サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第101回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、なでしこJAPANについて。現在、フランスで開催中の女子サッカーW杯を戦っているなでしこJAPAN。彼女たちの初戦となったアルゼンチン戦を見て、宮澤ミシェルが感じた課題とは。
*****
なでしこがフランスで開催されている女子サッカーW杯のグループリーグ初戦でアルゼンチンと対戦して、0-0の引き分け。試合後にアルゼンチンの選手たちが、まるで優勝したかのように喜んでいたのが印象的だったな。
FIFAランク7位の日本に対して、アルゼンチンは37位。W杯出場は2007年以来の3度目で、過去6戦はすべて敗れていたから、W杯優勝経験もある日本戦を引き分けに持ち込めたのは、相当うれしかったんだろうね。
なでしこにとったら「してやられた」と言わんばかりの展開だったけれど、アルゼンチンにとってこの結果は、決してフロックでもラッキーでもなかったよ。組織だった戦いができていたからこそ、W杯で初めての勝ち点を手にできたんだ。男子サッカーにも言えることだけど、FIFAランクはあてにならない部分が大きいよ。格上だからと言って、なでしこが楽勝するという楽観的な見方はやめた方がいいよな。
一方、ニッチもサッチも行かないまま、勝ち点1のスタートとなったなでしこの選手たちには不満が残っただろうね。ドン引きしてきた相手を崩してゴールを奪うのは、サッカーでは最も難しいこと。圧倒的な力の差があればいいけれど、なでしことアルゼンチンにはそこまでの差はなかったとも言えるんじゃないかな。
相手を押し込んだら、ペナルティーエリアの角から対角線のパスを出したり、縦へのスルーパスを出した、両ワイドのMFが中央にカットインしたりして、相手DFを揺さぶらないと崩すのは難しいんだけど、日本はそうしたプレーがほとんどなかった。引いた相手に真正面からぶつかっていっては、相手のつくる守備ブロックを崩せるわけがないんだよね。
日本サッカーは男子でもW杯アジア予選などでドン引きされるとゴールが奪えずに苦戦するけど、それとまったく一緒。これは日本サッカーにある『バカ正直さ』が、マイナスに作用してしまう。男女ともに戦術的な理解度をもっと高める取り組みをしていかないとダメってことだろうな。
なでしこが苦戦したもうひとつの理由が、なでしこの男っぽいところが出たことだね。ひとつひとつのパスをもっと丁寧に出さないと。決して技術が足りていないわけではないのに、なでしこはパスが大雑把。そこの丁寧さを突き詰めていくのが、日本サッカーが世界で結果を出すためには必要なことだからね。受け手が次のプレーをしやすいパスを出す。その積み重ねが、体格差で劣る日本代表がゴール前で相手を上回ることにつながるのだから。
ただ、そこは大会が進むにつれて修正されていくと期待しているよ。なでしこには初戦の固さに加えて、万が一にも格下にカウンターを食らって失点したらという恐怖感もあったと思うんだ。
実際に、2戦目となったスコットランド戦は、初戦よりもパフォーマンスを上げて、2-1で勝利。現時点で、決勝トーナメントへの進出も決めたしね。まだまだ課題はあるけれど、チームの調子は上がってきているんじゃないかな。
グループリーグ最終戦は優勝候補の一角のイングランドと6月20日に対戦する。なでしこにとっては相手が強い方が、戦いやすいとは思うんだ。相手が前に出てきてくれたら、自分たちの攻撃するスペースも生まれるからね。
なでしこのCBは熊谷紗希が173cm、南萌華が171cmと、日本女性にしたら大きいし、熊谷は2011年の優勝メンバー。20歳の南は2018年のU-20W杯で日本が初優勝したときのキャプテン。ふたりとも国際経験は十分に積んでいるし、自信も備えているから心配はしていないよ。ふたりを中心にしてしっかり守って、サイドから斜めに入れるボールを活用しながらイングランドを崩してもらいたいね。
来年は自国開催の東京五輪が控えているから、このW杯のメンバーが主体となって臨むはず。結果も大切だけれど、来年につながる内容の試合をしてほしいね。
2011年の女子W杯で優勝してから、もう8年だよ。当時の中心選手だった澤穂希さんも宮間あやさんも現役引退してしまい、知っている選手がいないという人も多いかもしれないね。だけど、なでしこは高倉麻子監督のもとで若返りを図ってきたし、魅力的な新たな選手たちが台頭しているから、試合を見たらすぐに魅了されるはず。だからこそ、しっかりと応援してもらいたいな!