バロンドールについて語る宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第79回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、バロンドールについて。2018年のバロンドールは、ここ数年独占していたC・ロナウドとメッシのふたり、そしてロシアW杯でのフランス優勝に貢献したグリーズマン、ムバッペなどを抑えてモドリッチが見事に受賞した。しかし、宮澤ミシェルはそもそもバロンドールに思うことがあるという。

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ヨーロッパの年間最優秀選手に贈られるバロンドールを、2018年はルカ・モドリッチが受賞した。レアル・マドリードの背番号10番として史上初のチャンピオンズ・リーグ3連覇に導いた活躍はもちろんだけど、やっぱりW杯ロシア大会で準優勝したクロアチア代表として躍動した姿の方が強く印象に残っているね。

身長は172cmで、体重は65kg。決して体格に恵まれているとは言えないけれど、抜群のテクニックと走力で大男たちと対等以上に渡り合ってゲームを組み立てる。そのプレースタイルは、日本のサッカーファンにも多く共感されているね。

2008年から10年間、バロンドールのタイトルを分け合ってきたクリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシがタイトルを逃したことで、"新時代の到来を予感させる"と感じている人もいるようだけれど、モドリッチだって33歳。決して若くないんだよな。

それにW杯ロシア大会こそ、C・ロナウドのポルトガル代表も、メッシのアルゼンチン代表も決勝トーナメント1回戦で敗退したけれど、ふたりとも17-18シーズンのリーグ戦やCLで見せた活躍は、まったく衰えを感じさせないものだった。それどころか、18-19シーズンだって、やっぱり別格だなっていう輝きを放っているよ。

メッシは相変わらずゴールを量産して、リーグ戦の得点ランキングでトップ。しかも、右肘を骨折して欠場した時期があったにもかかわらずだからね。得点数を1試合あたりで換算すれば1試合1ゴール。さすがメッシだよ。

そのメッシ以上と感じさせるのが、C・ロナウド。レアル・マドリードに移籍金153億円を置き土産にして、今季から新天地のユヴェントスでプレーしているけれど、いよいよ本領発揮というモードになっているよ。

第7節(18年9月29日)のナポリ戦で3アシストが象徴的だったけれど、開幕してからしばらくのC・ロナウドはゴールゲッターというよりもチャンスメイカー。でも、シーズンが進むに連れてCFのマリオ・マンジュキッチ、右FWのパウロ・ディバラといったまわりの選手たちにフィニッシャーとしての自分のプレースタイルを理解させたね。

ユヴェントスでは左FWで先発しているから、自分で左サイドを崩してアシストすることもあるし、実際にシーズン序盤はその形が多かった。だけど、いまは相手陣で一度ボールを引き出しておいて、そこから逆サイドに展開。その間に自分はゴール前に入って、ボールが折り返されたところをズコーン。あれよあれよという間に得点ランキングでトップに立っちゃったからね。

メッシは長年積み重ねた阿吽の呼吸でわかり合う仲間に囲まれたなかでの結果だけど、C・ロナウドはまったく新しい環境に身を投じてのパフォーマンス。やっぱり、その差は大きいものがあるね。

バロンドールは逃したけれど、ふたりともまだまだ存在感は抜群に大きいよ。あと2,3年はサッカー界の頂点に君臨し続けるんじゃないかな。いまのプレーぶりを見たら、とてもキャリアの晩年にあるなんて思えないもん。

それに、そもそもバロンドールなんてものは、目立ったもの勝ちの賞だからね。1956年にフランスのサッカー専門誌『フランス・フットボール』が創設してから50年以上の歴史があるのに、守備の選手が受賞したのは、たったの4回! 

GKとしてレフ・ヤシン(ディナモ・モスクワ/旧ソ連代表)が1964年に唯一の受賞し、DFでは1976年のフランツ・ベッケンバウアー(バイエルン・ミュンヘン/元西ドイツ代表)、1996年のマテウス・ザマー(ドルトムント/元ドイツ代表)、2006年のファビオ・カンナバーロ(ユヴェントス/イタリア)が手にしただけ。

ゴールシーンはサッカーの華とはいえ偏りすぎだよ。FWはシュートを何十本と外しても、1本を決めればヒーローになれるのに、DFやGKはシュートをどれだけ防いでも、たった1点を奪われただけで戦犯になってしまう。

だからこそ、サッカー専門誌ならばちゃんと評価してもらいたいんだけど、それができていないからバロンドールは単なる話題賞に過ぎないと思っているんだ。そこはやっぱり、ボクはDF出身だからね。

DFやGKの評価は難しいものだけれど、ボクはもっと多くの人に見る目を養ってもらいたい。守備の見方がわかれば、モドリッチやC・ロナウド、メッシといった攻撃的な選手たちの真の価値が理解できるし、サッカー観戦がさらに楽しいものになる。だから、これからもDFやGKの魅力が伝わるようにどんどんアピールしていくよ!