レアル・マドリード不調の要因について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第７２回。
現役時代、Ｊリーグ創設期にジェフ市原（現在のジェフ千葉）でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、リーガ前半戦で不調が続いていたレアル・マドリードについて。開幕当初は好調な出だしで期待されていたレアル・マドリードだが、まさかの大失速。１２試合消化時点で、すでに４敗を喫している。宮澤ミシェルも想像できなかったという前半戦不調の要因を解説してもらった。
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クリスティアーノ・ロナウドというワガママな生徒と、ジデジーヌ・ジダンという口うるさいカリスマ教師がいなくなって、おとなしい学校になったことの悪い面が出ちゃったね。
レアル・マドリードがシーズン早々に監督交代という事態に陥るなんて誰も想像できなかったんじゃないかな。ボクだって開幕直後は、２シーズンぶりに今季はリーガ優勝のタイトルを手にするんじゃないかと思っていたくらいだよ。
Ｃ・ロナウドがユヴェントスに移籍したとはいえ、開幕直後はまるでバルセロナのようなポゼッションサッカーをしながら、勝ち星を積み重ねていたからね。それがチャンピオンズリーグのグループステージが始まってから歯車が狂い始め、格下のアラベスとレバンテに敗れて、バルセロナとのクラシコでは１対５の惨敗。これが致命傷になって、早々に解任となってしまった。
Ｗ杯ロシア大会直前にスペイン代表監督の座から乗り換えたロペテギ体制は早々に終焉したけれど、常に勝利を求められるクラブでポゼッションサッカーに挑んだのは評価したいよ。
格下の相手が自陣に守備ブロックをきっちりと築いて、カウンター狙いでくるなかで、パスをつなぎながらポゼッションを高めて押し込むのはリスクも高いんだ。相手にパスをかっさらわれると自陣に広大なスペースがあるからね。
長い年月をかけてポゼッション・スタイルを積み上げたバルセロナだって、そこから失点することもある。レアルには超一流選手が揃っているとはいえ、昨日今日始めたばかりだから、格下に足元をすくわれるケースが生まれるのは予想できたし、だからこそ、これまでのレアルの歴代監督の多くは、堅守速攻のスタイルを敷いてきたんだよ。
ロペテギ前監督にとって誤算だったのは、開幕当初は好調だったガレス・ベイルがゴールを決められなくなったことだろうね。ベイルにしたら、去年までのＣ・ロナウドのようにならなきゃという思いがあったのか、ゴール前では慌ててシュートを打つシーンが目立った。
他の選手が決めれば問題なかったんだけど、ベンゼマのシュートも決まらないでしょ。押し込むけれど得点が奪えなくて、そのうちに相手が先制点を決める。こうなると悪循環で、ますますゴールが決まらなくなったよね。
もうひとつ理由を探せば、Ｗ杯があったシーズンは、各国代表の主力選手が多いビッグクラブにとっては難しいんだよ。選手は前シーズンの疲れが抜けないうちにＷ杯を戦い、その後に短いバカンスを楽しんだとはいえ、体は完全に回復しきらないままに新シーズンを迎えることになるからね。
レアルの場合はクロースやカゼミーロという中盤で攻守のキーマンの調子が悪かったのが痛かったけど、バルセロナにしろ、バイエルンにしろ、マンチェスター・ユナイテッドにしろ、多くのビッグクラブは代表選手のコンディションが整わなくて苦しんでいるよね。そこに加えて、今季から新監督を迎えていたりすると、やろうとするサッカーが昨年までとは変わるわけだから、歯車は狂いやすくなるってことだね。
それでもレアルは、ロペテギ解任後に暫定監督をしていたサンチャゴ・ソラーリのもとで持ち直して４連勝。その手腕が認められてソラーリは正式監督に昇格した。シンプルなサッカーに回帰したことで、決定力不足からも脱却しつつある。
一時は今季のリーグ優勝が絶望的になりかけたけれど、首位を走るバルセロナもメッシを骨折で欠いて万全ではなかったことで、勝ち点差は大きく開かずに済んでいる。ここからソラーリ新監督のもとで勝ち点を積み重ねていければ、シーズン終了時点には監督交代があったことを忘れてしまうくらい、例年通りのポジションにいるんじゃないかな。
とはいえ、今年だけかもしれないけれど、リーガ・エスパニョーラのヒエラルキーは変わりつつあるから、まだまだ予断は許さないよ。年が変わってチャンピオンズリーグが１６強のトーナメントが始まると、厳しい日程に突入していく。そこからが本番だし、なにが起きても不思議じゃない。今年のリーガは最後までおもしろくなるのは間違いないよ。
