点40に到達して11位に浮上したことで、こちらも降格圏を脱したと思っていいんじゃないかな。
磐田も2位と上位に位置する広島に勝利してヴィッセルと同じく勝ち点40にまで積み上げた。やっぱり名波監督は残留争いを戦った経験があるし、川又堅碁などの経験値の高い選手が揃っている強みが出たんじゃないかな。
現時点で最下位の長崎はすごく頑張っているけれど、戦力的に苦しいのは否めないね。あの暑かった夏場で一気に疲れが出て黒星が増えたのが痛かった。選手にボディブローのように効いて守備での圧力が弱まってしまったよね。
残り3戦では横浜、G大阪、清水を相手に3連勝できれば、勝ち点38。これを現実のものにするには、攻撃陣が複数得点を奪えるかがポイント。攻撃陣が先制点を奪い、追加点を決めて守備陣を助けて、奇跡を起こしてもらいたいな。
昨季4位だった柏だけど、残り3試合の対戦相手は今季のACL決勝進出を決めた鹿島、そしてG大阪とC大阪。かなり厳しい状況に追い込まれたけれど、苦しい状況を打破するだけの攻撃陣は揃っているから、それを活かせるかが残留へのカギだろうね。FWクリスティアーノをもっと相手ゴール前でプレーさせて、相手DF陣に脅威を与えながら、伊東純也のスピードを生かせる手を打ってもらいたい。
鳥栖は残留の可能性はまだまだある。残り3戦は神戸、横浜FM、鹿島で、1勝2敗で勝ち点39まで伸ばすことができる。10月9日にマッシモ・フィッカデンティ監督を更迭し、キム・ミョンヒ新監督のもとでチームは残留に向けて活気を取り戻しつつあるよね。F・トーレスと金崎夢生が連携を発揮できれば得点力を期待できるだけに、最後まで諦めずに戦い抜いてほしいよ。
名古屋は台風の影響で消化試合が少ないため、C大阪、清水、広島、湘南との4試合を残している。他チームよりも勝ち点3を積み上げるチャンスが1試合多い反面、連戦になることでの累積警告や怪我のリスクもある。
だが、9月の3連敗の原因となったガブリエル・シャビエルが故障から復帰したことで、攻撃陣が8月に7連勝をマークした時の勢いを取り戻せれば降格圏からは脱するはずだ。
ここからの3試合はどのチーム、どの選手にとっても正念場だ。ボクも現役だった日本サッカーリーグ時代に1部から2部への降格を味わったことがあるけれど、一度歯車が狂ったチームを軌道修正することは容易ではない。
だけど、J2落ちは選手キャリアが大きく変わる可能性さえもある。それだけに、最後の最後まで足を止めず、悔いを残さないように必死に戦い抜いてもらいたいし、その姿をしっかりと目に焼き付けたいと思っている。