自ら"文化系プロレス"を名乗り、真剣なバトルからコントのようなエンタメまでこなすインディーズ団体・DDT。1997年の結成以来、13年には2DAYSで開催した両国国技館の興行を満席にするなど話題になった。さらに、7月15日(月)に行なわれる「Wrestle Peter Pan 2019」では、全席無料をぶち上げて話題を呼んでいる。

そんなDDTの創業者である高木大社長は、「今が1番しんどい時期」でありながら「期待感しかない時期」とも言う。果たしてその真意とは――。

――15日の大会は大田区総合体育館で行なわれますが、4000人クラスの会場はDDTのなかでもビックマッチです。それを無料にしたのは驚きましたが、なぜ無料に?

高木 DDTは2年前にサイバーエージェントのグループ入りしたんですよ。そのときからもっと大勢の世間に伝えていかなきゃいけない、知ってもらわなくちゃいけないという気持ちがあって、大きい会場で無料にしようと思ってました。会場に来てもらうハードルを壊すには「無料」が一番だし、お客さんがDDTを知ったきっかけで多いのが、無料イベントなんですよ。サイバーエージェントのグループの中でいろんなシナジー効果を得たのも大きいですね。

――シナジー効果とは?

高木 AbemaTVで番組をやっているんですが、異業種交流会とかで仲良くなった年配の社長さんとかが観ているケースが非常に多い。番組のおかげで認知が広まっているなかで、今回のイベントをやることで実際に来て楽しかったと思ってもらえるんじゃないかなということです。

AbemaTVの効果は一般認知だけでなく、芸能人にも広がり、試合出場の話がいくつも来ていると話す高木社長

――AbemaTVの影響を肌で感じていると。

高木 そうですね、逆に試合も放送で観られるから来ないという声もあるみたいですが、やはり時間のない人、あと地方の人にとっては喜んでもらえているみたいです。プロレスって基本的に1ヶ月に8大会とかやってて全部足を運ぶのは無理ですから。特に今は本当に興行団体が多いんですよ。そして東京には集中してしまっている。だからこそ地方を地固めしておこうと、今はいろいろと種まきしている時期なんです。

――具体的に地方以外にどんな種まきを?

高木 まず認知向上とブランド力の拡大、そしてエースや新人など人材育成。いろいろ多いんですが、やっぱり1番になりたい、そしてナンバーワンよりオンリーワン。そこを目指しているので。

■キーワードは5年? DDTの隆盛を語る

――認知拡大とブランド力はどこまで行けばという目標は?

高木 売り上げは新日本プロレスより下回ってるかもしれないですけど「DDT知ってる、聞いたことある」ってとこまで持っていきたいですね。新日もいまのブームになるまで5、6年かかってるんですよ。僕が物を測るときの物差しってTwitterだったりするんですけど、2013年当時は新日もフォロワー1万人とかで僕と変わらないくらいだったんですよ(編集部注:2019年7月9日現在の新日本プロレスのTwitterフォロワー数は38万人超)。あと5年経つと正直わからないっていうのは僕の中である。

――5年というと、それこそ正直、両国2DAYSを埋めた5年くらい前がDDTのピークだった印象です。

高木 そこが人材に関わってくる話なんですよ。その5年前は僕も一番バランスの取れていた時期だと思っています。

当時はHARASHIMAっていう絶対的な存在がいて、そこ飯伏幸太がいて。エンタメ的な部分も男色ディーノとササダンゴマシンという両輪を中心に生み出していた。それがまず飯伏が欠場して退団し、男色ディーノのケガがあり、ササダンゴマシンも芸能活動が忙しくなってしまって......と色々と変化してしまった。

2013年当時の新日本プロレスと現在のDDTの立ち位置を冷静に分析。DDTが拡大する可能性はまだまだあると話す

――ガチバトルもエンタメも、玄人から見ても素人が見ても、どちらも満足いくものが提供できていたと。

高木 ちょうど今、それをこれから担う人たちを作り出してる最中です。エースに関しては、竹下幸之介や遠藤哲哉、樋口和貞、そして佐々木大輔と、彼らがあとひとつ大きな存在になれば、と。あとうれしいことに若手の「ブレイクしてやろう、有名になってやろう」という欲が強い。そこも期待ですね。僕らはそのためにも壁を用意していかなければならない。

