山本美憂、44歳。このレスリング元世界女王は総合格闘家として進化を遂げ、6月2日のRIZINでは、長男アーセン(22歳)と念願の「母子同時勝利」を飾った。そして今年、山本家にはもうひとつうれしいニュースが。アーセンに第一子が誕生したのだ。初孫、そしてファミリーの絆について、旧知の女性カメラマンが深堀りした。
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■全然"完璧ママ"じゃないんです
――初孫、空(そら)ちゃんのご誕生、おめでとうございます!
美憂 ありがと~。2月14日、バレンタインデーに生まれた女の子だよ。
――美憂さんは次男、長女とグアムに住み、アーセン一家はハンガリー在住。お孫さんに初めて会えたのは?
美憂 生まれて2ヵ月後かな。かわいいよ~。母親のドルカ(ハンガリー出身)に似て、目が大きくて。最初会ったとき、私を見て泣いたけどね! 普通に抱っこすると泣いちゃうの。うつぶせにして、片腕に乗せると泣きやむんだけど。
――格闘家ならではの抱き方? 郁榮さん(いくえい/美憂の父)にとってはひ孫になりますね。もうベッタリ?
美憂 意外と普通かな。ひ孫じゃなく、孫みたいに思ってるみたい。アーセンが生まれたときも、自分の子供のように接してたから。私がアーセンを怒ったら、「おまえらケンカはやめろ!」って。母親として叱ってるのに、なんで私まで怒られるの?って(笑)。
――アーセンは育児をがんばってますか?
美憂 やらされてる感じじゃなく、がんばってるみたい。奥さんが昼、アーセンは夜担当なんだって。私のときは24時間フル稼働だったけど、時代と文化の違いかな。よく連絡が来て、子育ての相談はある。「赤ちゃんのウンチが出ないんだけど」とか。「綿棒でちょこちょこって刺激すると出るよ」とか細かいアドバイスはするけど、子育てのやり方までは口を出さない。それは夫婦で決めることだから。
アーセンの10歳下に次男のアーノン、その下に長女のミーアがいるんだけど、アーセンはこの子たちの面倒を本当によく見てくれてたから、子育ても大丈夫だと思う。(*取材後、アーセン一家もグアムに移住)
――美憂さんは、弟の"KID"徳郁(のりふみ)さんが赤ちゃんの頃、オムツを換えていたそうですね。自分もまだ2、3歳なのに(笑)。
美憂 そうそう。オムツの中を見てオシッコしてたら「してるしてる!」って言って換えてた。
――お母さんに言われて手伝っていたのではなく?
美憂 全然。私は基本、おせっかいで、人の面倒見たくなっちゃうの。
――世話焼きお姉さんではあるけど、失敗もいっぱいあって。
美憂 アハハ。失敗の数といったら(笑)。
――周りも、美憂さんが困ってたら助けてあげたくなっちゃう。
美憂 私、シングルマザーの時期がほとんどじゃない? だから、いろんな人に助けられてる。
――結婚、離婚、レスリング復帰を3回経験しています。育児との両立は大変だったんじゃないですか?
美憂 アーセンが小さい頃、(1999年に)復帰したときは母も生きてたし、(父の郁榮、弟の徳郁、妹の聖子ら)家族みんなでトレーニングしてたから、全然問題なかった。(リオ五輪出場を目指し移住した)カナダでも、(徳郁の闘病のため移住した)グアムでも、練習のときは誰かしら子供の世話をしてくれる人がいたから、すごく大変な思いとかはなかったかな。子育てってひとりじゃできない。支えてくれる人がいるからがんばれるんじゃない?
――「母親らしく育児に専念しろ」みたいなプレッシャーはなかった?
美憂 全然なかった。自分でも「こうしなきゃ、ああしなきゃ」っていうのはなかったかな。ご飯食べさせてればいいか!って感じで、行事とか忘れちゃったりする。七五三ってやったっけ?みたいな(笑)。カナダ、沖縄(MMA=総合格闘技のトレーニングのために移住)、グアムと転々として、子供たちにも迷惑かけてるけど、それが私たち家族の生き方だってわかってくれてる。
――ひとりで抱え込まないのが大事なんですね。
美憂 普通に子供の前で弱音吐いてるもん(笑)。「なんで練習で疲れてるのにお皿洗いやらないといけないの?」とか。アーノンもミーアも「はいはい!」ってやってくれる。だから、さらに家事の手を抜く(笑)。もともと育児や家事と格闘技を両立できるなんて思ってなかったから。全然"完璧ママ"じゃないんです。
――では、「これだけは大事にしている」っていうことは?
