マウンドを「メジャー仕様」にして何がどう変わるのか? ※写真はイメージです

普段はあまり注目されることのない投手の"足元"に、大きな異変が起きている。セ・リーグ4球団の本拠地球場が、そろってマウンドを「メジャー仕様」に変更するのだ。

何がどう変わるのか? 誰が得して、誰が損するのか? 徹底調査した。

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■恩恵を受けるのは"パワー系"の投手

もしかしたら、このブームが今季の順位を左右する"変数"になるかもしれない。

今季、少なくとも4球場で投球マウンドの仕様が変更される。東京ドーム(巨人)、ナゴヤドーム(中日)、甲子園球場(阪神)、そしてマツダスタジアム(広島)。それぞれ従来の軟らかな土から、粘土質の硬い土、いわゆる「メジャー仕様」に変わるのだ。

「発端は、昨年11月の日米野球で東京D、ナゴヤD、マツダSのマウンドを硬めにしたこと。これはメジャーの投手に対する配慮だったんですが、侍ジャパンの投手たちからも意外に評判がよく、それならばシーズンでも使おうということになったんです」(スポーツ紙デスク)

この4球場を本拠地とする各球団は、2月のキャンプから新マウンドへの順応策を導入。巨人、中日、広島はキャンプ地にレンガ色の硬い土を搬入し、阪神は同じく硬度のある「ブラックスティック」という黒土を、アメリカから300万円かけて輸入した。

もちろん、マウンドの硬い、軟らかいにはどちらも一長一短ある。例えば、硬いマウンドは試合途中で深く掘れてしまうことがない一方、下半身(特に前に踏み出す足)への負担が大きいといわれる。

また従来は、「下半身中心で投げる日本人投手は硬いマウンドには合わない」というのが定説だった。実際に国際大会で違和感を訴える声が上がったり、メジャーに挑戦した投手がフォーム修正を迫られたり、マウンドの違いが故障の原因になったと指摘されたりしたケースもある。

それでも今、日本球界で「メジャー仕様」がブームになっている理由を、野球評論家の野村弘樹氏が解説する。

「最近は、日本の投手も投げ方が変わってきているんです。昔は軸足(後ろ側の足)の膝が土で汚れるほど重心を低くして投げるのがいいと言われたものですが、今では膝に土がつく投手はほとんどいません。股関節の使い方も変わってきて、重心が高いまま投げる投手が多い。そうなると、しっかり踏ん張れる分、硬いマウンドのほうが投げやすいというのはあるでしょう」

では、今回の変更でどんな投手が「得をする」ことになるのか? 野村氏が続ける。

「まずはリリーフ陣。従来の軟らかい土では、踏み出した足が着地する部分が掘れてしまい、試合後半では穴ぼこだらけでした。そういったことがなくなれば、リリーフ陣も自分本来のステップで投げられます。メジャー経験のある阪神の藤川球児などは、それをよくわかっているはずです」

そして野村氏は、「実際は硬さに加え、傾斜の角度なども影響するが......」と前置きしつつ、こう予想する。

「基本的には"パワー系"の投手にメリットが大きい。巨人なら菅野智之山口 俊のようなタイプは、より力を発揮しやすくなるでしょう。中日の松坂大輔も、故障の完治が大前提ですが、メジャーで慣れている硬いマウンドのほうがベターだと思います」

■マウンドの好みは10人いれば10通り

逆に言えば、すべての投手が等しくその恩恵を受けるというわけではない。

例えば、中日の吉見一起は下半身を低くして投げるタイプで、硬いマウンドは苦手。そこで今季は、スパイクの歯の本数や長さに変更を加え、試行錯誤している。

昨年15勝を挙げた広島のエース、大瀬良大地もやはり用具に調整を加えたという。

「大瀬良は『投げやすいが、体の負担も大きくなる感じ』と語っています。そこで、スパイクのソール(底)を厚くすることで、衝撃や疲労の蓄積を軽減するという狙いです」(地元テレビ局関係者)

ここまで挙げたのは、本拠地球場のマウンドが変わる投手たち。では、その球場に乗り込んで投げる他球団の投手たちはどうなのか?

実は、こちらはそれほど影響がなさそうなのだ。前出のスポーツ紙デスクが言う。

「あまり知られていませんが、多くの球場は、すでに硬めのマウンドになっているんです。神宮球場(ヤクルト)は2015年から、横浜スタジアム(DeNA)は17年から。パ・リーグでも、国内で一番硬いといわれる札幌ドーム(日本ハム)に倣って、昨季はZOZOマリンスタジアム(ロッテ)がマウンドの仕様を変更しました。ほかのパ球団の本拠地も、『メジャー仕様』とはっきり打ち出してはいませんが、いずれも硬めの傾向にあります」

つまり、マウンドの変化は今に始まったことではなく、実際にはセ4球団が"後追い"したという構図なのだ。

前出の野村氏はこう言う。

「総合的に見て、硬いマウンドが主流になるのはいいことだと思います。『リリースポイントが2cmずれたら、ホームベース上では30cmの差が出る』といわれるほどシビアな感覚が要求される投手にとっては、試合途中で掘れてしまうなど不確定要素が大きい軟らかなマウンドより、硬いマウンドのほうが安定して力を発揮しやすいはずです。

それでも、例えば緩やかな傾斜が好きな投手もいれば、急勾配が好きな投手もいる。マウンドの好みは10人いれば10通りです。それが4球場で一斉に大きく変更されるとなれば、予想できない悲喜劇が生まれるかもしれませんね」

"仕事場"に対する投手の感覚は極めて繊細だ。例えば昨年までも、菊池雄星(西武→米マリナーズ)や金子弐大(オリックス→日本ハム)はかなり硬めのマウンドを好み、先発日の前夜にはグラウンド整備員が調整を施していた。そして、翌日の先発投手が軟らかめを好むなら、試合後に土を入れ替えて元に戻すといった対応をしていたのだという。

今季は投手の"足元"に注目してプロ野球を見てみるのも面白いかもしれない。