どんなスーパーヒーローも変化や衰えは避けられないもの

シアトル・マリナーズのイチロー外野手が、現役を引退することを先月21日の記者会見で表明。会見は1時間25分にも及び、途中、質問した記者に対して厳しい切り返しを見せる場面も。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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イチロー選手の引退記者会見、私も生で見ました。印象的だったのは「外国人になって、人の痛みを想像した。孤独を経験した」というくだりです。私はオーストラリアでは外国人なので、とても孤独で不安。イチロー選手の言葉に深くうなずいてしまいました。あの言葉が多くの人にとって、日本に住んでいる外国人の方々の気持ちを想像するきっかけになるといいな。

会見では、気になったことも。「引退を決めた時期に打席内の感覚の変化などあったのか」という記者の質問に対してやや感情的に「いる? それここで」「裏で話すわ」と答えたこと。引退記者会見でこの質問をするのは当然だし、会見でない場所でなら答えるというのは、逃げているように見えてしまう。

「そんな失礼なこと聞くなよ!」と思うファンもいるかもしれないけど、記者は聞くべきことを聞くべき場で質問するのが仕事なのだから、失礼ではないです。例えば「正直、衰え感じますかあ?」っていう聞き方だったらそりゃすごく失礼だけど、質問した記者はそんな態度ではなかったし。

どんなスーパーヒーローも変化や衰えは避けられないもの。それと向き合って引退を決めるまでの悔しさやしんどさを語る姿は、スーパーヒーローがひとりの人間である姿を見せることであり、きっと人の胸を打つでしょう。英雄が弱さを語ることこそが最も英雄的な振る舞いだからです。

イチロー選手の「いる? それここで」に込められた非難を感じてか、その後は感動ストーリーをみんなで作り上げようとするかのような情緒的な質問が少なくなく、記者やアナウンサーが取材者というよりは盛り上げ役のようになっている感もありました。

生中継される晴れ舞台で気の利いた質問をして才能をアピールしたいという質問者の下心も透けて見えて、人間観察としては面白かったけど、もっと真剣勝負のやりとりを聞きたかったな。

記者会見といえば、菅 義偉(すが・よしひで)官房長官が質問にまともに答えずはぐらかしてばかりで批判されていますね。逃げずに対話するべきなのはどんな記者会見でも同じ。記者と取材対象がなれ合いになったらただの茶番です。

取材は相手に好かれるためにするものじゃないし、感動を演出するためにするものでもない。聞かれた側も、答えたくないときは質問者を非難して黙らせようとしたり無理やり排除したりせず「答えたくないから答えない」と何度でも言えばいいと思います。イチロー選手も「いる? それここで」とあきれるのではなく「それは今は言いたくないです」と言えばよかったのに。

有名人の記者会見でも普段の会話でも、どんな態度でNOと言うのかが、その人の本質を表しているんじゃないかな。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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