三月場所の会場に飾られていた元横綱・稀勢の里のパネル。大事な部分を避けて「あ」を書いているところに性格が出ていると思う

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、相撲ファンの彼女が"四股名(しこな)"について語る。

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大相撲の力士たちが名乗る"四股名"。江戸時代から続く慣習で、それぞれに意味や由来があるので、深くはまるポイントのひとつです。

現在は、漢字、平仮名、片仮名であればどのようなものをつけてもいいと言われてはいるんですが、そのルールは明文化されていません。よくあるのは、部屋ごとの伝統的な漢字をつけるパターンでしょうか。佐渡ヶ嶽部屋であれば「琴」、春日野部屋であれば「栃」、井筒部屋であれば「鶴」などの字が継承されています。

私が個人的に好きなのは、出身地や出身校にちなんだ四股名。現役の力士の中では「豪栄道」が抜群にいいですね。本名の豪太郎の"豪"に、出身校である埼玉栄高校の"栄"をくっつけたものです。そもそも、豪太郎という名前がガキ大将っぽくて本人の雰囲気にぴったりですよね。

幕内の「竜電」は、出身校の竜王中学校と、江戸時代の最強力士である雷電にちなんだ四股名です。語感がカッコよく、硬派な彼に合うシンプルさが好きです。

さらに、「逸ノ城(いちのじょう)」も出身校の鳥取城北高校にちなんだ四股名です。彼の場合は本名がイチンノロブというので、逸材という意味も込めて"逸"の字をつけています。

そんな四股名の由来の中でも、私がとてもいいなと思うのが「常幸龍(じょうこうりゅう)」。彼は日本大学在学中に父親を亡くしているんですが、そのお父さんの「幸一」さんと「常に一緒に戦う」という意味を込めて、この四股名にしたそうなんです。

最初に彼の名前を耳にしたときは「なんか動脈瘤(りゅう)っぽいな」と思ってしまったんですが、由来を知ると申し訳なく思いました。

家族パターンでは、大波(おおなみ)3兄弟にも注目です。大波家は祖父から3代続く相撲一家なんですが、一番上の兄が「若隆元(わかたかもと)」、真ん中が「若元春(わかもとはる)」、一番下が「若隆景(わかたかかげ)」と、紛らわしい上に早口言葉みたいな並びですよね(笑)。

最初に関取に昇進したのは若隆景なんですが、アナウンサーの方も最初は噛まないように一音ずつ発音していました。早く兄弟そろって幕内に上がって、史上初の3兄弟幕内力士になると同時に、相撲ファンを混乱させるカオスな状況をつくってほしいです。

一方、「なんでそれにしたの?」と疑問に思うものもあります。そのひとつが「妙義龍」。彼の取り口は潔く技能的で、勝っても負けても表情を変えないところが私も大好きです。特に背中の筋肉の素晴らしさは角界一だと思っています。

ただ、この四股名を見ると「群馬県の妙義山にちなんでいるのかな」と思ってしまうんですが、実際は兵庫県高砂市出身。"妙技"にかけているそうなんですが、実在の地名と同じ漢字を当ててしまったのは解せません。

冒頭で述べた以外にも四股名にはさらに暗黙のルールがあって、同一音の力士がいてはダメとか、別の部屋の伝統的な漢字は使ってはいけないことになっています。どうせだったら「縁がない土地にちなんだ四股名はつけない」というルールも足してほしいですね。

さて、次回は実は歴史が長い"キラキラ四股名"と、本名で土俵に上がっている力士の理想の四股名をご紹介します!

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J‐WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、などにレギュラー出演中。"貴乃花"と"景子"と"勝"の文字が入った貴景勝という四股名は、触れないでおこうと思う

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!