チーム生え抜き16年目、38歳の司令塔・中村憲剛 チーム生え抜き16年目、38歳の司令塔・中村憲剛

■一度優勝してヘンな重圧がなくなった

Jリーグ史上5チーム目となる連覇を達成した今季、川崎フロンターレは一時、首位・サンフレッチェ広島に最大で勝ち点13もの差をつけられた。だが、夏場以降はリーグ最少失点を誇る堅守に、長く看板としてきた圧倒的な攻撃力が噛み合い、終わってみれば2節を残し、史上2番目の早さでの優勝を決めた。

そんなチームの大黒柱が川崎ひと筋16年のMF中村憲剛(なかむら・けんご)である。38歳になった今季も衰えを知らないプレーを披露したレジェンドは、チーム、そして自身のプレーについてどう感じているのか。優勝の余韻がまだ残る11月某日、フロンターレの練習場とクラブハウスがある麻生(あさお)グラウンドで直撃した。

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──昨季は最終節で2位・川崎が勝利、首位・鹿島アントラーズが引き分けで、川崎が劇的な逆転優勝。一方、今季は32節で首位・川崎、2位・広島が共に敗れる形で、早々と川崎の優勝が決まりました。悲願の初タイトル獲得となった昨季と、2度目の今季では、優勝の味は違いますか?

中村 全然違います。もちろん、うれしいことに変わりはないんですけど、昨季はクラブとして創設から21年目、俺個人としても15年分の初タイトルへの思いが爆発しました。でも、今季はまだ1年分しか(思いが)たまってないですから(笑)。

試合(32節のセレッソ大阪戦)に負けて優勝が決まったということもあるんですけど、昨季のほうがテンションが高かったのは間違いないです。今回はまた違った感情があるというか、たぶん勝って優勝を決めても(うれし)涙は流さなかったんじゃないですかね。

──なるほど。

中村 昨季は必死に追い上げて本当に綱渡りみたいな戦い方で勝ちました。でも、今季は最初に広島に離されましたけど、終わってみれば堂々というか、シーズンを戦うなかで自分たちの強さを実感しながら優勝できた気がするんです。

面白いものですよね、同じ優勝でもまったく感じ方が違うって。でも、この淡々とした勝ち方といい、連覇するというのはこういうことなのかなと思います。

2試合を残して早々と連覇を決定。守備を固めてカウンターを狙うスタイルのチームが多いJリーグにあって、細かなパスワークをベースにした川崎の攻撃的なサッカーは異質だ 2試合を残して早々と連覇を決定。守備を固めてカウンターを狙うスタイルのチームが多いJリーグにあって、細かなパスワークをベースにした川崎の攻撃的なサッカーは異質だ

──過去、川崎には「シルバーコレクター」などと言われ続けた時期もありました。それが昨季リーグ優勝したことでチーム内外に変化が?

中村 それはありますね。これまでは大事なところでひとつ負けると「やっぱりシルバーコレクターだから」とメディアを含め皆に言われたり、原稿で書かれていたので(笑)。タイトルを獲ったことでそういったヘンなプレッシャーがなくなったというのは大きかった。

それに、タイトルを獲れない要因に"俺の呪縛"はかなりのウエイトを占めていると個人的には思っていました。だって、それまでの川崎の準優勝8回のうち、俺は7回経験しているし、昨季のルヴァン杯決勝で負けたときには、「原因は俺なのかな......」という気持ちがさすがに確信に変わりかけていましたから(笑)。

周りの選手にも「憲剛さんのために優勝を」と気負わせてしまった部分もかなりあったと思います。それがなくなり、チームとしても個人としてもラクになったのは事実です。

──ただ、一方で初タイトルを獲ったことで、今季はモチベーションが下がってもおかしくない状況だったとも思いますが。

中村 それはよく言われるんですけど、まったく逆で、やっぱり欲しいものは欲しいんです。もし、昨季の優勝1回だけなら「川崎の優勝はフロックだったね」と言われかねないので。今季も絶対にタイトルは欲しかった。もちろん、チームとしても優勝の景色を一度見たことで、全員がもう一度そこに行きたいという思いを強くした部分もあったでしょう。そういうことがチームを一丸にし、タフにしてくれたとも思います。

昨季の初優勝までは「大事なところでひとつ負けると、『ほら、見ろ』と皆が言いだしていた」と笑う 昨季の初優勝までは「大事なところでひとつ負けると、『ほら、見ろ』と皆が言いだしていた」と笑う

■ダッシュ一本でも若手に負けたくない

中村憲剛の選手としてのレベルの高さは、いまさら説明するまでもないが、驚くべきは今季も優勝を決めた32節までの31試合に出場するなどフル稼働し、なおかつプレーに衰えが見られないことだ。

今季の川崎の優勝の原動力のひとつにリーグ最少失点(32節までに26失点)が挙げられるが、目立ったのは前線からの守備。その先頭に立ち、前線で守備のスイッチを入れていたのが、ほかならぬ中村だった。

──今季の自身のプレーについては、どう評価されますか。前線からの守備での貢献も光っていたと思いますが。

中村 自分のやるべきことは攻撃以上にそこで、サボれば試合に使ってもらえないですからね。

──ここ1、2年はプレーしている姿が楽しそうです。

中村 昔はたぶん、しかめっ面をしていたと思うんです。タイトルが獲れていなかったから。でも、それも結果が出た余裕ですかね。昨季開幕前にキャプテンを(小林)悠に譲って一選手に戻り、そこで自分をどれだけ向上させられるかというのも楽しいです。

今後どこかで急に体がガクッとくるかもしれないですけど、36歳でリーグMVPをもらって、37歳でリーグ初優勝、38歳でリーグ連覇......って、本当にこんな幸せでいいのかなって思いますよね(笑)。

──年齢を重ねることで、これまでできたことができなくなったとか、そういうことはないですか?

