6月17日まで行なわれた全日本大学野球選手権では多くのNPB球団のスカウトが熱視線を送った。
その筆頭格が森下暢仁(明治大)だ。大分商業高時代からドラフト候補と騒がれていたが、本人の希望で大学に進学。2年時から侍ジャパン大学代表(以下、大学代表)に選出されるなど国内外で豊富な経験を積んできた。昨年までは試合終盤につかまることもあったが、今季は主将も任されて精神面も飛躍的に成長を遂げ、ひと皮もふた皮もむけた。
東京六大学野球の春季リーグではチームの開幕戦こそ黒星を喫したが、以降は無敗で優勝に貢献。キレのある最速155キロのストレートに加え、緩いカーブなど緩急も自在。スカウトたちは「どの球種でもカウントが取れて、三振が奪える」と高く評価する。
選手権では名門・東洋大を相手に完封し、決勝の佛教大戦でも9回1失点で完投。チームに38年ぶりとなる優勝をもたらし、名実共に「大学ナンバーワン投手」となった。そして、7月16日から"MLB予備軍"ともいえる大学米国代表と戦う、日米大学野球での活躍も期待されている。
また、チームメイトの右腕・伊勢大夢も日本一に貢献。スリークオーターからキレのいいシンカーと力強いストレートを投げ、7回1安打無失点と好救援を見せた準決勝では、自己最速となる151キロを計測。試合ごとの波がなくなれば、プロ入りも見えてくるかもしれない。
捕手では海野隆司(東海大)が群を抜く。昨年の大学代表でも大会途中から正捕手に君臨。この春のリーグ戦でも、複数の投手たちを巧みにリードして3季連続優勝に導くなど、高い守備力に定評がある。打っても4番を担い、選手権初戦の立命館大戦では逆転タイムリーを放って、チームを勝利に導いた。
実はその試合、守備で三塁へ牽制(けんせい)悪送球をして同点を許すミスをしていた。それでも直後に、低めに落ちる変化球を要求してワンバウンドを確実に前で止めた。さらに試合後も「ミスを恐れていては何もできないので」と堂々としており、メンタルはプロ向きといっていいだろう。
準決勝では快進撃が続く佛教大の前に敗れて涙を流したが「結果を受け止めて負けないチームをつくりたいです」と前を向いた。
全国の各リーグを勝ち抜いた大学が集うこの大会は、地方大学の躍進も見どころのひとつだ。そのなかで昨年、今年とシンデレラボーイ的な存在になったのが、技巧派右腕の杉尾剛史(宮崎産業経営大)。
全国的になじみのない大学だが、それもそのはずで昨夏に全国大会初出場を果たしたばかりの新鋭だ。チームのグラウンドは併設校の鵬翔(ほうしょう)高校が優先的に使うため、全体練習は火曜と木曜の夕方、土曜の午前中だけという環境。1987年の創部以来、全国大会は縁遠かったが、その流れを大きく変えたのが杉尾の入学だった。
宮崎日大高時代は3年夏にエースとして甲子園に出場し、東京や九州の強豪大学から勧誘があった。だが、杉尾は「甲子園で初戦敗退し、宮崎の皆さんの期待を裏切ってしまった」という思いから、地元の大学を志望し入学した。創部より監督を務めて33年目となる三輪正和監督が「ウチに来るなんて、嘘でしょう?」と驚いたように、大観衆の甲子園や強豪高校とは大きなギャップのある環境にあえて飛び込んだ。
自主練習への意識も低かったチームで「全国大会出場」「日本一」の目標を下級生時にぶち上げ、先輩たちを時には叱咤(しった)し、積極的に提案をした。そんな杉尾の熱意に周りも触発されて、朝練習が導入され、居残り練習に参加する選手の人数も約10倍に。選手たちの熱意は増していき、夜通し野球について熱く語り合う仲にまでなった。
そして初出場となった昨年は杉尾が全国常連の創価大を8回2失点に抑える好投などで8強入りに貢献し、今年は2試合連続で完投。東海大に延長戦の末、1-2で敗れたが、「球速以上の伸びがある」「同じ腕の振りでどの球種も投げられている」「相手を見て投球を自在に変えている」とスカウトや関係者から絶賛の声があふれた。
敗戦後は「県民の皆さまやチームメイトに申し訳ない」と目に涙を浮かべたが、その貢献の大きさは誰もが認めることだろう。
昨年の選手権の胴上げ投手・津森宥紀(東北福祉大)は、準々決勝の佛教大戦で7回からリリーフするも3点のリードを守れず敗れた。だが、依然として評価は高い。サイドスローから最速149キロのストレートを投じ、変化球もカットボール、スライダー、チェンジアップ、ツーシームを駆使。相手に立ち向かっていく姿勢は見ていて爽快だ。
さらに走攻守三拍子がそろう捕手の佐藤都志也(東洋大)、強豪を力強い投球で牽引(けんいん)する大西広樹(大阪商業大)、望月大希と杉山晃基(共に創価大)の本格派右腕3人も大きな注目を集めた。
そして最後にもうひとり、紹介せずにはいられない投手がいる。それが小川一平(東海大九州キャンパス)だ。
今年の選手権には未出場......というよりもチームの不祥事の影響で春のリーグ戦を辞退しており、出場のチャンスさえ与えられなかった。それでも右腕から角度のある最速149キロのストレートを投じ、ブレーキの利いたチェンジアップと打者の手元で鋭く変化するカットボールは一級品。秋には必ず脚光を浴びることになるだろう。