対談を行なった西野朗氏(中央)と宮澤ミシェル氏(左)。また、「WOWOW リーガール」の鈴木美羽ちゃん(右)も応援に駆けつけ華を添えた
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏が、
週プレNEWSで連載中のコラム『フットボールグルマン』

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回は特別編として、3月1日(夜10:00~)にWOWOWで無料放送される『生放送! 伝統の一戦クラシコ直前スペシャル 今夜語り尽くす「日本サッカー×世界最高峰」』内で実現した、ロシアW杯で日本代表を率いた西野朗氏とのスペシャル対談から一部を放送に先駆けてお届けする。

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いよいよ伝統のクラシコが迫ってきた。日本時間3月3日(日)早朝に行なわれるレアル・マドリードvsバルセロナの一戦は、WOWOWライブ(日本時間午前4:30開始)での生中継の解説を、サンティアゴ・ベルナベウから西野朗さんと一緒にやりますので、ぜひ楽しみにして下さいね!
 
シーズン前半戦にあったカンプ・ノウでのクラシコは、バルサが5-1で大勝したけれど、レアルはあの頃とは監督も代わって完全に復調している。しかも、リーグ戦の順位も首位バルサの背中が見える位置にまできているし、この試合にレアルが勝利すれば、リーグ優勝の行方も混沌となる。それだけに、この試合はすごく楽しみだよ。

そのレポートは帰ってきたらたっぷりお届けするとして、今回はWOWOWのクラシコ特別番組用に西野さんと対談した内容を少しだけ公開するよ。これを読んでクラシコに向けて気持ちを盛り上げてもらいたいね。

宮澤 チャンピオンズ・リーグをこの5シーズンで制したのはラ・リーガのバルサとレアルのみ。ヨーロッパリーグでも過去10年間でアトレティコとセビージャが3回ずつ制覇しています。西野監督は......、つい監督と呼んじゃいますけれど、西野さんはラ・リーガにどういった印象を持っていますか?

西野 激しいよね。しかも、単にファウルで止める激しさではなく、流れのなかで相手からボールを奪う技術的な高さがベースにはある。技術的には日本人選手も高いので、スペインでなんとなく通用すると思われがちですけど、それは錯覚ですよね。確かに日本人選手のスキルは高い。だけど、それは体のコンタクトがない状況であって、リーガの選手たちはプレッシャーを受けながらでも技術の高さを発揮できる。そこに差がありますね。

宮澤 ラ・リーガを目指す日本選手にとっては、そこの強さを積み重ねていってもらいたいです。西野さんは、チーム哲学の憧れとして、以前からバルサを挙げていますよね。

西野 (ヨハン)クライフ監督の攻撃的なサッカーに憧れていて、アトランタ五輪後はバルサへコーチ研修に行ったんですよ。

宮澤 じゃあ、クライフから直接ポゼッション・サッカーを習えたんですか?

西野 それを期待して五輪前にバルサ行きを決めたのに、実際に行ったらクライフは退任していて、監督がボビー・ロブソンになってたんですよ。そして、彼の横にいたのがモウリーニョ。当時は通訳でしたけど、実質はコーチでしたね。選手にあれこれ指示を出していて。ロブソンはベンチに座っているだけでしたし。

宮澤 その頃からモウリーニョの出しゃばりな感じはあったんですね(笑)。バルサのスタイルに憧れてきた西野さんには、いまのバルベルデ監督が率いるバルサはどう感じていますか? 

西野 メッシがキャプテンになったことで以前とは違うリーダーシップを発揮している印象があります。ポジションも右サイドからトップ下、最前線へと自由に動き回るけれど、自分勝手にポジションを崩しているわけではない。ただ、相手のマークがメッシだけを抑えればいいというのがある。

宮澤 以前ならメッシを抑えてもネイマールがいたけれど、いまは他の選択肢がないですよね。

西野 そうしたなかでメッシは、他の味方を生かしながら臨機応変にポジションを変えているように感じます。

宮澤 いい選手はいるんですけどね。ラキティッチがいて、ヴィダルがいて、アルトゥールがいて。では、今のバルサの良さってどこですか? 

西野 スアレスというストライカーが存在することでしょうね。彼はチーム全体の方向性とは違う力強さや意外性、ダイナミックさがあって、そこにメッシが阿吽の呼吸で絡んでいる。

宮澤 なるほど。一方のレアル・マドリードはどうですか? 今シーズンに限ればチャンピオンズ・リーグ3連覇を達成したチームからクリスティアーノ・ロナウドが退団し、新監督に迎えたロペテギの更迭があって、バルサホームのクラシコでは大敗。それがサンチアゴ・ソラーリ監督に代わり、守備面を強化。そして、18歳のヴィシニウス・ジュニオールを抜擢して大胆な改革を敢行し、V字回復をしました。

西野 あれだけのスター軍団を率いるには戦術やフォーメーションではなく、人心掌握が一番大事だろうなと感じますね。

宮澤 チーム状況が悪い時には大きな変化は必要なものなんでしょうか?

