全日本のレース後に胴上げされる青山学院の原晋監督。学生たちに自ら考えさせる仕組みを築き、チームを常勝軍団に変貌させた

10月8日の出雲(いずも)駅伝に続き、11月4日に行なわれた全日本大学駅伝も青山学院大が完勝した。熱田神宮(愛知)から伊勢神宮(三重)へと向かう全日本は青山学院にとって"鬼門"ともいえる大会だったが、2年ぶり2度目の優勝でチームのボルテージは上がっている。

大会2日前の会見では、「名づけて、メラメラ大作戦です」と、恒例の作戦名を発表した原 晋(はら・すすむ)監督。

レース後には「朝、テンションが上がってメラメラ度は85%までいきました。3~4区で50%に落ちましたが、7区森田でメラメラ度は100%。ゴールでは200%でしたよ」と上機嫌で、「優勝は素直にうれしいです。終わってみれば、こんなに学生たちが強かったのかと、あらためて感じましたね」と選手たちの活躍をたたえた。

全日本の祝勝会では、来年から同大学の地球社会共生学部の教授に就任することが発表されるなど、原監督のメディア露出は相変わらず。その一方で、今年のチームは地味な印象が否めない。

箱根駅伝を4連覇したチームの主力には、「山の神」と呼ばれた神野大地(かみの・だいち/現・東京陸協)を筆頭に、"華のある選手"がたくさんいた。

神野の同学年では高校時代からスター選手で、イケメン担当でもあった久保田和真(現・九電工)。光州ユニバーシアード競技大会のハーフマラソンで金メダルを獲得して、箱根駅伝は4年連続で7区を好走した小椋裕介(おぐら・ゆうすけ/現・ヤクルト)。その1学年下には、2年前の全日本8区で49秒差を大逆転させた一色恭志(いっしき・ただし/現・GOMアスリーツ)という大黒柱もいた。

記憶に新しい昨年の4年生も個性的だった。暑さには弱いが、学生駅伝で6度の区間賞を獲得したスピードランナー・田村和希(たむら・かずき/現・住友電気工業)。大学2年時に出場した東京マラソンで日本人2位(2時間11分34秒)に入り、アニメ好きの「オタクランナー」としても知られていた下田裕太(現・GMOアスリーツ)と、キャラが強いメンバーが注目を集めた。

それに比べて、今の選手たちは小粒になっている印象を受けるが、実際はどうなのか。「大エースはいない」と原監督は話しているものの、ひとりひとりを深掘りしていくと、キラリと光る個性を持っている。

まずは全日本7区で東海大を逆転し、勝負を決めた森田歩希(ほまれ)。全日本実業団駅伝などで活躍後、國學院大の駅伝監督を務めていた父(桂さん)を持つ二世ランナーだ。5000mの元・中学最高記録保持者で、高校1年の春には同種目で14分18秒をマークしている。

その後は左腓骨(ひこつ)を疲労骨折するなど故障に苦しんだが、大学2年時に5000mの自己ベストを3年ぶりに更新。同年の全日本では6区で区間賞を奪い、MVPもゲットしている。今年の箱根駅伝ではエースが集う2区で区間賞。一色のような力強さは感じられないが、ハイレベルな安定感が持ち味で、駅伝では最も計算できる選手だ。

ほかにも4年生には強力なメンバーがそろっている。全日本1区で区間3位と好走した小野田勇次は、3年連続で箱根6区を走った"山下り"のスペシャリスト。前回は区間賞を獲得しており、今回は区間新記録更新へ期待が高まる。

全日本4区で東海大を追い詰めた林 奎介(けいすけ)は、前回の箱根7区で区間新を叩き出し、金栗四三杯(最優秀選手賞)に輝いた。その翌月に行なわれた熊日30kmロードレースは、学生歴代2位の1時間29分47秒で制している。

さらに、全日本で優勝ゴールに飛び込んだ梶谷瑠哉(りゅうや)は、学生ハーフのチャンピオン。1500mもこなすマルチランナーで、幅広い区間に対応できる。

また、箱根は未経験だが、全日本で2区を担った橋詰大慧(たいせい)は5000mで今季日本人最高の13分37秒75をマークしている。スピードと攻めの走りが魅力で、出雲は1区で飛び出して、一度もトップを譲らない完全優勝の立役者になった。

このように錚々(そうそう)たるメンバーがいながら、もうひとつ"顔"となる選手がいないのはなぜなのか。キャプテン・森田の言葉を聞いて、わかったような気がした。

「これまでの主将は、神野さんなどカリスマ性のある方がやっていましたが、僕は自分で引っ張るタイプではありません。でも、僕らが最上級生になったときに、4年生全体で引っ張っていくことを決めました。それは、これまでとは違う形かなと思います」

原監督はテレビ出演、講演などに引っ張りだこで、多忙な日々を過ごす。以前よりも選手を直接指導する機会は少なくなっているが、チームの成熟度は高まっている。これは4年生がチームをまとめてきた成果といえるだろう。

「2年前の駅伝3冠までは試行錯誤してきたんですが、私自身に余裕が出てきましたし、学生たちもやるべきことのベースが高くなっています。当初は私が前に出てガチャガチャ言っていましたが、今はグーッと引いて、学生たちが自ら考えて行動できる仕組みができた。これが大学スポーツの原点だと思いますよ」と、原監督は自らのチームビルディングに胸を張る。

ライバル校である東洋大学の酒井俊幸監督も、「青山学院は4年生がしっかりしていて"集大成"のようなチーム。山の5~6区に経験者がいますし、本当に強い」とこぼしていた。

史上初となる2度目の「学生駅伝3冠」へ。最後の戦いは4連覇中の箱根駅伝だ。

原監督は、「われわれには青学大メソッド、勝利の方程式がある。例年以上に自信はありますよ。高確率で狙えるんじゃないでしょうか」と豪語する。一見地味な青山学院が史上初の快挙を達成すれば、彼らが"キラキラ"なメンバーに見えてくるだろう。