ビッグネームたちの"玉突き移籍"――。
欧州サッカーのシーズンが終わりに近づくなか、早くもオフの移籍動向に注目が集まっている。そして今夏は、大物たちがこぞって大移動する可能性も報じられている。
発端は5月14日に、アトレティコ・マドリードに所属するアントワーヌ・グリーズマンが、正式にクラブを去る意向を示したことにある。この28歳のフランス代表は、クラブの公式SNSでファンに向けて次のように語った。
「新しい経験や挑戦のために、ここを去ることに決めた。この5年間、僕らを愛し続けてくれたファンの皆さんに感謝したい」
昨夏のロシアW杯でフランス代表の中心選手として優勝に大きく貢献したグリーズマンの行き先は、バルセロナが有力視されている。まだ合意にこそ至っていないものの、エルネスト・バルベルデ監督は「交渉中だ」と明かしており、移籍金は1億2500万ユーロ(約153億円)ほどになる見込みだ。
ところが、カタルーニャの日刊スポーツ紙『スポルト』は5月18日、「(バルセロナの)選手たちがグリーズマンに"NO"を突きつけた」とする刺激的な見出しを大々的に打った。同紙によると、多くのバルセロナの選手たちはグリーズマンを必要な選手と見なしていないという。
確かにバルセロナには、リオネル・メッシやルイス・スアレス、フィリペ・コウチーニョ、ウスマン・デンベレがおり、前線は補強の最優先ポイントではない。
リーグ連覇を果たしたスペイン王者はシーズン中に、アヤックスのDF兼セントラルMFの新鋭フレンキー・デ・ヨングと来季からの契約を結んでおり(移籍金は7500万ユーロ【約92億円】+出来高と報じられている)、彼の同僚で19歳のCBマタイス・デ・リフトにも興味を示している。
とはいえ、巨額のカネが動く欧州サッカーの移籍市場では、クラブや代理人の思惑もあり、信用できる噂とそうでないものがある。それを踏まえると、現時点で確実に言えるのは、「グリーズマンがアトレティコを去る」ということぐらいだろう。
それでも大方の予想どおり、彼がバルセロナを新天地に選んだ場合、玉突き的に移籍を余儀なくされる選手が出てくるだろう。その筆頭が、ブラジル代表のコウチーニョとみられている。
2018年1月に推定1億4600万ポンド(約205億円)でリバプールからバルセロナに入団した現在26歳のアタッカーは、この1年半の間にその価値を証明できていない。
『スポルト』紙によると、バルセロナは支払った移籍金の半額強ほどで放出を認める構えだという。コウチーニョの移籍先としては、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシー、そして古巣のリバプールといったプレミアリーグ勢が有力視されている。
なかでもチェルシーでは、エースのエデン・アザールが移籍を希望しており、その後釜にコウチーニョを迎えたとしてもおかしくない。ロシアW杯で日本を下した、ベルギーの主力でもあるアザールは、かねてレアル・マドリードへの移籍願望を公言している。今季途中に、彼の憧れの存在であるジネディーヌ・ジダンがレアルの監督に復帰したことで、その思いはさらに強まったもようだ。
浮き沈みの激しかった今季のチェルシーが、プレミアリーグを3位で終えられたのは、16ゴール(リーグ8位)・15アシスト(リーグ1位)を記録したこの28歳によるところが大きい。そのため、ファンやチームメイトの多くはアザールの残留を望んでいるが、マウリツィオ・サッリ監督は「本人の意向を尊重すべき」と話している。レアル側も、1億ユーロ(約122億円)ほどになると見込まれる移籍金を用意しているようだ。
また、ユナイテッドのポール・ポグバも同様に、レアルへの移籍が臆測されている。こちらは同胞のレジェンド、ジダンの存在に惹(ひ)かれていることもあるが、それよりもユナイテッドでの立場に主因がありそうだ。
今季はジョゼ・モウリーニョ前監督と対立して主将の役割を解かれ、その後にオレ・グンナー・スールシャール監督の下で一度は調子を取り戻したが、時間の経過とともに再び覇気の感じられないパフォーマンスに。最終節の試合に敗れると、ホームのサポーターはポグバに容赦ないブーイングを浴びせた。
ユナイテッドのOBで元フランス代表のパトリス・エブラは、「ポールを擁護するわけではないが、あのようなファンの行動はポールを殺すことと同様だ」と、イギリスのスポーツ専門チャンネル『スカイ・スポーツ』で語っている。
スールシャール監督も、ユナイテッドに完全にコミットできない選手を引き留める必要はないと考えているようで、1億2000万ポンド(168億円)ほどの移籍金での放出を容認する構えだという。
そしてレアルでは、ジダン監督が今夏のチームの刷新を図っている。アザールやポグバに加え、リバプールのサディオ・マネらにも興味を示している一方、複数の選手が放出される見込みだ。なかでもギャレス・ベイルが去るのは既定路線とみられている。
昨季のチャンピオンズリーグ決勝で、見事なオーバーヘッドキックとミドルシュートで優勝に貢献したベイルは、監督と良好な関係を築けていない。クラブのラモン・カルデロン元会長も「彼が(レアルに)とどまるのは不可能だ」とイギリスのメディア『BBC』に語っている。行き先の最右翼はユナイテッドあたりになるのか、それとも......。
今夏の移籍市場は、いつにも増して騒がしくなりそうだ。