西野 メンバーを代えずに選手の立ち位置やコンセプトを変えても変化につながらないところがあるんですね。これはリスクでもあるんですけど、リスクなくして変化はないので。

宮澤 マルセロやイスコという実績のある選手に代えて若手を抜擢できたのは、ソラーリ監督が育成年代の指導をしていたことも大きかったんでしょうね。西野さんはガンバ大阪の監督時代にはまだユース年代だった家長昭博や宇佐美貴史をトップチームに抜擢しましたが、若手を抜擢する怖さはないですか?

西野 下部組織から見ているからこそ判断できる部分はあります。チームを活性化させるにはレギュラー組ではない12番目以降の選手たちのモチベーションを高めたり、起用したりすることは大事ですね。

宮澤 レアルで鍵を握る選手は誰だと見ていますか?

西野 (カリム)ベンゼマですね。もともとポテンシャルが高くて、万能型ストライカーだと思っていたんですが、やっと覚醒しました。以前は10番的な役割もやったり、サイドに流れたりしていたけれど、いまはゴール前でのストライカーとしての仕事に徹していますね。彼の調子が良いこともあってレアルは今回のクラシコをかなり優位に迎えるんじゃないですかね。

宮澤 では、今回のクラシコのスコア予想をするなら?

西野 2-1でレアル。ミシェルは?

宮澤 勢いはレアルにあるけれど、ボクはサンティアゴ・ベルナベウでバルサが勝つのを見たいと思っています。ところで、西野さんが好きなスタイルはバルサだと思うんですが、メンバーを見て今回のクラシコで率いるなら、どちらのチームを指揮したいですか?

西野 中盤の構成に興味があるからレアルだね。モドリッチとか、クロースとか、中盤にクリエイティブな選手がいるのがいいね。そこにバルサのブスケツを加えられたら最高に面白いと思うけど(笑)。今回のクラシコは、どちらのチームにも最前線にベンゼマ、スアレスというスペシャルな選手がいるから、中盤でどう主導権を握るかがポイントになるだろうね。

宮澤 バルサがヴィニシウスのスピードに対応できないと危険なシーンが生まれそうな気がします。

西野 ヴィシニウスをバルサのCBピケが対応する状況が生まれると、レアルが優位になるだろうね。バルサとしたらヴィニシウスやベイルの縦への推進力を封じ込めるために遅攻に持っていくことが大事になるよ。

宮澤 バルサはアウェーでの今回も戦い方はポゼッション・サッカーでしょうかね?

西野 そこは変えないと思いますよ。敵陣でボールを動かし、メッシが絡んで変化をつけて崩していくと考えられるよね。

宮澤 バルサの攻撃は、レアルの左サイドからチャンスが生まれそうな気がします。

西野 ヴィシニウスが攻め残った時が狙い目だけど、いまのレアルは全員がしっかりポジションを戻して戦えている。あのスター軍団が全員、忠実にポジショニングだけは守る。そこをバルサがどう崩していくのか。

宮澤 もっと喋りたいけれど、ここから先はマドリードに行ってからにしましょう(笑)。解説をするのは何年ぶりですか?

西野 20年ぶりくらいかな。監督をやっているときは試合を見ながら5分後、10分後にはどうなっているか想像する。次に打つ手を考えるために、試合の先、先を行こうとしちゃう。でも、今回は解説だから、いまを伝えないといけないでしょ。そこがね......(苦笑)

宮澤 大丈夫です! 西野さんは試合の先を行って下さい。ボクが追っかけて行きますから(笑)

(※この対談は2月14日に収録されました)

■生放送!伝統の一戦クラシコ直前スペシャル 今夜語り尽くす「日本サッカー×世界最高峰」
3/1(金)夜10:00 [WOWOWライブ] 無料放送
ロシアW杯で日本代表を率いた西野朗とリーガ解説でおなじみの宮澤ミシェルが、目前に迫る伝統の一戦クラシコ、さらに日本サッカーについて熱く、深く、語り尽くす。

■現地より生中継!リーガ・エスパニョーラ 伝統の一戦クラシコ レアル・マドリードvsバルセロナ 3/3(日)午前4:30 [WOWOWライブ]
王座奪還を目指すR・マドリードが連覇へ突き進むバルセロナを迎え撃つスペイン頂上決戦を、宮澤ミシェルと西野朗の解説で現地マドリードよりお届け!

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