プロランナーとしてスタートを切った川内優輝 プロランナーとしてスタートを切った川内優輝

明日9月15日(日)に開催される東京五輪マラソン代表選考会、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)。上位2選手が五輪出場権を獲得する大一番を前に、世界選手権(9月27日開幕、ドーハ)代表の川内優輝(かわうち・ゆうき/32歳・あいおいニッセイ同和損保)を直撃。混戦の男子をズバリ予想してもらった!※出場予定選手など、本記事の情報は9月4日現在のものです)

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■優勝予想タイムは2時間15分台!?

今年3月末で埼玉県庁を退職し、4月からプロランナーとしてスタートを切った川内優輝。暑さが苦手なことを理由に、権利を持つMGCの出場を辞退し、世界選手権(カタール・ドーハ)の代表にまわった彼は、これまでにフルマラソン完走97回、季節や距離を問わず国内外のレースに出まくるなど、自他共に認める"マラソンマニア"である。

今夏は北海道・釧路をベースに長期合宿を組んでいた川内に、MGCのレース展開や注目選手を聞いた。

――どんなレースになると予想しますか。

川内 正直、まったく読めないですね(笑)。普通に考えれば、残暑も厳しくスローペースになるのかなと。五輪の出場権がかかっているということで、30kmくらいまでは大きな集団で探り合いの状態が続き、ラスト勝負......みたいな。

一方で、一世一代の東京五輪の選考レースで、ただ指をくわえて中途半端な走りをしても仕方がないと思う選手がいるような気もします。当日の天候や気温にもよりますが、特に持ちタイムで後れを取っている選手が思い切ったことを仕掛けてくる可能性は十分。(普段はレースをリードする)外国人選手やペースメーカーがいないということもありますし、本当に未知ですね。

――大迫 傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)、設楽悠太選手(Honda)、井上大仁選手(MHPS)、服部勇馬選手(トヨタ自動車)が「4強」と言われています。

川内 持ちタイムを見れば、そうなりますよね。ただ、夏のレースでそこまでズバぬけた力があるのかは疑問です。

――何がレースの行方を分けるカギになるでしょう。

川内 揺さぶりをかけてくる選手はいると思いますので、その見極めは重要でしょうね。夏のレースでは、少しのペースアップでも消耗が激しいですから。

おそらく大迫選手はレースを引っ張るというよりも、誰かが出たらそれについていく感じ。そうなると設楽選手、井上選手がどのあたりで仕掛けるか。ふたりが20km手前で飛び出すようなら、もうグチャグチャな展開になるかもしれません(笑)。

――東京五輪とほぼ同じコースについてはどんな印象を?

川内 ひとつの注目は最初の下り。大逃げして勝負しようという選手がいない限り、序盤はスローペースになると思うのですが、スローでの下りは逆にブレーキがかかってしまい、かえって脚に大きな負担がかかることもあります。

あとは最後、四谷あたりから約5kmの上りになるので、そこはキツそう。ただ、全体的に見れば、そこまで難しいコースではないと思います。

――レースを見る上でのポイントなどありますか?

川内 汗のかき具合、給水をちゃんと取れているかは注目ですね。31人もいれば、給水をミスする人も出てくるでしょうし、暑いレースではひとつの給水ミスが命取りになることもある。あとは集団の中での位置取り。ずっと中にいても疲れますし、ずっと外側にいても大回りになることがある。集団が大きければ、脚が絡まるリスクもあります。

――暑さがレースに与える影響も小さくなさそうですね。

川内 展開同様、読めない部分ではありますが......。五輪の本番は来年8月9日の午前6時スタートですが、MGCは9月15日の午前8時50分。場合によってはMGCのほうが暑くなるかもしれないし、逆に涼しくなるかもしれない。厳しい暑さになれば、優勝タイムが2時間15分なんてこともあると思います。

■大迫選手は強いが、気になることもある

コースは東京五輪とほぼ同じ。男子は31名が出場予定。上位2名が五輪代表に内定。残り1枠は今年度の指定3大会で設定記録(男子2時間5分49秒)突破の最上位者かMGC3位に コースは東京五輪とほぼ同じ。男子は31名が出場予定。上位2名が五輪代表に内定。残り1枠は今年度の指定3大会で設定記録(男子2時間5分49秒)突破の最上位者かMGC3位に

――ズバリ、本命は?

