サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第91回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、ケガについて。現在、ケガからの完全復帰を目指している鹿島アントラーズの三竿健斗と鈴木優磨。キャンプ取材で彼らと話した宮澤ミシェル氏は、自身も現役時代にケガに苦しめられた経験も踏まえ、焦らずに完治させることが重要だと語った。
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三竿健斗が少しずつ完全復帰へのステップを踏んでいる。昨年は日本代表に選出されるまで成長を遂げ、森保一監督に代わった日本代表でも飛躍が期待されていたけれど、11月に「恥骨関連鼡径部痛」を発症して長期離脱。ここからというタイミングだっただけに、本人は相当に悔しかったと思うんだ。
今年のキャンプ取材で鹿島アントラーズに行ったとき、三竿と話をしたら、「まだ痛みはあるけれど、焦らずにやっていきたい」と落ち着いていたんだよね。同じ症状に苦しんだ者としては、まだ22歳と若いのにその落ち着きに心強さを覚えたね。
「恥骨関連鼡径部痛」はサッカー選手の職業病とも言えるもので、「恥骨結合炎」とか「グロインペイン症候群」とかっていう呼び名は聞いたことあるんじゃないかな。
私も現役時代はこの痛みに苦しんだし、最終的には恥骨結合炎で引退する羽目になったんだ。もう痛いなんてもんじゃないよ。私の場合は「痛い」を通り越して「ヤバイ」だったからね。医者には「これ以上現役を続けると歩けなくなるし、車椅子生活も覚悟して下さい」と脅されたほどだったんだ。
股関節の上部が痛むんだけど、ヘソの横が痙攣したり、腹筋をしても左側だけが効かなかったりしてね。試合中にも痙攣が起きて、「頼むから止まってくれ」と祈るようにプレーしていたものだよ。
この症状が厄介なのは、ボールを蹴らなければ痛みが出ないってことなんだ。私は1995年に現役を退いたんだけど、本当はもう1年プレーするつもりだったから、2、3ヵ月くらいかけてフィジカルを整えていたんだ。ランニングならチームで一番走るくらい体が仕上がって、いざボールを使った練習を始めた途端に痛みが戻ってきちゃった。
それでも体を鍛えたから次の日は大丈夫だろうと思っていたら、2日目、3日目と痛みが増していくばかりでさ。3ヵ月くらいかけて体をつくったのが台無し。もうここが潮時なんだなって覚悟を決めたんだよね。
そういう経験があるからこそ、三竿には無理してボールを蹴らずに、じっくりトレーニングで体をつくっていくようにアドバイスをしたんだ。
三竿が「そう考えています」と答える横で会話を聞いていた鈴木優磨が、「そんなに時間がかかるの?」と驚いていたけど、ボールを蹴ること以外はだいたいできるわけだから、そう思うのも当然だよな。ただ、あの痛み経験しなければわからないものなんだよね。
三竿は焦りを抑えてよくやってきたよ。今季のJリーグでは、試合終盤から出番を与えられて、ACLではスタメン出場も果たした。本当によくぞ戻ってきたよね。Jリーグでの先発復帰には、まだしばらく時間がかかるのかもしれないけど、焦らず着実にステップを踏んでいってもらいたいな。
あともうひとり、焦らずに治療に取り組んでもらいたい選手が鈴木優磨なんだよね。鈴木優磨は昨年の天皇杯準決勝の浦和戦で右ハムストリング筋を損傷していたけど、2月に同じ箇所を再発してしまった。鈴木優磨はO脚だから、足に負荷が自覚しないうちにかかっているんだろうね。
肉離れもサッカー選手には多いけど、ここで無理をすると癖になるからね。完治には4月下旬ごろまでかかるようだけど、まずは万全な状態に戻して、そこから大暴れしてくれればいい。鈴木優磨と三竿健斗がふたりして先発してフル出場できるようになる日はまだ先になりそうだけど、その日が来るのを楽しみに待っているよ。