4月20日のRIZINの前日会見に出席したパッキャオ(中央)。自身の参戦の可能性を含め、今後の動きが注目される 4月20日のRIZINの前日会見に出席したパッキャオ(中央)。自身の参戦の可能性を含め、今後の動きが注目される

4月21日に横浜アリーナで開催された「RIZIN.15」でマニー・パッキャオ(フィリピン)が来日したことは、アメリカでは大きな話題にはならなかった。

ボクシングの世界6階級制覇王者が4月上旬に「RIZINと契約する」と伝えられた際には、ロイター通信、フォーブス、ビジネスインサイダーといった大手メディアが反応した。フロイド・メイウェザー(アメリカ)が、去年の大晦日に那須川天心とエキシビションマッチを行なったのに続き、パッキャオもRIZINのリングに上がると思われたのだ。

しかし、直後にパッキャオ自身がファイトするわけではないことが判明。RIZINとの間に「プロモーション協力の契約が結ばれただけ」と発表されると、報道はすぐに沈静化する。

パッキャオが推薦するWBCムエタイフェザー級フィリピン王者、フリッツ・ビアグタンが那須川と対戦するとはいっても、ビアグタンの知名度がゼロなのだから盛り上がるはずもない。21日の那須川vsビアグタンの試合内容、結果などもメインストリームの媒体で伝えられることはなかった。

パッキャオはアメリカ国内でも文句なしのビッグネームだが、"今が旬"ではない。40歳のレジェンドが実際に戦わないのであれば、極東の格闘技イベントへの関わりが注目されないのは当然だろう。

ならば、パッキャオがRIZINと関わる目的はどこにあるのか。老舗『リングマガジン』のフィリピン系アメリカ人記者、ライアン・サンガリアに意見を求めてみた。サンガリアは過去10年近くにわたってパッキャオの全試合を取材し、1月18日のエイドリアン・ブローナー(アメリカ)戦前にはトレーニングキャンプにも帯同した事情通だ。

「パッキャオがRIZINと提携する理由は大きく言ってふたつ。まず今の彼は、自身をフィリピンの"格闘技アンバサダー"のように考えていて、今回の契約はアジアでの活動を広めるいい機会だと思っているのだろう。

もうひとつは、やはりお金だ。日本で格闘技が人気なことは、フィリピンでもよく知られているから、さらにビジネスの機会を広げるいいチャンスだとも考えているはずだ」

世界に広く名前を知られるボクサーで、慈善家でもあるパッキャオは、アメリカの伝説的ボクサーであるモハメド・アリに最も近い存在といえるかもしれない。フィリピンの上院議員として政治家の顔も持つパッキャオが、「アリのようにアンバサダー役を担っていきたい」と考えるのは理にかなう。格闘技イベント以外でも、さまざまな形でアジア各地を訪れる機会は増えるかもしれない。

昨年末のRIZIN.14で那須川(中央)に勝利したメイウェザー(左)。わずか2分19秒で10億といわれる大金を手にした 昨年末のRIZIN.14で那須川(中央)に勝利したメイウェザー(左)。わずか2分19秒で10億といわれる大金を手にした

ふたつ目の"お金目当て"という部分を、怪訝(けげん)に思うファンもいるだろう。パッキャオは、過去にフライ級、スーパーバンタム級をはじめ6階級を制覇し、巨額のファイトマネーを手にしてきた。

2015年に行なわれたメイウェザーとの"世紀の一戦"だけでも、報酬は約1億5000万ドル(約168億円)。そんなパッキャオにとって、RIZINとの契約で得られるお金は"すずめの涙"程度にすぎないのではないか。

しかし、40歳になったフィリピンの国民的英雄は、実は財政難にあえいでいる。偉大なファイターであるとともに、気前の良さ、散財癖もすでに知られるところ。アメリカでも多額の税金を滞納し、16年以降は米国内での試合が難しくなったのも現地では有名な話だ。

アメリカ内国歳入庁(IRS)との"なんらかの取り決め"で、今年1月には2年ぶりにラスベガスでの試合が可能になったが、今後も声がかかる限り、大金が稼げる限り、パッキャオはリングに上がり続けるはずだ。

引退後も稼ぐためのビジネスチャンスも見据え、ほかの多くの元スター選手と同様に、プロモーターとしての活動を本格化する線は十分にある。パッキャオはすでに「MPプロモーションズ」という自前の会社を経営しており、3月23日にマニラでの興行を成功させたばかりだ。

MPプロモーションズはボクシングの会社であり、総合格闘技への熱意は不明だが、オプションのひとつとして考えているのならば、格闘技人気が高い日本とのコネクションを強めたのも納得できる。今後RIZINがどうなろうと、日本リングに目を向け続ける可能性は高いだろう。

4月21日のRIZIN.15で、那須川(右)はパッキャオ推薦のビアグタン(左)に勝利も、大きな話題にはならず 4月21日のRIZIN.15で、那須川(右)はパッキャオ推薦のビアグタン(左)に勝利も、大きな話題にはならず

最後になるが、RIZINのリングにパッキャオが自ら参戦することはあるのか。昨年末の那須川戦で、メイウェザーは「10億円のファイトマネーをゲットした」といわれ、フィリピンの英雄もそれに近い金額を手にすることは可能。金欠のパッキャオが稼ごうとするなら、自ら日本で戦うのが手っ取り早いように思えるが......。

「パッキャオはメイウェザーのように恥ずかしいことはしないよ。つまり、パッキャオ本人は那須川とは戦わないということ。RIZINで試合をするとしたら? アントニオ猪木が参戦してきたらやるんじゃないかな(笑)」

前出のサンガリア記者は冗談交じりにそう述べ、総合格闘技への参戦を完全に否定した。確かに、1月のブローナー戦でも2000万ドル(約22億円)以上のファイトマネーを稼いだとされるのだから、ボクサーとしての興行力を残した現時点でのRIZINでのファイトは考え難い。

ただ、メイウェザー同様、引退後にボクシングルールでの参戦は考えられる。現役生活と政治家の活動で忙しいにもかかわらず、日本との関係を強めている背景に、そう遠くない未来で「RIZINのリングに登場」というオプションをつくっているのではないかとも思えてくるのだ。