リーグの13節終了時(12月17日時点)で12試合に出場し、5得点5アシストを記録。日本代表戦でも見せる切れ味鋭いドリブルで相手DFを翻弄するなど、チームの攻撃を活性化させている

「ナカジーマ!」

現地時間12月14日、プリメイラ・リーガ(ポルトガル)に所属するポルティモネンセSCの本拠地ポルティマン市民スタジアムに到着すると、愛らしい少年の大きな声に迎えられた。英語を話す父のダニエルさんに聞くと、5歳のアントニオくんのアイドルは中島翔哉だという。周囲の大人に促され、少年は誇らしげに上着を脱ぎ、白と黒のストライプのシャツを見せてくれた。その背中にはナンバー「10」と「SHOYA」の文字があった。

ポルトガルの首都リスボンからバスで4時間ほどかけてたどり着いたビーチタウンは、イギリス人やドイツ人らの避寒地として知られる。こぢんまりとした街にはゆったりとした時間が流れていて、レストランで郷土料理の貝のリゾットを頼み、「フォーティーンミニッツ、OK?」と言われて肯首すると、実際に運ばれてくるのは14分後ではなく40分後だったりする。

そんな街のフットボールクラブで、中島は1年4ヵ月かけてエースの座を確立した。今季は9月のリーグ最優秀選手に選ばれ、10月には同国3強のひとつ、スポルティングとのホームゲームで全ゴールに直接関与し、4-2の勝利の立役者になっている。

筆者はポルティマンに向かう前に、スポルティングの広報ミゲウ・エンリケス氏と話す機会に恵まれたのだが、その試合について聞くと、彼は「中島に好き放題にやられてしまった」と頭を振りながら答えた。

ここ最近は、イングランド・プレミアリーグのウォルバーハンプトン・ワンダラーズFCへの移籍の可能性が盛んに報じられている。一時は現地紙が「8割がた決定」というポンティモネンセ会長の発言を掲載していたが、その後にロブソン・ポンテ副会長(元浦和レッズ)が「具体的な話はまだ」と話したと伝えられた。また、サウサンプトンFCなど、ほかのプレミアリーグ勢も中島の獲得に興味を持っているとも噂される。

今月13日に行なわれた欧州チャンピオンズリーグのマンチェスター・シティ対ホッフェンハイム戦を取材した際には、懇意のイングランド人記者、リチャード・ジョリー氏にも移籍について尋ねてみた。

「ウォルバーハンプトンには(ポルトガル人の大物代理人)ジョルジ・メンデスが深く関わっている。ポルトガルとのパイプはもちろん太いが、何よりもビジネス的なうまみがなければ、メンデスは動かないだろう。率直に言って、ナカジマの名前は聞いたことがなかったし、ほかの同業者も同じだと思う」

本当に中島がプレミアリーグに挑戦することになれば、イングランドでは無名な分、フットボール発祥地の人々を驚かすことができる。そんな未来を想像すると、同じ日本人として痛快だ。

試合後のインタビューで移籍の話題がシャットアウトされるなど、チーム関係者には緊張感が漂う。今冬の中島をめぐる動きから目が離せない

14日のヴィトーリアFCを迎えた一戦でも、中島は好パフォーマンスを披露。前半はややボールに触る機会が少なかったものの、後半に結果を残し、エースの役割を全う。2-0で迎えた後半13分、左サイドでボールを受けると、絶好のクロスをFWジャクソン・マルティネスに届けてゴールをアシストした。

試合後に24歳の日本代表アタッカーは、「本当に決定力のある選手がゴール前にいるので、いいパスを出せばゴールを決めてくれる。チームとしてもいい形でゴールが奪えたので、よかったと思います」と、32歳の元コロンビア代表ストライカーをたたえた。ただし、3試合連続のアシストは自身の高精度パスの賜物(たまもの)でもある。

その前節のFCポルト戦後に移籍の可能性について聞かれたときには、「次に行くチームでもサッカーを楽しんで、より成長したいです。家族、チーム、代理人とも話しますけど、最後に決めるのは自分自身。(冬の移籍も視野に?)ウィンドウが開けば、誰もが考えることかな、と思います」と答えていた。

しかしこの日は、クラブ広報から報道陣に、移籍に関する質問はしないようにくぎを刺されていた。本人も「急いでいる」と言って取材対応は短めだったが、最後に1月上旬に開幕するアジアカップへの意気込みを問われると、次のように話した。

「毎試合、楽しくサッカーをして、1試合1試合成長したい。最終的にチームとしていいプレーをして、いい結果を残せたらと思います」

来年のアジアカップは、欧州の冬の移籍市場とほぼ同時期に行なわれる。日本の初戦は1月9日のトルクメニスタン戦で、決勝は2月1日。対して、移籍マーケットは1月1日から31日までとなる。

最高のシナリオは、日本代表の"アタッカー三銃士"のひとりが序盤から活躍して移籍を決め、マーケットが閉幕した直後に、日本が2大会ぶり史上最多5度目の優勝を決めることか。

ただ、それが実現すれば、ポルトガル南部の小さな街のファンたちは、当然ながら悲しむだろう。現代のフットボールに移籍はつきもので、中小クラブの選手が抜群の輝きを放てば、より大きなクラブがその選手を引き抜く。それは、避け難いことかもしれない。

「ジャクソンもすごいけど、このクラブのエースはショーヤだ。だから僕らは今、彼がいなくなるかもしれない未来を案じているよ」

ピッチキーパーとしてポルティモネンセに関わるキーファーさんは、ブラジル人らしい陽気な表情を見せていたが、話しているうちに徐々にトーンが沈んでいった。

欧州最西端の浜辺の街に、確かな足跡を残した中島翔哉。小柄な日本代表アタッカーが躍動した姿は、当地の人々の胸に深く刻まれている。

ホームスタジアム内の壁には、チームの主力選手と並んで、背番号10をつけた中島の写真も(右)。ポルティモネンセで2年目のシーズンを迎えた中島の存在感は増すばかりだ