「セットプレーにおける攻撃側の原則は、キッカーがボールを蹴る瞬間に、ディフェンダーの背後を取ること。うまい選手はみんなこの原則を押さえている」と語る岩政大樹氏
日本サッカー界で昨今よく聞かれる「自分たちのサッカー」という言葉。元日本代表の頭脳派センターバックで、"先生"の愛称で親しまれる岩政大樹氏は、この言葉に「相手」を含めない風潮があることに疑問を呈す。
一昨年に上梓(じょうし)した自身初の著書『PITCH LEVEL 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法』は「サッカー本大賞2018」を受賞。「ピッチ目線」で語られる考察は示唆に富み、サッカーの見方が180度変わると話題になった。
『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』では前作以上にサッカーの本質に迫り、日本サッカー界が次のステージに進むために最も向き合うべきテーマである「相手を見てサッカーをする」ことの言語化に挑んでいる。
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──タイトルで「FOOTBALL INTELLIGENCE」「相手を見てサッカーをする」という言葉が並べられているのが印象的でした。
岩政 サッカーをよく知っている選手やうまい選手に対して、「インテリジェンスが高い」と表現することがありますが、そういう選手って、要は相手を見てサッカーをしているわけですよ。相手を見た上で、相手によってやり方を変え、相手のいやがることをする。
昨今、「自分たちのサッカー」という言葉がひとり歩きしていますが、個人的には「相手を見る」という観点があまりにも欠落した状態で語られていることに違和感を覚えていました。この本では、相手を見てサッカーをするために必要な視点や考え方について噛(か)み砕いて説明しています。
──本書は、「『相手』を見るための良いポジショニングとは?」「システム上の急所を知る」「駆け引きで優位に立つ」の3章で構成されていますよね。
岩政 いちばん重要なのは、いいポジショニング、つまりいい立ち位置です。皆さんよく言いますけど、選手は試合中にせいぜい2、3分しかボールに触りません。つまり、ボールを持っていない時間がほとんどだからこそ、オフザボールでの立ち位置が非常に重要になってくる。
インテリジェンスの高い選手ほど、ボールが来る前にどこにポジションを取ればいい判断ができるのか、という意識を強く持っています。
──相手を見るためには、まず立ち位置が重要だと。
岩政 しかし、日本サッカーにおいて、いい立ち位置というものは必ずしも言語化されていません。現在、日本代表や海外のリーグで活躍するトップオブトップの選手たちは、プロで経験を積むなかでやっとそれを見つけていくという状況です。
例えば、ヨーロッパではどんどんいい選手が出てきますが、どれだけ若くても、ポジションや局面ごとのいい立ち位置を最低限は知っている。彼らはみんな育成年代で教わっているのではないかと。
そこが日本との大きな違いであり、そんな日本サッカーの現状に対して問題提起したい、というのもこの本を出した理由のひとつです。
──岩政さんは現役時代、空中戦で無類の強さを誇りました。例えば、セットプレーにおけるいい立ち位置とはなんですか?
岩政 そもそもすべての局面において、いい立ち位置の原則というのは相手の裏を取ること。言い換えれば、いかに相手を外せるかが重要なのです。
セットプレーにおいては、キッカーがボールを蹴る瞬間に、自分をマークするディフェンダーの背中側、つまりボールと逆サイドに立てるかどうか。ディフェンダーはキッカーがボールを蹴る瞬間に、その軌道を確認するため必ずボールを見なければなりません。
その一瞬でディフェンダーの背後を取れれば、相手は自分とボールを同一視野に収めることができなくなり、そこから相手のベクトルの逆を取ることで基本的にマークを外せるのです。
──キッカーが蹴る瞬間の立ち位置がポイントなんですね。
岩政 そして、得点を取る確率を高めるためには、相手の前(ニア)でシュートすべきです。つまり、キッカーが蹴る瞬間にディフェンダーの背後にポジションを取り、相手のマークを外したら、すかさず相手の前に入り込むのです。
相手の背後(ファー)では、スタンディングか下がりながらのシュートで難易度が上がりますし、かつ相手のレベルが高くなればボールが背後に来る前にディフェンダーにクリアされてしまうケースが多くなる。
ところが、相手の前に入れば、ボールに対して正面から向かっていく形になり、当たればゴール方向に飛んでいくため、たとえヘディングがへたでも得点を奪える可能性は高まる。だからこそ、ディフェンダーは自分の前でやられたくないのです。
──初歩的な質問ですが、そもそも攻撃側はボールに合わせて動いているわけではない?
岩政 守備側はボールに合わせて立ち位置を決めますが、攻撃側は必ずしもその必要はありません。とにかく攻撃側が考えるべきは、マークをうまく外してボールを待てているか、ということだけ。
あとは、ボールがそこに来るかどうか。多くの選手はボールが来ないとだんだん足を止めてしまうことが多いんですが、僕は確率論で考えていて。何回かに一回は自分のところにボールが来るわけですから、そのときにマークを外して、相手の前でシュートを打つことができるかどうか。
それさえできていれば、シュートをミスしても気にしなくていい。僕の場合、毎試合そのチャレンジを続けることで、シーズンが終わるとだいたい8試合に1点のペースで得点が取れていました。
──いつから実践されているんですか?
岩政 プロ入り後ですね。ゴールという結果を出し続けるために自分でこの原則を見つけ出し、やり続けました。再現性を高めたからこそ、センターバックにもかかわらず、プロ15年間の公式戦で70ゴール以上を取れたのだと思います。
──説得力がありますね。
岩政 いろんな選手を見てきましたが、うまい選手のマークの外し方は一緒です。結局、みんな自分で「相手の背後を取る」ためのこの原則を見つけているだけ。この原則を押さえていれば、うまくいかないときにそれと照らし合わせて修正点を見つけることができますから。
このように、この本の中では、サッカーのあらゆる局面における「本質的な原則」を言語化しているので、サッカーファンの方や指導者の方にもぜひ読んでもらいたいですね。
●岩政大樹(いわまさ・だいき)
1982年生まれ、山口県出身。東京学芸大学から鹿島アントラーズに加入し、2007年からJリーグ3連覇に貢献した。3年連続Jリーグベストイレブンに選出された。2010年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団した後タイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。ベストセラーとなった『PITCH LEVEL』(KKベストセラーズ)で「サッカー本大賞2018」受賞。解説や執筆を行なう傍ら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行なう参加型の『PITCH LEVEL ラボ』を開設するなど、多方面に活躍の場を広げている
■『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』
(カンゼン 1600円+税)
「自分たちのサッカー」に「相手」を含めない風潮のある日本サッカー界が次のステージに進むためには、「相手を見てサッカーをする」ことを常識にしなければならない──。元日本代表センターバックの岩政大樹氏が自ら筆を執り、「相手を見てサッカーをする」ということを徹底的に言語化。"先生"の愛称で親しまれる頭脳派が、具体的な方法論を提示しながらサッカーの本質に鋭く迫る。サッカーファン、指導者必読の一冊だ!