昭和と令和を代表する「奪三振王」、江夏豊氏(左)と千賀滉大選手がピッチングの極意を語り合う!

今季ここまで断トツの奪三振数&奪三振率を誇り、リーグナンバーワン投手に君臨するソフトバンク・千賀滉大(せんが・こうだい)を、シーズン401奪三振という"世界記録"を持つレジェンド左腕、江夏豊氏が直撃。昭和と令和を代表する"奪三振王"がピッチングの極意を語り合う! 

共に無名高出身のふたりがまず語り始めたのは、大船渡・佐々木朗希投手の「登板回避問題」だった――。

■甲子園はテレビで見るものだった

江夏 初めまして。

千賀 初めまして。千賀と申します。

江夏 あなたの経歴を見させてもらったが、愛知県の蒲郡(がまごおり)高校出身か。大変失礼だけど、全国的には無名だよね。強豪校ではなかった?

千賀 はい。部員集めに苦労するようなレベルでした。

江夏 じゃあ、甲子園なんてまったく出られない?

千賀 甲子園はテレビで見るものでしたね。

江夏 オレと一緒だ。自分も無名の学校で、甲子園は遠い存在だった。だからプロに入ってから、甲子園に出たヤツ、そこで活躍したヤツには負けたくないという意識があった。

千賀 僕もそれに近い意識はあります。毎年夏になると、いろんなテレビ番組に甲子園で活躍したプロ野球選手が出ますけど、僕には絶対にオファーが来ないですから(笑)。

江夏 ふふふっ(笑)。甲子園は自分にとって遠い存在だったし、ずっと憧れなんだよな。だから今だってね、「甲子園に出られる高校生はすごいな」と思ってる。恥ずかしいけど、開会式をテレビの前で正座して見ていた時期もあったくらいだからね。

千賀 ほかの大会とは違うものがありますよね。

江夏 そういう意味では、最近話題になった大船渡高校の佐々木君。岩手大会の決勝で投げなかったじゃない? あなたから見て、どう思った?

千賀 正直、「本人は投げたかったんじゃないかな」と思いました。僕自身、3年の夏は愛知大会の3回戦で負けましたが、その試合で先発できなかったんです。

江夏 そうだったのか。

千賀 その前の試合で投げていたので、3回戦は先発できなくて。大差がついた後で登板はしましたが、「高校最後の試合に先発で投げられなかった」という気持ちはすごくわかるなと。今の佐々木君とは当時の僕のレベルや境遇が違いすぎるので、「わかる」と簡単に言っていいのかわからないですけど、彼がベンチで悔しい気持ちで見ていたのは間違いないと思うんです。

江夏 佐々木君の場合、健康管理を理由に監督が投げさせなかった。これはね、どちらがいい、悪いという答えはないと思う。でも、自分の希望としては、投げてもらいたかったんだよね。

千賀 僕も同じ気持ちです。

江夏 なんのために仲間と一緒に汗をかいてきたか。

千賀 2年半も一緒にやってきたんですから、仲間のことは絶対頭にあったと思います。

江夏 なあ。寂しい部分もあったと思うよ。

■常にチームに勝ちを持ってこられる投手が理想

江夏 あなたは無名の学校から育成でプロに入ったわけだ。どういう気持ちでこの世界に飛び込んできた?

千賀 育成契約で背番号は3桁だったので、自分の周りにいる背番号2桁の支配下選手に負けないように、という気持ちは常に持っていました。

江夏 今もそういうライバル意識は持ってる?

千賀 僕も背番号が2桁になって、だいぶ立場も変わってきたので、今は他球団の選手を少し意識しています。

江夏 そうか。今はもう、チームじゃなしにリーグを代表する投手に成長したんだからね。去年まで3年連続で2桁勝って、今年は2年続けて開幕投手を務めた。シーズンの約半分が過ぎたけど、あなた自身の状態はどう?

千賀 これまで毎年、体のどこかに不調を起こしていて、イニングをたくさん投げることができなかったんですけど、今年は順調にきています。イニングもそれなりに放れているので、まずまずかなと思っています。

江夏 故障の心配はないか?

千賀 今年は何もないです。

江夏 そうか。体だけは自身で管理しないとね。それであなたの成長ぶりは数字に表れているとおりと思うんだけど、桁違いに多いのが三振なんだよ。奪三振率の高さも光っている。11.75(154奪三振/118投球回)という数字は先発としては途轍(とてつ)もない高さだ。三振にはこだわっている?

千賀 ランナーがたまれば外野フライでも失点する場面はありますが、そこでしっかり三振を取れる投手でありたいと思っています。三振は僕の中ですごく重要ですね。

江夏 バッターは三振だけはしたくないと思って打席に入るわけだから。ここは三振しかないという局面で確実に三振を取れることが大事だよ。

千賀 はい。あとは三振に応じた寄付も始めたので、その意味でもこだわっています。

江夏 三振ひとつにつき1万円を寄付しているらしいね。

千賀 「オレンジリボン運動」という児童虐待防止に取り組む団体の活動がありまして、そのための寄付です。子供の虐待に関するニュースが増えているなかで、何か自分にできないかと思い、始めました。

江夏 素晴らしいね。三振を取るひとつの要素として、あなたの場合、球種は真っすぐ、フォークがメインだよね。

千賀 はい。それが自分の武器ですし、この真っすぐとフォークでひとつでも多く三振を取り続けたいですね。

江夏 どちらも素晴らしいボールだと思うよ。フォークはしっかり挟んで、真っすぐ下に落としてるわけ?