川内 個人的には、井上大仁選手がいいのかなと思っています。以前は前半に突っ込んで、どこまで持つかという走りをしていましたが、昨年のアジア大会(インドネシア・ジャカルタ)では(ゴール時の気温が30℃のなか)勝負に徹し、我慢の走りで金メダルを取りました。タイムは2時間18分22秒と平凡でしたが、勝ったことに価値がある。

それに東京マラソンのようなタイムを狙う高速レースだけでなく、アジア大会のほか2017年の世界選手権(イギリス・ロンドン)など勝負(重視の)レースを経験しているのは強みだと思います。

――では、対抗は。

川内 設楽悠太選手ですかね。本来はスピードが持ち味で、井上選手以上に前半に突っ込み、なんとか粘るスタイルでしたが、今年7月のゴールドコーストマラソンではこれまでと違い、終盤の仕掛けで相手を振り切って優勝しています(※タイムは2時間7分50秒)。MGCでも同じ展開になれば、ほかの選手は対応するのが難しいのでは。

ただ、猛暑のなかスローペースになったときに我慢できるかどうか。設楽選手はいつも飄々(ひょうひょう)としていてプレッシャーなどは感じないタイプだと思うのですが、自分のペースで走れないときに我慢ができそうな感じはしません。あまりにスローになるようなら飛び出すと思いますが、それが早すぎると最後まで持たない気がします。

――現日本記録保持者の大迫選手はどうでしょう? 優勝候補に推す声が多いですが。

川内 強いのは間違いないです。ただ、大迫 傑選手は設楽選手や服部勇馬選手と一緒で、マラソンデビューのボストンを除けば、ペースメーカーのいない、駆け引きのあるレースを経験していません。

それにMGCでは大本命にされて、これまでにないプレッシャーがかかっていても不思議ではない。ほかの選手に相当マークされるでしょうし、いつもの走りができるかどうか。

――4強では唯一、マラソン優勝経験もないですね。

川内 大迫選手は、ボストン、福岡国際、シカゴと3位が続いていますが、(今回)3位だと五輪は決まりませんからね。過去のレースを振り返っても、基本的に集団の後方で構えて誰かについていくという感じで、自分で引っ張ったレースではありません。

それに直近の3月の東京マラソンを途中棄権しているのも気になります。棄権は一度すると(レースをやめる)誘惑のハードルが下がりますから。

■展開次第で思わぬ選手が勝つことも

――4強最後のひとり、服部選手は、昨年12月の福岡国際マラソンで日本勢として14年ぶりに優勝しています。

川内 彼はもともと暑さが苦手。昨年の福岡は12月にしては20℃と暑かったんですが、夏の暑さはまた違うので。

――そのほかの注目選手は?

川内 あくまでハーフマラソンの結果ですが、最近の成績を見ると佐藤悠基選手(日清食品グループ)が面白そう。5月の仙台ハーフ、7月のゴールドコーストのハーフも1時間2分台で、いずれも日本人トップ。夏のマラソン経験がないので、暑さへの適性はわかりませんが、終盤までもつれればもともとスピードがある選手なので、チャンスがあるかもしれません。

――ベテラン勢では今井正人選手(トヨタ自動車九州)や中本健太郎選手(安川電機)もいます。

川内 私は岡本直己選手(中国電力)を推したいです。自己ベストは優勝した昨年8月の北海道マラソンの2時間11分29秒ですが、これまで冬のマラソンでスタミナ切れすることが多かったのに、夏のレースを走ったらラストスパートで勝ったわけです。暑さに相当強いかもしれません。

――展開次第で思わぬ選手が勝つこともありそうですね。

川内 そう思います。昨年のシカゴで、2戦目のマラソンながら2時間7分台を出した藤本 拓選手(トヨタ自動車)も一発ハマれば強いかもしれないですし、山本憲二選手(マツダ)は積極的な走りが持ち味で、今年3月のびわ湖で2時間8分台を出すなど勢いに乗っています。それから、5月の仙台ハーフで自己ベストを更新した橋本 崚選手(GMOアスリーツ)は強気な走りをします。何か仕掛けてきてもおかしくない。

青山学院大学時代の同期でスターだった神野大地選手(セルソース)に対して、一度も箱根を走れなかった橋本選手は相当な対抗意識を持っています。神野選手が頑張ると、それにつられて橋本選手がさらに頑張るという展開もあるかも。

――ちなみに、暑さを理由に東京五輪は目指さないと言っていた川内さんですが、MGCファイナルチャレンジ(19年12月から20年3月にかけて行なわれる福岡国際、東京、びわ湖の3大会が対象)には出る予定とか。五輪出場をあきらめていないのですか?

川内 東京五輪を目指さないと言っていたのは、暑さが苦手な私では世界とは戦えないと思っていたからですが、その後にスタート時間が朝6時に変更になったり、私でも戦えるかもしれないという思いはあります。とはいえ、私がファイナルチャレンジで設定記録(2時間5分49秒)を破る可能性は1%あるかどうか。

だから、今は世界選手権に集中しています。ただ、私もこの夏はランナー人生で初めて1ヵ月1000kmの走り込みをしましたし、秋以降に急激に調子が上がるかもしれません。そうしたら、ワンチャンあるかもしれませんよ。

●川内優輝(かわうち・ゆうき) 
1987年生まれ、東京都出身。学習院大学を卒業後、埼玉県庁へ。市民ランナーとして力を伸ばし、2011年、13年、17年の世界選手権に出場。マラソン自己ベストは2時間8分14秒(2013年)。今年4月1日からプロ転向