サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第105回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、横浜F・マリノスについて。Jリーグ前半戦を好調のうちに折り返した横浜FMを宮澤ミシェルは「観ていてもっともワクワクする」と絶賛する。
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横浜F・マリノスのサッカーがおもしろいんだよ。今シーズンのJリーグで観ていてもっともワクワクする攻撃的な試合をしていると言ってもいいだろうね。
攻撃的なサッカーをするチームは、川崎フロンターレを筆頭に、名古屋グランパスやヴィッセル神戸などもあるけど、横浜FMのそれは他のクラブとも一線を画しているよ。
アンジェ・ポステコグルー監督のもとで、昨年からハイラインの攻撃重視のスタイルに大きく舵を切ったけど、昨年ははっきり言ってグジャグジャだった。攻め上がろうとしたところでミスが出てボールを失ってカウンターを食らったり、攻め込んでいるときのDFラインの裏の広大なスペースを使われて失点を喫したりしていた。
だけど、今年はハイライン・ハイプレスなのは変わらないんだけど、2年目のシーズンだけあって、選手たちがこなれてきたせいか、理想的な攻撃スタイルに近づきつつあるよ。
1トップにエジガル・ジュニオがいて、トップ下にマルコス・ジュニオール。右に仲川輝人、左に遠藤渓太が入って、喜田拓也と天野純が守備的MFをつとめている。さらに、攻撃陣には三好康児も控えている。攻撃的なサッカーをするのに相応しい、いい陣容が揃っているよ。
マルコス・ジュニオールはゴール後に披露する『ドラゴンボール』のパフォーマンスが浸透してきているけど、彼は厄介なポジショニングを取るんだよ。トップ下にいたり、左サイドに張り付いたりと自由に動き回る。で、相手がその動きやポジショニングに警戒を薄めるとマルコスの思うツボ。
右の仲川か、左の遠藤を中心にサイドから仕掛けてくる間に、マルコス・ジュニオールはゴール前にスルスルッと入ってきてシュートチャンスを待つんだよ。DFにとっては厄介な動きをする選手だよ。
東京五輪世代のひとりの遠藤は、左サイドでガンガン切り込んで行ってゴール前にラストパスを送る。右の仲川はスピードがあって縦横無尽に動き回る。ふたりが両サイドからゴールに迫りながらチャンスをつくるのだけど、これの迫力がすごい。攻撃がハマると大量得点は当たり前だからね。
プレーメイカー的な役割を担っている天野は、相変わらず左足のキック精度は抜群。だけど、試合に出たり出なかったりもある。もったいないよ、彼の潜在能力の高さを考えるとね。日本代表にも選ばれたこともある天野には、もうひと皮もふた皮も剥けて、代表定着を目指してもらいたいね。
昨季は課題だった守備陣は、GKにパク・イルギュが台頭したのが大きいね。彼は韓国国籍だけど、育ったのは埼玉県。昨年まで3シーズンをFC琉球でプレーした叩き上げの苦労人で、今季J3からJ1の舞台にステップアップした。29歳と遅咲きだけど、最後尾で努力の成果を見せてくれているよ。
畠中槙之輔とチアゴ・マルチンスのCBコンビも安定感が出てきている。畠中は日保代表にも招集されているけれど、彼のプレーは安定感があるよ。フィードもうまいし、何よりパスを出すタイミングがいいんだ。彼の縦パスは受け手が次のプレーに移りやすいよ。
日本代表のフォーメーションと似ているサッカーで結果も残しているから、このままレベルアップしていったら、そのうち日本代表に横浜FMの選手がゴソッと選ばれるかもしれない。そう思わせるくらい、魅力的な攻撃を繰り広げているよね。
ただ、攻撃的なサッカーは脆さと背中合わせで、6月29日の第17節のFC東京戦のようにミスからペースを崩して、逆転負けを食らう可能性は高い。優勝を狙うには堅守速攻のチームの方が計算はしやすいんだけど、そんなサッカーのチームばかりになってもJリーグはつまらなくなるだけ。横浜FMには、後半戦も攻撃的なサッカーで相手をぶっ飛ばしていってもらいたいな。