ジェイミージャパンの戦術のカギを握る、チームの司令塔・田村優選手

空前のラグビーブームをもたらした前回大会から4年、アジア初開催となる「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が9月20日(金)から開幕する。

前回のW杯では、トライ後や相手の反則後に得られるプレースキックで得点を重ねた日本代表。指揮官が代わった現在はプレーの流れのなかでもキックを多用して積極的に攻める戦術を取っている。

そして、その戦術のカギを握るのが、チームの司令塔である田村 優(たむら・ゆう)だ。正確無比なキックの技術と、状況に合わせたランとパス回しで巧みにゲームを組み立てる彼に、自身2度目となる大舞台への意気込みを聞いた。

*本記事は『週刊プレイボーイ32号』(7月29日発売)に掲載されたものです

■どんな強豪国でも互角に戦える

──W杯に向け、自身の状態はいかがですか?

「(今春の強化試合から)しっかりと休むことができたので、もう一度体をつくり直してきました。練習はしんどいですが、頑張って体のキレなどを上げてきた感じです」

──田村選手の大きな武器である、キックの精度に関してはいかがでしょうか。

「プレースキックは、ボールを蹴る前のルーティンを含めてより完璧にしたいと思っています。キックパスも、技術(フォーム、足の振り方など)はすべて共通しているので、ひとつの蹴り方を突き詰めていくことによって精度を上げたいですね」

──キック以外に見てほしいプレーを挙げるとしたら?

「どうしてもキックがクローズアップされがちですが、すべてのプレーを見てほしいです。僕は自ら強引な突破をするのではなくて、流れのなかで突破をするタイプ。試合中は、パス、キック、ランニングのバランスを考えてプレーしています」

──正確なキック、機敏な動きをするために、スパイク選びなどにこだわりは?

「スパイクは、少し重めでフィット感があり、踏み込みやすいものが好きです。あとは、かかと部分や靴底が硬くて、激しく動いてもズレないものを選んでいます」

──チームの司令塔として、視野の広さが不可欠だと思いますが、それはいつ頃から培われたのでしょうか。

「父がラグビーをやっていた影響もあって高校からラグビーを始めたんですが、中学まではサッカーをやっていて。その経験は、グラウンド全体を見て、どこにスペースがあるのかを確認することに生かされていると思います」

──國學院大學栃木高校、明治大学を経て2011年から日本のトップリーグで活躍していますが、世界を意識するようになったきっかけは?

「前日本代表HCのエディー(・ジョーンズ)さんに、初めて代表に呼んでもらったとき(15年)ですかね。それまでは『日本代表に選ばれたい』という思いはそんなに強くなかったんです。でも、運よく代表に入ったことで、自然と世界を意識するようになりました」

──その後、多くの国際試合を経験して感じたことは?

「『日本は海外のチームに劣っている』と考えている方もいるようですが、どんな強豪国に対しても互角に戦える力があると思っています」

──日の丸を背負うことのプレッシャーはありますか?

「試合前まではかなり緊張感があるなかで準備をしています。日本代表の合宿に参加すると眠れなくなるんですよね。今でも練習後にはラグビーの勉強を欠かさずに行なっていて、気づいたら夜の深い時間になっていることもありますし。

エディーさんが監督だったときは朝早くから練習があったので、『起きなきゃ』という意識が強くなりすぎて、4時間くらいしか寝られない日もありました」

──厳しい練習をこなすなかでのリラックス法は?

「ドライブが好きなので、海に行ったりしてダラダラと過ごします(笑)。いざ試合が始まれば、モチベーションが最大に高まりますし、楽しみしかありません。試合中にミスをすることもありますが、引きずることなく切り替えができていると思います」

前回大会では五郎丸のキックでの得点が日本代表の勝利につながったが、今回は田村がその役割を担う

──日本開催のW杯に特別な思いはありますか?

「W杯は前回(イングランド大会)に続いて2回目ですが、チームの目標である"ベスト8以上"に進みたいです。(9月20日の)初戦まで2ヵ月を切りましたが、ここからはあっという間に過ぎていきます。4年前からチーム力は上がってきていると感じていますし、一日一日の練習を大切に本番に臨みたいです」

──少し先の話になりますが、W杯後のキャリアの展望などはありますか?

「目標を立てて40歳くらいまでラグビーを続けたいですね。いつまで日本代表でプレーができるかはわかりませんが、所属しているキヤノンイーグルスでまだ経験したことがない"トップリーグでのトップ4以上"の成績を残したいです」

──ファンの皆さんに何かメッセージをお願いします。初めてラグビーの試合を見て興味を持つ子供たちもたくさんいると思います。

「ラグビーに興味を持ち、競技を始めてくれることがあったら、まずは自分のチームメイトと仲よくしてほしい。僕がここまでラグビーを続けてこられたのはラグビーを心から『楽しい』と思っているからです。

そして、ラグビーは激しいスポーツですし"根性論"のイメージも残っているかもしれませんが、技術を磨けば痛みを感じずに気持ちよくプレーすることができると思います。

もちろん、ラグビーファンの方々にも熱く盛り上がってもらえる戦いを見せたいです。僕はマイペースですが、そこは温かい目で見守っていただいて(笑)。本番ではしっかり強い日本を見せられるよう死力を尽くします!」

●田村 優(たむら・ゆう)
1989年生まれ、愛知県出身。キヤノンイーグルス所属。2015年のイングランドW杯では2試合に出場。正確なキックやスペースを突くランでチャンスを演出する司令塔としてチームを牽引する。身長181cm、体重91kg。代表キャップ数58