大迫敬介について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第99回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回は、キリンチャレンジカップでA代表に初選出されたサンフレッチェ広島の大迫敬介について。彼のGKとしてのポテンシャルに、宮澤ミシェルは大きな期待を寄せているという。

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U-20W杯の代表から安部裕葵(鹿島)、久保建英(FC東京)、大迫敬介(広島)が外れたけど、彼ら3選手は今月のキリンチャレンジカップの代表に選出された。5日にトリニダード・トバゴ代表(豊田スタジアム)、9日にエルサルバドル代表(ひとめぼれスタジアム宮城)と対戦した後は、南米選手権を戦うことになるんだろうね。

U-20W杯にしろ、南米選手権にしろ、どちらの大会であってもJリーグでは遭遇できないフィジカルの強さや、勝利に執着したエグいプレーが待っている。これから世界に羽ばたいていく3人にとっては、貴重な経験になると思うよ。

なかでも大迫には、世界のトップレベルに痛い目に遭わされてもらいたいね。

なにも彼の失敗を望んでいるわけじゃないんだ。素晴らしい才能を持った大迫というGKが、これから大きく飛躍していくために、そういった経験をするのもいいんじゃないかっていうこと。

大迫は今季、Jリーグで開幕からゴールマウスを任されると、抜群のシュートストップで一気に正GKの座に就いた。

トップチームでの試合経験は今シーズンからだけど、2015年から広島のユースで数多くの試合で揉まれてきたせいか、試合慣れしているんだよな。もちろん、ユースとトップではレベルが違うんだけど、試合そのものの経験数が多いと落ち着いてプレーできる部分もあるんだよ。

これは大迫だけではなく、ユース出身の選手には比較的感じるものだな。先日もベガルタ仙台の試合を解説したんだけど、DFの常田克人のプレーを見たときも、大迫と同じように感じたんだ。21歳で187cmある常田は、第6節からスタメン出場しているんだけど、空中戦も強くて、外国人FWにも引けを取らない。フィードも課題はあるけれど、そこそこできる。そういう選手が、J1の舞台で伸び伸びとプレーできているのは、きっとユース年代での試合経験が多いからなんだ。

我々の世代は高校サッカーのように負けたら終わりのトーナメント戦で育ったから、真剣勝負の試合を負けたらやる機会がなかった。でも、いまはユース年代でもリーグ戦が増えているから、そうした恩恵を受けていると言えるんじゃないかな。

大迫に話を戻すと、彼はほかのGKに比べて、シュートに対しての始動が遅いことに特長があるね。反応が遅いのとは違うよ。相手がシュートを打つギリギリまで動くのを我慢し、打った瞬間に反応する。しかも、最後の最後まで足の指先で地面を食ってるから、シュートへ反応すると俊敏に動けるんだ。

あのシュートへの反応は、いまならJリーグ屈指だよな。だから、19歳でJリーグのスタメンに抜擢され、しっかりポジションを奪った。ただ、安定感という面では、まだまだ。

以前にボクシングの輪島功一さんが、「防御の技術が未熟なボクサーがいたとしても、その選手が一発のパンチでKO勝ちを積み上げている間は、防御を教えようとしても聞く耳を持ってもらえない。若い選手が勢いに乗ってる間は、勘違いしたままやらせるしかない」と言っていたんだよね。

ボクサーに限らず、若い選手はそんなもんよ。天狗になってる鼻をへし折られてからが本当の勝負っていうこと。いい時もあれば悪い時もある。それがプロスポーツの世界だし、多くの先輩GKもそこを乗り越えながら成長していった。

川口能活の若い頃なんて、当たってる試合ではどんなシュートも防いじゃった。アトランタ五輪のブラジル戦が好例だよな。だけど、当たらないというか、タイミングが合わない日は、「えっ!?」というような失点を喫していた。

そういう好不調の波を年齢を重ねながら小さくする努力をしていったよね。だからこそ、あの年齢まで現役でプレーできたんだよな。

大迫は、いまは怖いものなしの勘違いをしてプレーを続けていればいいし、否応なくプロの荒波に飲まれる日が来るからね。そこを乗り越えて、スケールの大きいGKへと成長していってくれるのを期待しているよ。

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