サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第92回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、ヴィッセル神戸について。バルサ化を掲げ、多くの外国籍選手が加入した神戸。しかし、本当にバルサに近づくためには、まだまだ課題があると宮澤ミシェルは考える。
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バルサ化を掲げるヴィッセル神戸が、少しずつ形をものにしているね。昨シーズン終盤に加入が決まっていたダビド・ビジャに続いて、CBダンクレーとMFセルジ・サンペールを獲得した。質の高い選手も揃ってきたことも影響しているよね。
4-2-3-1の1トップにビジャを置いて、トップ下にアンドレス・イニエスタ、右にルーカス・ポドルスキ、左に古橋亨梧。中盤の守備的なポジションを山口蛍と三田啓貴、サンペールがつとめている。
守備のところは山口がよくやっているよ。ポドルスキの守備力はたかが知れているから、いつ崩壊してもおかしくないしね。バルサ育ちでボールを回せるサンペールのスタメン起用が増えてきているけど、守りという面で考えたら強化にはなっていないからね。
ブスケツを中盤の底に置くバルサのように山口を配置することができればいいんだけど、そうなると3-4-3になるから、センターバック3枚で守れるのかという問題が起きてしまうんだよな。
しかも、山口の前に入るインテリオールに、バルサならイヴァン・ラキティッチがいるけれど、彼のような選手が神戸には見当たらない。バルサ化を目指して外国籍選手を連れてきても出場枠の関係もあるからね。
やっぱりそのサッカーを体現できる日本人選手が増えないことには難しいし、一朝一夕にできるのならバルサの価値がなくなっちゃうからな。
そのなかでビジャはさすがのプレーを何度も見せてくれているよ。小柄だからDFにつかまれたくないのもあって、ゴール前中央のスペースはわざと空けておいて、最後の最後でそこにキュッと入ってきて、縦パスをトラップしながらDFラインの裏に抜け出す。
パスの出し手と受け手がイメージしている絵が同じでないと生まれないものだし、そこにピカイチのボールを出すのは、やっぱりイニエスタなんだよ。
そこがバルサのサッカーだよな。バルサはゴール前中央のスペースはわざと使わずにペナルティーエリアの角から崩していって、最後の最後でゴール前中央に選手が入ってくる。だから、「なんで?」と思うほど相手マークが外れていることが多い。
これはほかのチームだとゴール前中央にFWがデンと構えている。バルサでもズラタン・イブラヒモビッチの頃はそうだった。本当はイブラヒモビッチが動いて中央のスペースを空ければいいんだけど、彼は動かなかったよね。だから、攻撃がノッキングを起こした。ただ、それでもゴールを決めまくったイブラヒモビッチもすごいんだけどさ。
神戸の攻撃も少しずつだけど、フォーメーションの頂点に人はいない形になってきたよね。空けてある頂点のスペースに最後にビジャが流れ込んできてのゴールシーンばかりが目立つけど、他の選手もあとちょっとでゴールネットを揺らせるとこまで来ている。
守備もダンクレーが効いているから、彼に疲れが溜まったり、欠場しなければ、ある程度は計算できるよね。しかも、彼は縦パスも正確に蹴るから、局面が一瞬で変わることもある。
そうなると課題はポドルスキなんだよな。前を向いてサイドに流れたり、サイドから中央に切れ込んだりしながら、ミドルレンジからの一発ドカーンというポドルスキの良さを最大限に発揮できるポジションが、バルサスタイルの神戸にはないんだよ。
ポドルスキは中盤でよくやっているし、彼にしたら一生懸命に走っていて、守備も頑張っているけれど、運動量が少ないから他の選手にシワ寄せがいっている。そこだよね。ここから夏場に向かうなかで、神戸が本物に近づいていくためには、『VIP』以外の選手たちがどこまでバルサ化に適応できるかにかかっているんじゃないかな。