美憂 愛情かな。子供たちは海外で育った期間が長いから、「ママ、愛してるよ」とか普通に言ってくれる。どんなに大変なことがあっても、そういう言葉のかけ合いでつながっていられる。最近、たまたま本屋さんで見つけた本の中に、「これ、ウチのことだ!」って思った言葉があって。《私たちの仕事で行ったところがどこであれ、それがわが家でした。私たちはカタツムリのように家を背負って歩くのです》。オードリー・ヘプバーンの言葉なんだけどね。
――へ~! というか、本読むんですね(笑)。
美憂 読むんです(笑)。たま~にね。私、母が亡くなってからは転々としてて、家らしい家を持ったことがないの。パパはいるけど、ママがいないと実家がない気持ちなの。自分の居場所はどこ?って思ってたこともあったけど、子供たちが私の居場所なんだって気がついた。
――いい話! アーノンとミーアが独立して出ていったら寂しいですね。
美憂 それだけはやめて!って言ってる(笑)。アーノンは野球をやってて「僕は将来メジャーリーガーになるから、ずっとついてきて」って言ってる。ミーアは「アーノンのパーソナルシェフになる」って(笑)。
■アーセンの子供は私の姪っ子なの!
――子供を育てながら、自分のやりたいことも諦めない。大変だろうけど、女性にとってうらやましい生き方ですよ。
美憂 やりたいって思ったことはやらなきゃ気が済まないの。やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい!
――3回の結婚も、したいからした?
美憂 うん。この人が大好きだと思ったから結婚したし、レスリングも、3年とか7年とか引退してた時期があるけど、それは「やれなかった」のではなく「やらなくてもいい」と思っていたからやらなかったの。(2011年に)復帰したとき、「7年もブランクがあって、その年でやるの?」と言われたりもしたけど、やりたいことを制限したら、自分を嫌いになるくらい悔しさが残るだろうなって思ったから、やっちゃえ!って。
――そして今はMMAで大活躍。まさに"世界最強のおばあちゃん"ですね。
美憂 ハハハ。あのね、私、今、伯母なの。
――え? 「今、伯母」ってなんですか(笑)。
美憂 現役中はね、アーセンは私の弟。
――はい?
美憂 以前、出稽古で通ってたキックボクシングジムの会長がね、とっても怖いんだけど、とってもいい人なのね。
――話、それてませんか(笑)。
美憂 そこでアーセンが私を「お母さん」と呼ぶと、会長が「お母さんじゃねえ! 姉だ!」って怒るの。つまり、現役中は親子関係とか年齢は関係ない。会長はその意識を植えつけようとしてたのね。それには私も賛成で、年齢はただの数字だと思ってたほうが強くなれると思うから、アーセンの子供は私の姪(めい)っ子!
――この記事の見出しでは呼び方を変えておきます(笑)。現役はいつまで続けたい?
美憂 それも決めないことにした! 自分が描いた未来予想図は全部、そのとおりになってないから。つい1ヵ月前まで考えもしなかったMMAを気づいたらやってたり、ずっとカナダに住むんだろうと思ってたら沖縄やグアムに引っ越したり。MMAではまだ成長してるし、ここでやめたらもったいないしね。
ほかにもやりたいことはいろいろある。グアムのレスリングは発展途上だから、自分にできることはしたいし、ノリ(徳郁)がやりたかったことを引き継いで実現したい。ノリは以前、日本でカレーショップをやっていて、グアムでも店を持ちたいって言ってたのね。ほかにもコーヒーショップとかジム経営とか、いろいろやりたいことがあった。それから、ノリは自分の子供たちをグアムで育てたいって言ってたから、ノリの家族を呼べるように、その基盤をつくっているところ。
――KIDさんのご家族、今は日本にいるんですね。
美憂 そうなの。奥さんはつらい時期で。時間がたって楽になるどころか、どんどん寂しくなって、かわいそうで。私、MMAを始めたとき、ノリのコーチの下でやるって決めて、ノリが(練習の拠点として)沖縄に行きたいって言うからついていった。グアムで治療することになったときも、私がついていくことは暗黙の了解だった。たぶんノリも向こうで、私のこと頼りにしてると思うから、子供たちと奥さんのお世話は絶対やらなきゃいけないことだと思ってる。
――山本家全員の母みたい! グランドマザーというよりゴッドマザー。
美憂 アハハ! 母みたいに頼りになるかはわからないけど、とにかくノリが安心できるように、家族のためにできることをやりたいだけ。ちゃんとやれてるかと言われたら、できてないけど、ただ「大丈夫だよ」って伝えたいの。
――今日は心が温まるお話、ありがとうございました!
美憂 プレイボーイって子育てコーナーとかあったっけ? こんなんで大丈夫なの?(笑)
●山本美憂(やまもと・みゆう)
1974年生まれ、神奈川県出身。ミュンヘン五輪代表の父・郁榮の下、弟の"KID"徳郁、妹の聖子と共にレスリングの英才教育を受け、世界選手権を3度制覇。2016年にRIZINで総合格闘技デビュー。現在4連勝中で、RIZIN女子スーパーアトム級王座への挑戦が期待されている