男性アナの実況でも「いいこと言ってやろう」という狙いが見え見えのしゃべりは聞いていてうんざり

第91回選抜高校野球大会は23日に開幕。昨夏、NHK名古屋放送局の澤田彩香アナが女性アナとして19年ぶりに甲子園の実況を務め、その振り返り記事が3月8日に掲載された。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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今週末から選抜高校野球大会が始まります。野球には実況が欠かせませんが、女性アナウンサーの実況中継を聞いたことがありますか? 実況といえば男性アナ、という印象ですよね。

30年前に比べると女性アナのスポーツ実況は増えているそうですが、まだまだ「おなじみ」とまではいきません。視聴者の3割ほどが女性の実況に違和感を覚えるという調査もあります。女性が実況をすると苦情が寄せられることもあるとか。

よくいわれるのは、女性の声は高いから長時間聞いていられないとか、音域が狭いから表現が平坦(へいたん)になりがちということ。女性アナは画面の花として若いうちからいろんな仕事をするので、職人技である実況の技術をじっくり身につけるチャンスが少ないなどの要因もあるようです。

私はかつて東京の放送局のアナをしていたのですが、スポーツ実況担当のアナはとても誇り高く、アナウンサーの中でも別格だという自負があるようでした。実際、実況はちょっと練習してできるようになるものではありません。膨大なデータを頭に入れ、地道な取材を重ねて、筋書きのない試合を当意即妙かつ聞き取りやすく実況するという、いわば"アナウンスの総合芸術"です。

私はスポーツ畑の仕事は一切経験がないのですが、実況アナは自分とは違う職業だと思っていました。彼らは職人で、自分は発表係。ニュースもバラエティもそれなりに技術のいることですが、実況は難易度のレベルが違うとリスペクトしていました。

女性の声は高いから聞きにくいというけれど、声質によりますよね。私は、男性の声か女性の声かよりも、しゃべり手の心持ちのほうが聞きやすさに影響する気がします。

男性アナの実況でも「いいこと言ってやろう」という狙いが見え見えのしゃべりは聞いていてうんざり。事前に決めていたであろう安っぽい名ぜりふなんか聞かされても感動の押し売りみたいで興ざめです。あくまで主役は選手たちとわきまえて、必要な情報を抑制の効いたトーンで伝える実況にはほれぼれします。

名ぜりふを仕込んだ実況って、視聴者を信用していないんですよね。視聴者は何よりまず、画面に映し出される選手たちの姿に胸打たれるんですから。 

声質以上に、そういうしゃべり手の心持ちのほうが聞く人の心理に訴えるのだとすれば、未熟な男性アナよりもプロ意識の高い女性アナの実況のほうがはるかに聞きやすいでしょう。

"女子アナ"もいいかげん飽きられて、これまでのように「若い女性アナはまずはバラエティで人気者に」という時代でもなくなりつつありますから、若い頃から本格的に実績を積む人も増えるかもしれません。いつか、女性アナの実況が当たり前のことになるといいな。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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