「レジェンド左腕」江夏豊氏(右)が、自然体の「若大将」原辰徳監督に現在の心境を問う! 「レジェンド左腕」江夏豊氏(右)が、自然体の「若大将」原辰徳監督に現在の心境を問う!

4年ぶりに現場復帰した"名将"は実にすがすがしい表情を浮かべていた。今オフには大型補強を敢行し、日本一奪還が至上命令とされるが、気負う様子はまったくない。

『週刊プレイボーイ』本誌で「江夏 豊のアウトロー野球論」を連載中の"レジェンド左腕"江夏豊氏が、自然体の"若大将"原辰徳監督に、前編に続き、現在の心境を語る!

■五分五分の勝負は必ず取る

江夏 昨年オフからチーム体制も相当変わったよね。

 ガラッと変わりました。

江夏 新しい選手は丸が入った、岩隈が入った、新外国人も入った。ほかにもまだいるけど、そのなかで丸は優勝チームで2年連続セ・リーグMVPだよ。そういう選手も戦力になることを踏まえて、あなたはどういうチームをつくりたい?

例えば、10-9で勝つチームをつくりたいのか、それとも1-0、2-0で勝つチームをつくりたいのか。

 僕が選手たちにいつも言っているのは、五分五分の勝負は必ず取る、ということです。プロだから、力の差があるチーム同士が戦えば、例えば6-4なら、まず6が勝つだろうと。しかし5.1-4.9とか、5.2-4.8とかの接戦では必ず取る野球をするんだと。

江夏 競り勝ち。難しいよな。

 いちばん難しいですね。1点差ゲームをきっちり勝てるチームだったら、ほとんどが優勝争いするでしょうね。

江夏 そうだよな、1点差のゲームは必ず取る野球をするならば、その1点差が10-9なのか、1-0なのか、どっちだ?

 それはもう、どっちも一緒という考えです。

江夏 一緒か。

 じゃあ、1点差のゲームを取るために、チームの戦い方はどうしたらいいか。やはり、自分たちでジャッジメントできるような野球を日頃から叩き込むことですね。例えば、バント、エンドランなどのサインを出されて、そういった指示のもとに戦うのは悪いことではないんです。

でも、日頃の練習からひとりひとりが自分でジャッジメントを下して、「この状況ならこう動く」と考えられる選手になってもらいたい。そのいちばんの目的は勝つためです。勝つためにおまえたちは試合に出てるんだ、と。これは秋のキャンプでも伝えました。

江夏 絶えず結果を求めて動けば、中身のある濃いキャンプになっていくと思うよ。

 僕も本当にそう思います。

■がむしゃらに練習してケガでは話にならない。会社なら職場放棄だ

江夏 さて、2月1日からいよいよ宮崎キャンプが始まる。あなたが入ったときもそうだったと思うけど、キャンプはある意味、自分自身の限界までやらなきゃいけない時期だよね。自分みたいな練習嫌いでも、キャンプではとことんやってきた。

それで初めて、「今年も乗り越えられる」という自信が生まれてくる。じゃあ、果たして今本当に限界までキャンプでやってるのかと。自分は毎年、全球団を回らせてもらっているけど、チームによってかなり差があるように感じるんだよね。

 キャンプで選手自身が限界に近い状態まで追い込むのは、僕は選手の個人メニューだと思ってます。チームとして追い込むとなると、選手によって体力に差がありますから、僕らがやるのは7割程度です。その後8割にするのか、9割にするのか、そこは選手個々の自覚の問題で。

江夏 考え方だよな。

 はい。自覚できる選手をひとりでも多くつくっていくことが僕の作業だと思いますね。ただ、これは選手にいつも言うんですが、しっかり練習することは正しい、何も否定しない。しかし、がむしゃらに練習してケガをしました、というのは話にならない。

江夏 ふっふっふっふ。

 野球選手のケガは、言ってみれば会社なら職場放棄だと。だからケガした選手に対して僕はものすごく叱りますよ。「自分の体をしっかり守って、いつでもファイティングポーズを取れる選手であってほしい」と伝えてます。

江夏 その点、選手を指導するコーチも大事になると思うけど、監督は経験豊富でも、新しいコーチが若干......。

 フレッシュですよね。本当に野球が好きで、ユニフォームを着ることに欲を持ってた人たちが集まったと思います。そのなかでさまざまな角度から、メディア目線、ファン目線、あるいは選手目線といろんな見方ができます。

そういう意味では初めてコーチに就任した宮本も元木も、久しぶりの水野にしても、水を得た魚のごとくやってくれてるので、彼らとスクラムを組んでよかったなと思ってます。

江夏 結果はどうであれ、最後までそういう気持ちで戦い抜いてもらいたいと思う。

 本当にそう思います。

江夏 ところで、あなたにとって空白だった3年間、セ・リーグはずっとカープが独走してるんだよ。

 この数年間、カープがいい野球をしているのはもちろん承知してますし、僕がいちばん評価しているのは守備力とスピードです。チームをつくる上において、僕は特に守備力が大事だと思ってます。

江夏 ならば、巨人を守りがしっかりしたチームに再建してもらいたい。何しろ4年間も優勝から遠ざかっているんだから。V9時代に戦った自分としては、弱い巨人は見たくないんだよね。新戦力、新コーチ、そしてリフレッシュした原監督で、強い巨人を見せてもらいたいよ。

 僕は今、フラットな凪(なぎ)の状態からドカーンと荒波に向かっていく感覚です。「よーし、また一発やったるぜ!」と叫びたいような心境です。

江夏 やったるぜ、でやれればベストだけどな(笑)。

 そうですね(笑)。でも、思わないとやれないですから。

江夏 それはそうよ。選手たちはその監督のやる気、背中を見て動くんだし、明るくのびのびと戦う姿をファンはみんな待ってるんだから。

 やっぱり、ファンの人がどれだけ喜んでくれるか、というところでしょうね。

江夏 あらためてファンに喜ばれるチームづくり、また、そういう戦いを見せられる1年であってもらいたい。しっかり応援させてもらうよ。

 ありがとうございます! ぜひ、お願いします。

江夏 よっしゃ。今日はありがとう!

●江夏豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武などで活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ

●原辰徳(はら・たつのり)
1958年生まれ、福岡県出身。東海大相模高校、東海大学を経て、81年にドラフト1位で巨人に入団。22本塁打で新人王に輝く。83年には打点王を獲得し、リーグMVPを受賞。02年シーズン、巨人の監督に就任するといきなりリーグ優勝、日本一を達成。06年から再び監督に就任し、リーグ優勝6回、日本一2回を記録。18年、4年ぶりに現場復帰。監督通算成績は947勝712敗56分け