■コーナーリング性能はF1と同等レベル
4月20日から21日にかけて、国内最高峰のフォーミュラカーレース「全日本スーパーフォーミュラ選手権」が、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開幕した。"F1の登竜門"としても知られるスーパーフォーミュラだが、今シーズンは特に世界から熱い視線が注がれている。
近年のスーパーフォーミュラは、F1並みのコーナーリング性能を備えた高性能マシンで競われ、2017年にはストフェル・バンドーン(元マクラーレン・ホンダ)とピエール・ガスリー(現レッドブル・ホンダ)が、スーパーフォーミュラからF1への正式なステップアップを果たし、世界のレース関係者の間ではジワジワと評価が高まっていた。
そして迎えた今シーズン、新型シャシー「SF19」と幅が広いフロントタイヤが導入され、マシン性能がさらにパワーアップ! シャシーを設計したイタリアのダラーラ社によると、SF19は鈴鹿サーキットの前半部分をF1に匹敵するタイムで走るという。実際、1、2コーナーを猛烈なスピードで駆け抜けていく各チームのマシンの姿には筆者も驚かされた。
マシン性能以上にグレードアップしているといってもいいのがドライバーの顔ぶれだ。今シーズンは海外からF1を目指す有力な若手ドライバーが大挙して参戦し、スーパーフォーミュラは国内選手権でありながら、一躍世界からも注目されるカテゴリーになっている。
「SF19はクルマの完成度がすごく高いです。コーナーリング性能ではF1直下のF2を上回っていますし、F1と同等レベルと言っていいでしょう。またスーパーフォーミュラに参戦するドライバーの質は高いですし、F1を目指す若いドライバーにとってこれ以上ないトレーニングの場になるのは間違いないと思います」
そう語るのは、元F1ドライバーの中野信治氏だ。彼が今シーズンから監督を務める『TEAM MUGEN(チーム・ムゲン)』は、レッドブルの若手ドライバー育成プログラムの有望株、ダニエル・ティクトゥムを起用している。
この若干19歳のイギリス人ドライバーは4月初旬、中東バーレーンで行なわれたF1テストにも参加。今季のレッドブル・ホンダをテストドライブする機会を与えられ、次期F1ドライバー候補生の筆頭とされる逸材だ。「ガスリーと比べるとまだ粗削りなところはありますが、ティクトゥムはすごく速いし、将来が楽しみなドライバーです」と、他の『TEAM MUGEN』の首脳陣も高く評価している。
■大荒れだった開幕戦
そのティクトゥムに加え、レッドブルは育成プログラムから元F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーの甥にあたるオーストリア人のルーカス・アウアー(24歳)をスーパーフォーミュラに送り込んでいる。ほかにも、17年のF2でランキング2位に輝き、昨年はルノーF1のテストドライバーを務めた経験もあるロシア人ドライバー、アーテム・マルケロフ(24歳)も日本に戦いの場を移した。
迎え撃つ日本勢では、ホンダ育成プログラムのサポートを受けるルーキー、福住仁嶺(22歳)と牧野任祐(21歳)に期待が集まっている。ふたりは昨シーズン、F2に参戦していたが今年はスーパーフォーミュラで技術と経験を積み、F1昇格のチャンスを掴もうとしている。F2で優勝経験がある牧野は、スーパーフォーミュラのデビュー戦となった鈴鹿でポールポジションを獲得。決勝はマシントラブルで惜しくもリタイアに終わったが、才能の片りんを見せた。
トヨタの若手では、昨年、全日本F3タイトルを獲得したルーキー坪井翔(23歳)と、星野一義監督率いる名門『TEAM IMPUL(チーム インパル)』から参戦する平川亮(25歳)が注目の存在だろう。
レッドブルのサポートを受ける平川は、「海外の有力ドライバーを倒せば、日本にはすごいドライバーがいるという評価につながります。結果を出して、F1参戦のチャンスを掴み取りたい」と意気込みを語っている。
このようにスーパーフォーミュラは今、世界最高峰のF1を目指す多くの若手たちが集うことで、まさに生き残りをかけた熾烈な戦いの場になっている。そこにF1やル・マン24時間レースなど、世界のトップカテゴリーで実績を残してきた中嶋一貴や小林可夢偉、また昨年のスーパーフォーミュラ王者である山本尚貴らが立ちはだかるのだからワクワクしないわけがない。
さらにピットを見回せば、レッドブル・ホンダの設計に携わり、"空力の魔術師"と呼ばれ数々の名マシンを世に送り出してきたF1マシンデザイナーのエイドリアン・ニューウェイが、今季からスーパーフォーミュラに参戦する20歳の息子ハリソンを応援するためにジーンズ姿でフツーにいたりする!
開幕戦は新型マシンにトラブルが出たり、ルーキーたちのアグレッシブすぎる(?)走りでアクシデントやクラッシュが続出。予選では赤旗が3度も提示され、決勝では4度のセイフティカーが導入される大荒れの展開となった。そんな中、昨年僅差でタイトルを逃したニック・キャシディが優勝し、2位には王者の山本が入り、実力者のふたりが波乱のレースをピリっと締める形になった。
ここ数年、国内のモータースポーツは市販車をベースにしたマシンで競われるスーパーGTが高い人気を誇り、フォーミュラの人気はやや低迷していた。しかし、マシンとドライバーの顔ぶれがガラっと変わり、世界との距離がグッと縮まった今季のスーパーフォーミュラは、かつてないエキサイティングなバトルが見られそう。ひょっとすると"メルセデス一強状態"が築かれつつある今のF1より面白いかも!と感じさせる開幕戦だった。