千賀 なるべく真下に落とすようにしています。真っすぐとフォークがベースになる球ですが、今年からカットボールも使っていますね。

江夏 ああ、カットボールね。例えば、今年から古巣のヤクルトに帰ったけど、昨年まであなたと一緒にやっていた五十嵐亮太はアメリカでナックルカーブを覚えてきた。そういうボールはどう?

千賀 大きい曲がり球に関してはあまり自信がないんです......。やっぱり、真っすぐとフォークが中心ですね。

江夏 うん。それはそれでいいと思う。自分としては、スライダーはあまり放ってもらいたくないんだよね。

千賀 横振りの要素が入ってくるからですか?

江夏 スライダーというボールはどうしても置きにいくじゃない。置きにいくことで、真っすぐの球威も抑えてしまうような感じがあるから。

千賀 確かにスライダーを投げた後、その次に投げる真っすぐがよくない、ということはあります。

江夏 あるよね。だからこそ、真っすぐやフォークがいい投手にはあまりスライダーを放ってもらいたくないんだよ。あなたとしては、試合の中の局面で三振をきっちり取る以外に、投手としてどういう理想を持っている? 勝ち星、防御率という投手として目指すべき数字もあるけれど。

千賀 常に試合を作って、常にチームに勝ちを持ってこられる投手が理想ですね。それが結果的に、僕の勝ち星につながっていけばいいなと思っています。

江夏 苦しいぞぉ。常にそういうことを考えてマウンドに上がるというのは。

千賀 先発として投げ続けていくなかで、「千賀がいたら試合に勝てる」と首脳陣もチームメイトも思ってくれている、と実感してきました。その半面、僕がコケたらチームの雰囲気がすごく悪くなる、ということも実感しています。ですから、どれだけ調子が悪くても、常に試合を壊さないように投げていくというのが最低限の役目ですね。

江夏 工藤監督が聞いたら本当に喜ぶと思うよ。そういう意味では精神的に苦しい部分は大きいと思うけど、本当に頑張ってもらいたいよ。

■負けん気と探究心でここまでやってきた

江夏 あなたは育成から這(は)い上がって大活躍しているが、モットーは何かね?

千賀 ひとつは負けん気ですね。やっぱり、育成から入ったことで、アマチュア時代から活躍して有名だった選手がプロでも結果を出しているのを見て、「負けたくない」という気持ちでここまでやってきたので。

江夏 言葉は悪いけど、育成で入った選手がここまで大きくなったのはすごいことだしね。育成ではなくても、まったく無名でプロ入りした選手にとっていいお手本であり、いい目標になってもらいたい。

千賀 もうひとつは探究心です。自分がどうすればもっともっと成長していけるか、日々、探し求めていくことを大事にしています。

江夏 あなたが探し求めていく先には、メジャー挑戦という夢もあるのかな?

千賀 僕自身、プロに入ったときからずーっと上を見てやってきた人間です。そういう人間がもうひとつ違うステージでやってみたらどうなるのか、という興味はあります。

江夏 そうか、そうか。ところで、あなたはポジションに関する希望はあるの? あくまでも先発完投型なのか、それともセットアッパーもしくは抑えなのか。

千賀 今は先発をやらせてもらっているので、最後まで投げ切れる投手になりたいんですが、なかなか難しくて......。

江夏 完投はそれほど多くないんだよな。

千賀 いやもう、全然できないんですよね。コントロールが悪すぎて。

江夏 自分で欠点はわかってるんだろ?

千賀 わかってます。

江夏 じゃあ、それを直せばいいじゃない(笑)。

千賀 はい(笑)。

江夏 簡単なことだよ。何度でも言わせてもらうけど、あなたは育成からここまで這い上がってきた男なんだから。それぐらい直せるよ。

千賀 そうですね。

江夏 絶えず目標を持って、ボールに相対すること。ボールというものは丸いものだから、自分の気持ちもボールに対しては丸くならなくちゃ。そうやってぶつかっていくほうがいいと思う。

千賀 わかりました。ありがとうございます。

江夏 今日はありがとう。応援してるから、頑張って。

●千賀滉大(せんが・こうだい)
1993年生まれ、愛知県蒲郡市出身。蒲郡高1年春に三塁手から投手へ転向。3年夏は自身が先発せずに3回戦負け。ドラフト育成4位で2011年にソフトバンクに入団し、12年4月に支配下登録。速球と「お化けフォーク」を武器に16年から先発に定着し、以後3年連続2桁勝利を記録。17年WBCで優秀選手、同年リーグ勝率第1位に輝いた。今季開幕戦ではプロ野球日本人2位タイの161キロをマーク。186㎝、84㎏。右投げ左打ち。背番号41

●江夏豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