昨年5月のイニエスタ(右)に続き、同年12月にはビジャ(左)が加入するなど、バルセロナ化が進む神戸。選手間の連絡も移籍を後押ししているようだ

Jリーグは急速に"スペイン色"が増している。

2018年春、J1のヴィッセル神戸はFCバルセロナ(以下、バルサ)のスペイン代表MFアンドレス・イニエスタを推定年俸32億円で獲得し、世界中を驚かせた。神戸はその後も、名将ジョゼップ・グアルディオラが師と仰ぐ、フアン・マヌエル・リージョを監督に招聘(しょうへい)。今シーズンも、元スペイン代表FWダビド・ビジャ、バルサMFのセルジ・サンペールを続けて獲得した。

さらに、神戸はアカデミーにも元バルサの育成責任者を呼び寄せている。「神戸のバルサ化」。それがバルサの胸スポンサーである楽天の三木谷浩史会長兼社長の号令だ。

一方でJ1サガン鳥栖も、昨年の夏に元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスを獲得。年俸は8億円ともいわれ、W杯や欧州選手権で優勝したストライカーの来日にJリーグ全体が色めき立った。鳥栖はスペイン人監督ルイス・カレーラス・フェレールも招き、元バルサのスペイン人FWイサック・クエンカとも契約。神戸と競うように、スペインカラーを強めている。

両チームには、絶大な経済力という共通点がある。流れとしては、クラブが大金を使って世界的選手を獲得。その選手が持っている個人的コネクションを生かし、さらに選手、監督を集める――。実は、イニエスタ、トーレスの"直電"こそが交渉の決め手になっているのだ。

「イニエスタから直接、携帯電話に連絡が入った」

リージョ監督も、そう交渉の実状を明かしている。ビジャ、サンペールも同じだ。また、トーレスはカレーラス監督が現役時代、アトレティコ・マドリードでチームメイトだった。大金が生んだコネクションだが、その中身は極めて人間的だ。

特筆すべきは、J2にまでスペイン人指導者、選手が多く流れている点だろう。昨シーズンまでJ2東京ヴェルディで采配を振っていたロティーナ監督は、指導力が評価され、今シーズンからJ1セレッソ大阪を率いることになった。

J2徳島ヴォルティスも、就任3年目になるリカルド・ロドリゲス監督が率い、スペイン人MFシシーニョを擁する。ほかにも、GKセランテス(アビスパ福岡)、GKビクトル(FC岐阜)、FWファンマ・デルガド(大宮アルディージャ)。スペイン人市場は着実に広がっている。

今季、J1セレッソ大阪で指揮を執るロティーナ監督(中央)も、「礼儀と敬意が何よりも優先される素晴らしい国」と日本を絶賛する

なぜ、サッカー大国の選手がわざわざ日本の2部に来るのか。その答えは実に簡単だ。

まず、スペインの2部リーグでプレーするよりも、J2で外国人選手としてプレーするほうが、給料など待遇面で恵まれている。

世界最高峰のスペインの1部リーグは、年俸も破格。アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(バルサ)は約60億円、ウェールズ代表FWガレス・ベイル(レアル・マドリード)は約27億円。どちらのチームも、レギュラークラスの平均年俸は10億円を超える。ほかのチームにも、年俸2、3億円の選手はゴロゴロいて、その戦いは実に華やかだ。

しかしながら、2部は熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられるにもかかわらず、収入的には厳しい。1部の常連クラブが降格した場合を除けば、年俸1000万円以下の選手のほうが多いだろう。

また、給料未払いなどの事態も少なくない。事実、今シーズンは2部のレウスが経営破綻で消滅した。鳥栖に入団したクエンカも、一度はレウスと契約することになったものの、連盟から認められず"所属先なし"の状態だったのである。

J2徳島でプレーするシシーニョは、かつてスペインのバレンシアBにも所属。こんな代表クラスの選手が、今後も増えていくかもしれない

待遇面だけでなく、日本にいるスペイン人が、積極的に"快適さ"を発信しているのも、Jリーグ流入を促進しているようだ。イニエスタやビジャも、積極的にSNSで旅行風景をアップしている。

中国や韓国もアジアマーケットのひとつだが、クラブとしての組織、練習環境、観客動員などは、日本が抜きんでているという。実際、イニエスタは中国のクラブから桁違いの年俸を提示されていたにもかかわらず、そのオファーを断って神戸に入団した。

何よりスペイン国内では、日本人のマナーのよさや教養がリスペクトされている。

「日本人は親切で控えめ。治安がよく、移動が便利。食事がおいしく、街や作法はエキゾチック」

スペイン国内のテレビでは、岐阜県の「高山祭」が特集されて大人気となった。東京、松本、飛騨、金沢、京都、大阪というのは定番コースのひとつ。観光旅行に来るスペイン人選手も少なくない。元スペイン代表のフェルナンド・ジョレンテは新婚旅行に日本を選び、石川県や岐阜県の神社仏閣を巡った。スペイン代表のセルジ・ロベルトも、ロシアW杯メンバーに外れた後、夫婦で日本にやって来ている。

「もともと、いつかは海外でのプレーを望んでいたんだけど、なかでも日本の評判がよかったから。人としても国としても、訪れてみたかった。自分たちと違う文化に興味があったのさ。代理人が来て、日本でのプレーを誘ってくれたとき、即決したよ」

J2福岡のスペイン人GKセランテスは、入団の経緯をそう明かしていた。セランテスは1部CDレガネスに所属していたが、ケガから復帰後、第3GKという立場に危機感を覚え、出場機会を求めて移籍を志願。「イニエスタのような英雄がいるリーグで」と日本を選んだ。

「日本でプレーしたい! 指導をしたい!」

実は、そう考えているスペイン人は、まだまだいる。スペイン人監督、選手が活躍するたび、その道は広がり続けるはずだ。