ドローンレーシングチーム「DMM RAIDEN RACING」のキャプテンパイロット・後藤純一氏

近年、家電量販店でも見かけるようになり、より身近な存在となってきたドローン。テレビでもその俯瞰映像を見ない日はないほどだ。

現在、そのドローンを使ったレースが各地で開催されているが、ついに世界進出する男が現れた!

* * *

■SF映画さながらの没入感が醍醐味!

昨年4月に日本初のプロフェッショナルドローンレーシングチームが誕生した。その名は「DMM RAIDEN RACING」。世界最高峰のドローンレース「ドローン チャンピオンズリーグ」や中国のプロフェッショナルドローンレースリーグ「X-FLY」「Drone GP」に参戦し、世界の強豪がひしめくリーグに日本唯一のチームとして殴り込みをかけている。

そのチームキャプテンであり、国内有数のリーグであるJDL(ジャパンドローンリーグ)の2017年の年間チャンピオンでもある後藤純一(ごとう・じゅんいち)さんに、知られざるドローンレースの魅力を語ってもらった!

――レース用のドローンとラジコン飛行機では何が違うんですか?

後藤 大きく違う点は、ラジコンの飛行機は目視で飛ばしますが、レース用のドローンは機体のカメラから飛ばした映像をゴーグルで受信して、それを見ながら操縦します。つまり鳥の目線で空を舞うわけです。SF映画の戦闘シーンのような没入感を味わえるのが醍醐味(だいごみ)です。

(上・左)ケースに入れられたたくさんのバッテリー(DINOGY)。バッテリーは2分半くらいしか持たないので、何本も必要。充電にも1時間程度かかる。(上・右)コントローラー(双葉電子工業)は、スティックの感覚を重視したもの。(下・左)ゴーグル(Fat Shark)に映像受信機(FuriousFPV)を装着。これを使い一人称の視点でドローンを遠隔操縦する。(下・中央)(下・右)レース用自作ドローン2機。プロペラは1枚400円ほど、アームはカーボン製で1万円程度。1機当たりの制作費用は5万~6万円程度。時速20

――ドローンレーサーの道に進んだきっかけは?

後藤 20代でシステムエンジニアとして仕事漬けで、燃え尽きてしまい、休職して充電していたんですけど、そのときにドローンが撮影したフリースタイル(曲芸飛行)のYouTube動画を見たんですよ。ドローンのアクロバティックな動きに心打たれて、自分でいろんな映像を撮りたくなって......。その2ヵ月後にレース(全国ドローンレース選手権関東大会)に出たところ、初出場でいきなり優勝しました。協会の方の勧めもあって完全にハマってしまいました。

――わずか2ヵ月で優勝ってすごいですね。

後藤 僕も驚きましたよ。パソコンで2000円ぐらいで買えるドローンのシミュレーターを、ひたすらやっていたおかげだと思います。ゲーム機のコントローラーでできるので、ゲームが得意な人は上達が早いと思います。

――それで、始めて2年もたたないのに、とんとん拍子に世界最高峰のドローンレースに参戦することに?

後藤 そうですね。でもチームに誘われたときは悩みました。というのも、世界各地の遠征に1週間、事前のコース対策に1週間と、1ヵ月のうちで半月をレースのために費やすことになってしまいます。プロといっても、まだまだマイナースポーツなので、それだけで食べていけるほどではありません。なので、仕事との兼ね合いをつけるのが大変で。ただ、2016年にドバイで行なわれた世界大会では、賞金総額が100万ドルで、15歳の少年が優勝し、25万ドルもの賞金を手にしています。

――ちなみに、今はどんな仕事をされているんですか?

後藤 現在はドローンを使った撮影を請け負っています。高所からのライフラインなどの点検や、ゴルフ場、リゾートやレジャー施設などのプロモーションビデオ用の空撮が多いですね。東京大学の石川雄章(ゆうしょう)教授と地下鉄の設備点検にドローンを使えるよう実証実験もしていますね。

■凱旋門でレース。万里の長城でも!

――「ドローン チャンピオンズリーグ」は、どんなレースなんですか?

後藤 世界のトップ40人と競うエキサイティングなレースで、世界各地で年間5大会10戦が開催されています。最高峰レースですから、スケールもデカくて、2017年のシーズン第1戦目は、凱旋門のあるパリ・シャンゼリゼ通りで大会が開かれましたし、昨年はなんと万里の長城でレースをやりました。ルールは全長600mほどの曲がりくねったコースを2、3周する場合が多く、高度は20m以内。ドローンの最高速度は150キロ前後で、いくつかのゲートをくぐり、ゴールを目指します。

まずは「シングルヒート」と呼ばれる、1対1の対戦があり、どちらが先にゴールするかを競います。それが4戦あります。それから、「ビッグヒート」と呼ばれる両チーム合わせて8機出場する混戦があります。上位3機に対し、1位を取ったチームのみに加点されます。このふたつのゲームの合計で勝敗を決めます。

ゴーグルをつけドローンのカメラから送られてくる映像をもとに操る後藤氏

チームオーナーの小寺悠さん(右端)と10代中高生のチームメイトたちと。インドネシアのレーサーもいる

――2018シーズンの結果はいかがでした?

