今までこんなドラフト会議があっただろうか。何しろ最初の1位入札が終わった時点で、11球団が高校生野手を指名したのだ。
10月25日、グランドプリンスホテル新高輪・国際館パミール(東京)で開かれたプロ野球ドラフト会議。今年の運命の一日は、どよめきとともに始まった。
投手との"二刀流"で活躍し、直前には「最大9球団の重複指名も」と報道された遊撃手・根尾 昂(ねお・あきら/大阪桐蔭)の指名は4球団にとどまった。
しかし、ほかにも「守備は根尾より上」(広島・苑田聡彦スカウト統括部長)と評判の遊撃手・小園海斗(こぞの・かいと/報徳学園)に4球団、さらに快足、強肩、強打、イケメンと、スーパースターの条件をそろえる外野手・藤原恭大(ふじわら・きょうた/大阪桐蔭)にも3球団が重複。即戦力投手の松本 航(まつもと・わたる/日本体育大)を指名した西武以外の球団が、高校生野手を指名した。
これまでのドラフト会議では、投手を1位指名するシーンがおなじみだった。だが、今年は野手に逸材がそろっていたのに加え、「即戦力」と評価される投手が少ないという事情もあったのだろう。"外れ1位"でも、大学生ナンバーワン外野手・辰己涼介(たつみ・りょうすけ/立命館大)に4球団が重複するなど、終わってみれば今年は「野手ドラフト」となった。
そうなると読みづらくなるのが、来季の新人王である。少し気が早いが、来年すぐに戦力になりそうな選手をピックアップしてみよう。
まずはセ・リーグ。注目の根尾(中日1位)と小園(広島1位)はしばらくファームで育成されることになるだろう。中日には京田陽太(ようた)、広島には田中広輔と"働き盛り"のレギュラー遊撃手がいるからだ。
ただ、中日は6年連続Bクラスと低迷しており、さらに根尾は遊撃以外のポジションもこなせる。レギュラーに故障者が出た場合などに"起爆剤"として根尾を抜擢(ばってき)するかもしれない。折しも中日は与田剛監督が就任したばかり。新監督は自分の色を出したがる傾向があり、与田監督自身も新人王経験者である。その采配に注目したい。
チーム事情からいち早く起用されそうなのは、ヤクルト1位の清水 昇(しみず・のぼる/國學院大)。まとまりのある投球が持ち味で、先発でもリリーフでも適性があるだけに投手難に悩むヤクルトの救世主になるかもしれない。
それでもセ・リーグの新人王候補筆頭には、DeNA1位の上茶谷大河(かみちゃたに・たいが/東洋大)を挙げたい。大学3年まではほとんど登板機会がなく埋もれていた右腕だが、今春に台頭。キレのいいストレートと空振りを奪えるスライダー、スプリットを操る完成度の高い投手だ。スタミナ面など不安要素もあるものの、高い確率で1軍戦力になれるだろう。
対抗馬として、阪神の1位・近本光司(大阪ガス)も面白い。藤原、辰己と相次いで外野手のクジを外した阪神が、"外れ外れ1位"として指名したのが近本だった。身長170cmの小柄な外野手の指名に悲観的な阪神ファンも多いと聞くが、とんでもない。「即戦力度」でいえば、近本は今年のドラフト候補の中でも随一だ。
体は小さくても、腰の入った力強いスイングができるのが大きな長所。左打者ながらレフトスタンドに放り込むことも珍しくない。また、今夏の都市対抗野球大会では5試合で4盗塁と走塁能力の高さを見せた。環境に早く慣れることができれば、開幕から近本がセンターを守っていても不思議ではない。
即戦力候補に関しては、パ・リーグのほうが多いかもしれない。西武が"一本釣り"した松本は、1年目から先発ローテーションの一角に入るだけの力がある。メジャー移籍が濃厚なエース・菊池雄星の穴を埋めるのは難しいにしても、150キロ前後の快速球に落ちるツーシームを武器にして、悪いなりに試合をまとめることができる。
同じく西武3位で入団した山野辺 翔(やまのべ・かける/三菱自動車岡崎)も楽しみな即戦力内野手だ。走攻守に高い能力を持ち、勝負どころでのしぶとさはチームにとって欠かせない戦力になるはず。FA移籍の可能性がある浅村栄斗(ひでと)が流出した場合、後釜を担って新人王争いに浮上するかもしれない。
ロッテも即戦力候補を多く獲得している。2位の東妻勇輔(あづま・ゆうすけ/日本体育大)はリリーフとして期待できる爆発力のある速球派右腕だし、3位の小島和哉(おじま・かずや/早稲田大)も総合力の高い左腕。そして意外と知られていない実力派は、5位の中村稔弥(なかむら・としや/亜細亜大)である。
一見すると迫力不足に映るが、確かな制球力と決め球のツーシームを駆使してゴロの山を築くのが持ち味。スピードこそなくとも、打者の手元でも球威が死なない大人のボールを投げられる左腕だ。
現在のロッテは「外野手難」に泣いているチーム事情があり、1位の藤原も即戦力になる可能性がある。ロッテのチーム内で新人王争いが加速するようだと、若いチームがますます勢いづくだろう。
最後に推しておきたいのは「27歳のオールドルーキー」3人である。オリックス3位の荒西祐大(あらにし・ゆうだい/Honda熊本)、西武6位の森脇亮介(セガサミー)、ソフトバンク7位の奥村政稔(おくむら・まさと/三菱日立パワーシステムズ)は、いずれも来年27歳になる右投手。
高校を出て8年間を社会人で過ごした速球派サイドスローの荒西ら、アマチュア最高峰の世界で揉まれてきた苦労人である。年齢的に1年目から結果を出すことが求められるが、ほかの新人選手よりも遠回りした分の精神的なしぶとさが、彼らを後押しするはずだ。
来季、プロの世界で大暴れするルーキーはこの中にいるのか。それとも伏兵が現れるのか。早くも春の訪れが待ち遠しい。