グラップリングの大会「QUINTET」を立ち上げ、プロデューサー兼選手として試合も行なう桜庭和志 グラップリングの大会「QUINTET」を立ち上げ、プロデューサー兼選手として試合も行なう桜庭和志

柔道、柔術、総合格闘技、プロレス、サンボ......。組み技を得意とする選手たちが集まって1チーム5人で団体戦を行なう。

桜庭和志(さくらば・かずし)が生み出した新格闘技「クインテット」。その誕生秘話と進化する可能性を徹底解説する!

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■どんなメンバーでどんな順番で闘うかが鍵

総合格闘家・桜庭和志がプロデュースするグラップリング(組み技)イベント「QUINTET FIGHT NIGHT2」が、2月3日、アリーナ立川立飛(東京・立川)で開催された。

昨年4月に旗揚げ試合を行ない、10月には米国ラスベガスに進出。今、着々と人気を上げている格闘技イベントだ。

桜庭和志は1対1のエキシビションマッチに登場。美木航選手を相手に今年50歳になるとは思えない動きを見せていた 桜庭和志は1対1のエキシビションマッチに登場。美木航選手を相手に今年50歳になるとは思えない動きを見せていた

なぜ、グラップリングの大会を始めようと思ったのか? 桜庭和志に聞いた。

「今、世界的にグラップリングの人気が高まっているんですよ。アメリカでは柔術をする人が増えてきて、昔と違って動きや技術のわかる人が多くなっている。だから日本でもやりたいなと思ったんです。

ただ、これまでと同じように全試合が1対1よりも、柔道のように団体戦にして、勝ち抜きにしたらもっと楽しめるかなと思ったんです。

あと、もうひとつイメージしたのは野球なんですよ。野球って1番から順番に打っていくけど、それぞれに役割があるじゃないですか。だから格闘技もそれぞれに役割があったら、何か新しいものになるかなって考えたんです」

柔道の団体戦のように先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人が順番に出て、勝ち抜き戦を行なう 柔道の団体戦のように先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人が順番に出て、勝ち抜き戦を行なう

クインテットの試合はロープの張られた四角いリングでもなく、金網の中でもない。円が描かれたマットの上で闘う クインテットの試合はロープの張られた四角いリングでもなく、金網の中でもない。円が描かれたマットの上で闘う

クインテットは1チーム5人だが、その合計体重は決められている。重量級の場合は430kg以下で、軽量級は360kg以下だ。重い選手ひとりと軽い選手4人というチーム編成でもいいし、平均的な体重の選手を5人集めるのでもいい。

「合計体重を決めないと、みんな重量級の選手だけになっちゃいますから(笑)。それに、重量級と軽量級が入り交じっているのが、クインテットの醍醐味(だいごみ)でもあるんですよ。小さな選手と大きな選手が引き分ければ両者脱落となります。すると重量級の選手が脱落したチームは不利になり、その後の展開が変わってきます。

また、打撃のないグラップリングなら、軽量級の選手が重量級の選手を関節で決めることもできる。小さい選手が大きい選手に勝つ姿を見せたかったんです」

どんなメンバーを集めるのか、どんな順番にするのかなど考えることも多い。クインテットが"頭脳戦"と呼ばれるのはそのためだ。

しかし、グラップリングは打撃がある格闘技に比べて、試合展開がわかりにくいという声もある。

「グラップリングの基本は腕・脚・首のどこを狙うかです。3ヵ所のどこに絡んでいくかを見ていると選手が何をしたいのかわかりますよ」

クインテットの試合時間は8分間と短い(体重差が20kg以上の場合は4分)。積極的に攻撃しないと指導を受ける。指導が3回になると負けだ。

そのため、選手は次々と攻撃を仕かける。ほかのグラップリングの試合よりも試合展開が速いため、選手の狙いもわかりやすいのだ。

■今後はプロレスのような軍団抗争にも発展?

では、実際に試合に出ている選手は、クインテットをどのように感じているのか?

「ほかの格闘技との一番の違いは決め(一本)重視だということです。決めにいくテクニックと気持ちが重要。それが見ている人にも伝わると思います」(中村大介)

「僕は体重が軽いので不利になることが多いのですが、スピードとスタミナは負けていません。そこで勝負しています」(所 英男)

「チームリーダーとしては、相手がどんな順番で来ても対処できるようにオーダーを組んでみました。クインテットはいろいろ考えさせられる格闘技です」(高阪 剛)

「クインテットが始まった時に、自分でチケットを買って見に行ったくらい面白い競技なので、どんどん盛り上がっていくと思います」(横井宏考)

「クインテットは、まったく未知の格闘技です。自分の知らない寝技の世界がここにあります」(ミノワマン)

2月3日に行なわれた「QUINTET FIGHT NIGHT2」に参加したチーム「U-JAPAN」のメンバー。(左から)ミノワマン、所英男、高阪剛、中村大介、横井宏考 2月3日に行なわれた「QUINTET FIGHT NIGHT2」に参加したチーム「U-JAPAN」のメンバー。(左から)ミノワマン、所英男、高阪剛、中村大介、横井宏考

選手たちは、新しい格闘技に戸惑いながらも、どこかでその可能性に期待を寄せているようだ。

スタートして約1年。今後、クインテットはどうなっていくのか? 格闘技ライターの橋本宗洋(のりひろ)氏が語る。

「昨年6月の軽量級大会で優勝したチームは『カルペディエム』というブラジリアン柔術の道場のチームで、全員、プロの総合格闘家ではなかった。ですから今後は、無名でもクインテットでひと旗揚げようというチームが多く参戦してくる可能性があります。

一方で、打撃がないので選手層の幅も広い。今はあまり試合に出ていない大物、レジェンド格闘家の参戦も可能です。また、クインテットは海外でも開催されているので、UFCなどに出ている有名選手がドリームチームをつくって出場してきたら面白い。

あと、クインテットはチーム編成も重要ですから、選手の移籍からドラマが生まれるかも。今まで同じチームでやっていた選手が別のチームに移ったり、トーナメントで優勝を目指すために強い選手だけを集めたチームができるとか。

すると、『あいつ、裏切りやがって』とか、プロレスの軍団抗争に近いことがあるかもしれません(笑)。とにかく、いろいろな展開が考えられるので、今後が本当に楽しみです」

しかし、不満な点もいくつかある。

現在、トーナメントの参加は4チーム。3試合で優勝が決まってしまう。試合数があまりにも少ないのだ。せめて8チーム7試合にならないだろうか。また、1試合8分はやはり短い。せめて10分は闘ってほしい。

まだスタートしたばかりだけに、今後の改善に期待したい。そして、クインテットが日本を代表する格闘技イベントになることを願っている。

QUINTETを「子供にも見せられる競技にしたかった」という桜庭プロデューサー。そのためグラップリングにこだわったのだそう QUINTETを「子供にも見せられる競技にしたかった」という桜庭プロデューサー。そのためグラップリングにこだわったのだそう

●桜庭和志(さくらば・かずし) 
1969年生まれ、秋田県出身。総合格闘家、プロレスラー。1997年UFCーJヘビー級トーナメントで優勝。1999年、2000年に「PRIDE」でグレイシー一族に4連勝し、「グレイシー・ハンター」と呼ばれる。2018年にQUINTETを立ち上げ、プロデューサー兼選手となる