後藤 第1戦は2位、第2戦で3位になり、初めての参戦にしては、出だしは好調でした。ただ、途中で崩れて12戦終わるとシーズン順位は8チーム中4位でした。まだまだこれからですね。

――記憶に残るレースは?

後藤 スイスでアメリカと戦ったシングルヒートです。勝てば決勝という大事な局面、前の3人のレースを終えた段階でポイントは1点ビハインド。ここで負けたら後がないという状況で、キャプテンとしての意地や仲間から託された信頼のまなざしもあり、プレッシャーMAXでした。

――レース中に何を考えていましたか?

後藤 攻めすぎてクラッシュしてもいけませんし、かといって相手もエースなのでペースを抑えても勝てないという厳しい状況でした。冷静に展開しなければならないなかで、どこでスパートをかけるかをずっと考えていました。抜きつ抜かれつ、安全マージンを残しながら、最終ラップの残り半分で全開でスパートしようとレース中に判断しました。その結果、先にゴールを決めることができ、その充実感は忘れられませんね。

ドローンの理想の飛行を熱く語る後藤氏。F1と同じようにドローンにもレコードラインがあるが、三次元空間なのでその発見が難しい

■老若男女が楽しめるゴルフのような競技

――レースにあたって心がけていることはありますか?

後藤 理想の飛び方というか、納得ができる飛び方をしようと心がけています。2018年から、ようやく思うように飛ばせるようになりました。理論が自己流に勝ったという感じですね。そのために、レースの1週間前に事前に発表されたコースをシミュレーターで作って、やり込みます。それから、実際にゲートを立てて、同じレイアウトで疑似コースを作り、風や重力がある条件下で実機を飛ばします。それがとても重要です。

F1レースもシミュレーターでレコードラインをなぞりますが、ドローンでも速いと思うラインをなぞり、腕を磨いていきます。基本的には最短距離の直線が速いとされていますが、三次元空間なので、こうだと思っても実は違う場合もあって、そこが難しいですね。勝ちを重ねるごとに、正解がわかり、見えなかった世界が見えてくる喜びがあります。

――ドローンには完成品のイメージがありますが、レース用のドローンは自作ですか?

後藤 パーツを集めて自分で組み立てています。レースによって機体に課される規定(重さ、大きさ、バッテリー容量など)が違うので、一個一個、どのパーツを選択するのかが本当に大変です。

また、ドローンのパーツは、ほぼ中国で生産されているのでネットでしか買えませんし、LINEの翻訳機能を使って韓国のスポンサーに部品を発注したりとベストな組み合わせを模索しています。もともと器用なほうでしたが、こんなにはんだ付けがうまくなるとは思いませんでしたよ(笑)。

中国のプロフェッショナルドローンレースリーグ「X-FLY」にて。なんと万里の長城がレースの舞台

ドローンのカメラから送られてくるゴーグルの映像。ライトの光る夜間レースは、まるでSF映画の世界観

――レース機をつくる費用はどのくらいかかりますか?

後藤 僕の場合ですが、機体に合計で5万から6万円。受信機をつけたゴーグルは7万円。コントローラーは10万円。バッテリーが1本5000円といった感じです。

――では最後に、ドローンの魅力を!

後藤 ドローンレースは、若者からオジさんまで楽しめるゴルフのような競技だと思います。実際、私のチームにも中高生のレーサーが3名ほど所属しています。若いので動体視力・反射神経がいいメリットがあります。一方で、ラジコン飛行機から転向してくる方はご年配の方が多いですが、精神力が強く、戦略を立てて若者と対等に戦うことができます。

このように、いくつになってもトップやプロを目指せるというのが、ドローンレースの魅力のひとつじゃないでしょうか。現在、ドローンレースをやっている人は日本で1000人くらいだと思います。プロ意識を持って真剣に取り組めば、誰だって日本チャンピオンになって、世界に羽ばたくチャンスは十分あります!

(取材協力/DRONE SPORTS Inc. SKY GAME SPLASH)

●後藤純一(ごとう・じゅんいち) 
元システムエンジニアの37歳。JDL2017年間チャンピオン。2018年6月、RAIDEN RACINGのキャプテンパイロットに