フローニンゲンでの現状を語る堂安 律 フローニンゲンでの現状を語る堂安 律

日本サッカーの未来を担う若き野心家、堂安 律(どうあん・りつ)がさらけだす「思考、心情、哲学のすべて」を隔週で掲載している、週刊プレイボーイの連載コラム『堂安律の最深部』

センセーショナルな日本代表デビューとは一転、フローニンゲンで苦しいシーズンを過ごす堂安だが、個人としての調子は悪くない。しかし、チームとして結果が出ない日々が続いている。

移籍2年目の今季は、時にゴールゲッター、時にプレーメーカーの役割を担いながら、絶対的エースとしてチームの命運を託されているが、その現状をどう受け止めているのか――。

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■この経験は無駄じゃない、と自分に言い聞かせている

8月25日、第3節のデ・フラーフスハップ戦で今季初勝利を挙げたフローニンゲンだが、その後は勝利に見放され、第10節までわずか1勝。勝ち点4の最下位に沈んでいる。

そんななか堂安は、絶対的なエースとして全試合にフル出場するなど孤軍奮闘中。しかし、開幕戦で幸先よくシーズン初ゴールを挙げたものの、その後はPK失敗やシュートがバーやポストに嫌われる不運もあり、ここまで1得点にとどまっている――。

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今は苦しいですけど、この経験は絶対に無駄じゃないと自分に言い聞かせながらやっていますよ、オレは。

今後、別のクラブに移籍したとしても、今ほどチームのド中心としてプレーできることはそうないと思いますし、20歳でこの厳しい状況を経験できているのはラッキーとは言わないですけど、少しでも自分の成長の幅を広げてくれるだろう、とポジティブにとらえています。

中心選手になったからといって、結果が出ないチーム状況を深刻に考えすぎると自分のプレーはできません。プロである以上、チームが勝つことが一番ですけど、オランダに来たときから続けている「個人の活躍が大事」という考え方を今変えてしまってはダメだと思うんです。

最近は本来の右MFだけでなく、1トップやトップ下と毎試合のようにポジションが変わっています。過去にこれほどポジションを変えられたことはないし、もちろん難しさはあります。ただ、それでストレスをためているわけではないし、期待されている以上、集中してやるだけなので。

第6節のAZ戦でオレはPKを外しました。前半終了間際のPKで、決めれば勝ち越しというビッグチャンス。オレは楽に決められると思っていたけど、シュートはおもっくそ変なコースに飛んでGKに止められました(笑)。

直後のハーフタイムで、本当はチームメイトに謝りたくてしょうがなかったけど、あえて何も言いませんでした。なぜかというと、謝ってしまえば自分がネガティブな気持ちになってしまうのがわかっていたから。

結局、試合には負けましたけど、後半は退場者がふたり出る展開のなか、何度もチャンスをつくることができました。とにかく、オレはPKの失敗を取り戻すために必死だったんです。

そしたら、バイス監督は「後半はアンビリーバブルだった。次からは毎回ウオーミングアップの後、PK外してから試合に臨むべきだな」と笑っていました。オレの戦う意識を評価してくれていたからこその言葉だと思いますし、うれしかったですね。

監督とはめちゃくちゃコミュニケーションを取っていますし、ほぼ毎日話しています。だからこそ、監督がオレに求めていることもよくわかるんです。

■「イジられキャラ=チームでの発言力が弱い」みたいになるのはいや

代表とフローニンゲンでのプレーを比較するのは難しいですね。だって、選手も環境もすべてが違いますし、代表でよかったからチームでもよくなるとか、チームでよかったから代表でもよくなるとか、そういうことではないですから。正直、まったく違いますし、それこそが代表選手の難しさだと思うんです。

代表にはボールを持てる選手がたくさんいますが、フローニンゲンではそういう選手が少ない分、オレがひとりでチャンスメイクからシュートまですべてやらないといけない場面が増えたり、ゴールから遠ざかるプレーが多くなったりしているのは感じます。

ただ、チャンスが少ないなかでもそこで決め切らないといけないですし、「いいプレーだったね」で終わっていれば、今までのオレと一緒です。もっと高いレベルに行くには、そうした細かいところを追求していかないとダメ。もちろん、もっとゴールでチームに貢献できればいいですけど、得点以外でも貢献できることはたくさんあります。

例えば、今代表戦で90分間ハードワークできているのは、間違いなくフローニンゲンで毎試合100パーセントの力で戦えているからだと思うし、そういう部分も見ている人にわかってもらえたらうれしいですね。

フローニンゲンに移籍したばかりの頃は、ピッチでミスが起きれば、いつもオレのせい。正直キツかったし、「ふざけんな」って思っていましたが、ピッチで結果を出すことでそれも変わってきました。

オレはロッカールームとかでイジられるのは全然構わないし、なんなら試合直前だって冗談に付き合います。ただ、「イジられキャラ=チーム内での発言力が弱い」みたいになるのはいやなんです。

だから、理想はピッチを離れたらみんながイジってくるけど、ピッチでは誰にも文句言われへんみたいな。普段はおちゃらけてるのに、大事なときに「うわっ、なんかコイツすげぇ......」と周りから思われる選手がいいじゃないですか(笑)。

それがオレの理想だし、今のチームではそんな感じになってきました。サッカーで認められた上で、オン・ザ・ピッチとオフ・ザ・ピッチのギャップがある。その落差がすごいことになってきているからこそ、チームメイトも信頼してくれているんだと思うんです。

●堂安 律(どうあん・りつ) 
1998年6月16日生まれ、兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪を経て、現在はオランダ1部・FCフローニンゲンに所属。海外挑戦1年目の昨季はリーグ戦29試合に出場して9得点4アシストを記録。今年9月、満を持して日本代表デビュー