中村 こまごましたものは、たぶんあると思うんです。でも、俺の場合は(もともと)平均的な一般成人男性みたいな体なので(笑)。

ただ、20代の頃から体のケアを欠かさなかったのはよかったのかもしれない。ケアを疎(おろそ)かにしていたら、ある年齢でガクッときていたかもしれないですね。

──チームには毎年、若い選手が入ってきますが、ギャップを感じることは?

中村 ピッチの中では別に感じないです。そこは自分の中でもアップデートしているつもりだし、むしろ俺のほうが絶対にサッカー(をたくさん)見てるって自信もあるんで。ただ、ピッチ外はむちゃくちゃ感じますよ(笑)。

まず、流行の音楽とかを聴いても「えっ? 何?」ってまったくわからないですから。でも、そういうことを含めて全部が刺激で、ダッシュ一本でも若手に負けたくないと思ってやっています。若手に育ってほしいとアドバイスを送りながら、その上で叩き潰すみたいな(笑)。

チームメイトとはいえ、試合に出るためには競争もあるし、そういうメラメラした気持ちもないとプレーも老けちゃいますからね。

38歳、大ベテランの域に達したが、前線でのプレス、チャンスの演出とシーズンを通してチームに貢献した 38歳、大ベテランの域に達したが、前線でのプレス、チャンスの演出とシーズンを通してチームに貢献した

話をチームに戻すと、今季の川崎はうまさに強さが加わった戦いぶりで、連覇を引き寄せた。シーズン開幕前には2年前まで絶対的エースだったFW大久保嘉人が復帰したものの、出場機会を得られず、夏にはジュビロ磐田に移籍するほど選手層が厚くなった。連覇を果たしたことで、川崎には「常勝軍団」としての期待も高まっている。

──来季は3連覇がかかります。いよいよ川崎の黄金時代到来との声もあります。

中村 もちろん、3連覇は狙いたいですけど、今季も優勝のかかった(32節の)セレッソ戦で負けているわけだし、まだまだウチは発展途上。歴史をひもとけば、どんなチームでも勝ち続けることは難しいし、あの鹿島ですら無冠のシーズンがあるわけですから。

ウチも2連覇であぐらをかいていたら、たぶんあっという間に取り残されますよ。J1ってそんなに簡単なリーグじゃないですから。だから、3連覇を目指しつつも、危機感は常に持っていたいし、その危機感が常勝チームになるための近道だと思います。

■先のことなんてまったくわからない

リーグ連覇を決めた川崎は昨季に続き、総額22億円にも及ぶ優勝賞金を手にすることになった。その一部はクラブハウスの食堂の新設、チームバスの新車購入などに充てられるという。

──いわゆるDAZN(ダゾーン)マネーの行方も注目を集めています。

中村 クラブのハード面を充実させることは選手を呼ぶ魅力にもなるわけで、このリードをうまく使わない手はないですね。ウチのクラブハウスは、ちょっと前までプレハブでしたし、正直プレハブじゃ優勝できないなっていう思いはどこかにありましたから(笑)。

ただ、例えば今はクラブハウスに食堂がないので、それぞれバラバラに外で昼食を取ってたりしますけど、そのことがいい意味で(ストレス)発散になっていた部分もあるでしょうし、一堂に会すことでそれがどう変わるかはわからない部分もありますよね。

──選手としては、連覇して一気に年俸が上がる期待もあるのでは。また、神戸のイニエスタや鳥栖のフェルナンド・トーレスのような大物外国人選手が加わる可能性もあるわけですよね。

中村 Jリーグは来季から外国人枠が拡大されますけど、ウチに限っては大物外国人の獲得はないんじゃないかな。

「3連覇を目指しつつも常に危機感を持つ。それが常勝チームへの近道だと思う」と語る中村 「3連覇を目指しつつも常に危機感を持つ。それが常勝チームへの近道だと思う」と語る中村

──今後のキャリアについては思うことはありますか。

中村 もちろん、この年齢なので意識しないことはないです。でも、今はあまり何も考えずに日々ボールを蹴ることだけに集中しています。だって「明日の練習を楽しくやりたい」「もっとうまくなりたい」という延長線上でここまで来ましたから。

それにもともと俺はJ2からスタートした選手ですし、プロになった頃は2年くらいでクビになるんじゃないかと思っていたくらいなので、ここまで長くできるとはまったく想像もしていなかったし、先のことなんてまったくわからないです。

──来季はどんなシーズンに? 昨季は浦和レッズ、今季は鹿島が優勝したアジアチャンピオンズリーグでの優勝も期待されます。

中村 Jリーグ王者として果たすべき役割の重みは感じています。また、さっき言ったとおり、リーグでも3連覇を目指すわけですから、相手の包囲網もスゴいでしょうし、ハードルは今季と比較しても桁違いに上がると思います。でも、それに打ち勝って3連覇したいですし、あとはやっぱりカップ戦のタイトルがまだないので、それは獲りたいです。

個人的にはサッカーの見聞っていうか知識をより深めたいと思うし、なんでも解を見つけ出せるような達観した選手、"サッカー仙人"になりたいんです(笑)。もういい年だし、サッカーに関してはなんでも自分で答えを出せる選手になるのが理想ですね。

●中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年生まれ、東京都出身。中央大学から2003年に川崎(当時J2)入団。Jリーグベストイレブンを7度受賞(16年には最優秀選手も受賞)。日本代表としては10年南アフリカW杯に出場。国際Aマッチ68試合6得点