高校生野手のドラフト──。2018年のドラフト会議を総括するなら、このひと言に尽きるだろう。
根尾昂(あきら/大阪桐蔭高)と小園海斗(こぞの・かいと/報徳学園高)に4球団、藤原恭大(きょうた/大阪桐蔭高)に3球団。12球団のうち西武を除く11球団が高校生野手をドラフト1位指名した。これは50年以上の歴史を誇るドラフト会議史上、初めての出来事だった。
メディアでは連日、中日への入団が決まった根尾を中心に"金の卵"の動向を報じている。
将来有望な高卒野手がいる一方で、ほかにも個性派、実力派とバラエティに富んだドラフト1位の選手がいることは意外と知られていない。特に注目したいのは、立命館大から楽天に進む外野手の辰己涼介である。
この選手が最初にクローズアップされるのは、キャンプでの守備練習になりそうだ。外野からの"爆肩"を生かしたスローイングは、昨季新人王を受賞した田中和基(かずき)、勝負の4年目に臨むオコエ瑠偉(るい)といったポテンシャルが高い外野手に交じっても遜色ない。「すでに球界トップクラスの力を秘めている」と言っても過言ではないだろう。
そして、とぼけた受け答えも報道陣から愛されるに違いない。昨年の大学選手権試合後の囲み取材では、「マイ歯ブラシ」についてのこだわりを延々と語り続けたことがあった。
また、昨秋のドラフト会議直後の記者会見では、「とりあえず楽天カードを作ることから始めます」と粋なコメントをして、報道陣の爆笑を買っている。なかなか機転が利いているのだ。
あるスカウトは辰己を「いずれは3割30本30盗塁のトリプルスリーを狙えるだけの潜在能力がある」と語る。プロの水に慣れた頃、辰己は名実共に日本を代表する外野手になっているかもしれない。
そんな辰己の社(やしろ)高時代の2学年先輩である外野手・近本光司は、阪神にドラフト1位指名された。
身長170cm、体重72kgという小柄な体格で、一見するとドラフト1位としては頼りなく映るかもしれない。だが、即プロで通用する野手としては、今年の新人では近本がナンバーワンだろう。
社会人・大阪ガスでは昨夏の都市対抗野球大会で21打数11安打1本塁打4盗塁と暴れ回り、橋戸賞(MVP)を受賞している。小柄な左打者ながらレフトスタンドにも放り込めるだけのパンチ力があり、盗塁成功率の高い快足も持っている。
不安があるとすれば、肩がやや弱い点と、在阪メディアの過熱ぶり。特に後者の影響は重大で、生半可なメンタリティの持ち主ではプレッシャーに潰されかねない。アマ時代を通して大きな注目を浴びてこなかった選手だけに、メディアとの付き合い方も宿題になる。
投手で注目の即戦力は、西武が単独1位指名に成功した日本体育大の右腕・松本航(わたる)だ。あるベテランスカウトは「完全に先発タイプで、実戦で力を発揮できる」と高評価を与えていた。
身長176cmと上背はないものの、常時150キロ近く出る快速球と高速で落ちる変化球もある。試合をまとめる能力も高く、投球センスが光る好投手である。プロの強打者相手に速球が通用すれば、高い確率で戦力になるだろう。
近年のドラフトでは、西武が他球団と競合しない単独1位指名に成功するケースが目立っている。十亀剣(11年)、森友哉(13年)、髙橋光成(こうな)(14年)、多和田真三郎(15年)がそうで、入団後の活躍も含めて成功率の高さは目を引く。松本もこの系譜に連なるなら、菊池雄星が抜けて大きく戦力ダウンした投手陣の救世主になるに違いない。
「完成度の高さ」という点で、その松本と双璧をなすのが、東洋大からDeNAに1位指名された上茶谷大河(かみちゃたに・たいが)だ。
大学4年春に台頭した遅咲きながら、同期の甲斐野央(かいの・ひろし/ソフトバンク1位)、梅津晃大(こうだい/中日2位)と共に"三羽ガラス"を形成。キレのあるストレートと三振を奪えるスプリット、スライダーを武器にする。春の駒澤大戦では1試合20奪三振のリーグ新記録を樹立した。
松本と同様に先発タイプの好素材ではあるが、実績を残したのはこの1年のみという不安要素も。とはいえ、近年のDeNAは山﨑康晃、今永昇太、濵口遥大(はるひろ)、東克樹と大卒ドラフト1位が大活躍している。上茶谷もこの流れに乗っていきたいところだ。
チーム事情からすぐ起用されそうなのは、國學院大のエース右腕・清水昇だ。先発でもリリーフでも適性がある清水は、投手難に喘(あえ)ぐヤクルトのドラフト1位にうってつけ。
先発としてはまとまりのあるタイプだが、リリーフとして登板すると球速が150キロを超えて力強さを感じさせる。高校の先輩であるDeNA・山﨑から伝授されたツーシームで空振りを誘えるのも、大きい。
最後に、今年のキャンプで大いに話題になりそうな、吉田輝星についても触れておきたい。
昨夏に金足農高を全国準優勝へと導いた甲子園の星。入団した日本ハムでは、栗山英樹監督が「変な間を空けないほうがいい」と独特の表現で早期起用を示唆している。
昨夏に酷暑の甲子園で投げ続けたダメージも気になるところだが、吉田が早くから1軍の舞台で登板機会を得るなら、"フィーバー"はさらに続くことになりそうだ。