ただ、エンタメ部門ははっきり言って人材不足です。男色ディーノとササダンゴマシンがDDTに参加して15年以上経ちますが、彼らを超える人材はプロレス業界を見ても出てきていない。各団体にはいるかもしれないですけど、大きなムーブメントになっていない。僕のなかではもう二度と出てこないと思っています。

――ただその面白みがなくなると"文化系プロレス"の根本を揺るがすことになってしまうのでは?

高木 DDTがその辺にあるような団体と同じになったらしょうがない。でもそのエンタメ精神は男色ディーノらとは違う形で、誰かが持ってるはず。今、可能性としてあるのがアマチュアプロレスなんですよ。そしてアマチュアプロレスとDDTの相性は悪くない。

■プロレスは見続けるほどおもしろい!

――アマチュアプロレスとの相性というのは?

高木 男色ディーノが「成り上がり」というアマチュアプロレス団体を立ち上げたんですよ、今のDDTにはできない表現があるって。そしたら30人くらい応募が来たんです。DDTでも年間2、3人なのに。そこには昔のDDTと通じるものがあって、「ここだったら俺も入れるだろう」っていうハードルの低さなんですね。飯伏なんて、ビアガーデンプロレスを観て「この人たちに俺、勝てる」と思って入ってきたんですよ。HARASHIMAも学生プロレスの延長ですし。そんな奴らがごろごろいた。

ササダンゴマシンの芸能界の活躍に「新たな時代に突入した」と話す高木。「クロちゃんや山ちゃん呼んだり、彼らを引き込んでの新たなエンターテインメントづくりをしているわけじゃないですか、だからそれですごくいいなと思っているんですよ」

――たしかに今でも他の団体に比べて厳格なイメージはないと思いますけど......。

高木 そのつもりなんですけど、20年を超えてハードルが上がってしまったのかなと。だからこそ、その集まった30人のなかに光る人材がいるんじゃないかなって思います。

――DDTももう22年続いてますが、ステップアップのためにあらゆる課題を解決するための時期なんですね。

高木 今が一番しんどい時期かなと思ってます。ただ一方で、これは強がりじゃなくて期待感しかないのが現状です。いままいている種が、どれかパッて花が開けばいいわけで、花が開くのを待つ。その過程も見てほしいですね。プロレスっていうのは見続ければ見続けるほどおもしろい。

2017年にサイバーエージェントに入ったので、2020年くらいに今の新日本プロレスの位置にいけるのがベスト。来年には勝負をかけていく。実際、うちだと東京女子プロレスが人気になっていますし、女子プロレスのなかでトップに行けるポテンシャルもあると思います。

鼻の傷は試合でついたもの。来年50歳となる高木は「なんでこの歳になってここに傷がついてんのかなー(笑)。で、僕が憧れていた天龍さんや大仁田厚さんは60過ぎてもやってるんで、そう考えると僕なんて15年くらいある。そこはまだまだ頑張らなきゃな」と笑う

――最後にDDTのファンにもメッセージをお願いします。

高木 古くからDDTを応援し続けてくれてる方は「今のDDTは戸惑ってる」っていう思いがあったりで、それも伝わるし、わかる。残念な話ではあるんですけど飽きるのは仕方ないと思っているし、でも必ず戻ってきてもらえると信じてるわけです。実際、僕らは意外と古参の方の顔を覚えていて、大きなイベント興行には必ず来てくれているんですよ。

"Show Must Go On"という好きな言葉があるんですけど、何があってもショーは続いていく。これがなくなっちゃったら終わり。そうしないように続けていく、この繰り返し。今回の無料イベントも含めて、新規の方にも古参の方にも"魅せられるもの"を作っていかなくてはと思います。