過去2回のW杯で、不動のPR(プロップ)として活躍した畠山健介

9月20日(金)に日本VSロシア(東京スタジアム)で開幕する「ラグビーワールドカップ2019日本大会」。いよいよ世界最高峰の戦いが日本で始まる!

強豪の南アフリカ相手に"スポーツ史上最大の番狂わせ"を起こし、空前のラグビーブームを巻き起こした前回大会から4年、日本は今度こそ決勝トーナメント進出を果たせるのか?

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■カギを握るのは田村とFW全員

前回2015年イングランド大会では予選プールで過去最多の3勝(1敗)を挙げながら、目標の決勝トーナメント(ベスト8)進出を果たせなかった日本。自国開催となる今回は、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の下、過去最強のチームになったと期待が高まっている。

果たして前回のジャパン戦士はどう見ているのか。11年、15年と過去2回のW杯で、不動のPR(プロップ)として活躍した畠山健介選手(はたけやま・けんすけ/34歳)に話を聞いた。

――日本(最新の世界ランキング10位)がプール戦で2位以内に入って決勝トーナメントに進出するために、率直(そっちょく)にどんなことが必要になりますか?

畠山 全試合大事ですが、まずは開幕戦のロシア(同20位)戦に勝つこと。W杯を戦うには勢いも必要です。ここでもたつくようだと「あれ、大丈夫?」という雰囲気になりかねません。第2戦の相手は強豪アイルランド(同1位)ですし、ロシアにはなんとしても快勝して、その勢いのまま挑みたい。

その後もサモア(同16位)、スコットランド(同7位)と試合は続きますが、たとえるならばプール戦にはフレンチのフルコースみたいな流れがあるんです。格上のアイルランドとスコットランドに対してどう戦うかということばかり注目されていますが、フランス料理ってメインだけ食べるわけにはいかないじゃないですか。

そういう意味でも、やっぱり最初のオードブル(初戦のロシア戦)が一番大事。そこでインパクトを与えたいですね。

――畠山選手もプレーした前回大会では3勝を挙げながらも、ボーナスポイント(負けても7点差以内、もしくは4トライ以上で得られる勝ち点)の差で惜しくも決勝トーナメントに進めませんでした。

畠山 4年前は正直そこまで考える余裕がなかった。全試合フルスロットルというか、相手はフルマラソンなのに、こっちは100mダッシュで走らないと置いていかれるみたいな(笑)。だから初戦で南アフリカに勝ったものの、4日後のスコットランド戦は完全なガス欠になってしまった。

今回はメンバー31人中21人がW杯初選出の選手ですが、前回出た選手はその経験をチームに伝えてほしいですね。

――最後の調整試合となった南アフリカ戦(9月6日、熊谷)は7-41と敗れましたが、PNC(パシフィック・ネーションズカップ、7月27日から8月10日)はフィジー、トンガ、アメリカに3連勝。手の内を見せすぎたのではという声もありました。

畠山 ある程度、手の内を見せたとしても、本番で逆のことができれば、それはそれでいいんです。ラグビーは常に表と裏があって、裏のオプションがあれば、相手は対応できなくなりますから。

FWが強化されているのはわかりましたし、SO(スタンドオフ)田村優(30歳)のキックを中心とした攻撃から多くの得点が生まれたのもよかったと思います。

――予選プールを勝ち抜く上でカギになる選手は。

畠山 やはり田村のデキはすごくカギになってくると思います。前回大会では五郎丸(歩)のプレースキックが注目されましたが、五郎丸のキックが静だとすれば、田村は動のキック。プレースキックだけでなく、前回大会と比べても今の日本は流れのなかでキックを多用する戦術をとっているだけに、田村がどれだけいいキックを蹴れるかはチーム全体のパフォーマンスに関わってきます。

それとFWは誰かというよりも、(背番号)1番から8番までのユニットとしてのハイパフォーマンスが求められます。それができるかどうか。スクラムもモールもラインアウトも、すべてでFWの頑張りがなければ厳しくなる。

逆にFWさえ安定すれば、BK(バックス)には福岡堅樹(27歳)や松島幸太朗(26歳)ら能力の高い選手がそろっているので、得点はできると思います。

――ちなみに、ラグビーではFWとBKで求められるプレーの役割や性質が違ってきますが、選手の性格とかも違ったりするんですか。

畠山 BKは割と一匹狼みたいな選手が多いですかね。FWはスクラムもラインアウトもユニットで練習して、「みんなで焼き肉行こうぜ」って感じなんですけど、BKはイタリアンに行って、それぞれミートスパゲテイ、たらこパスタ、ピザを食べるというか。イタリアンに行くところまでは連携できるんですけど、何を食べるかまでは共有できないみたいな(笑)。

――自国開催はプレッシャー? それとも後押しに?

畠山 力になっても、プレッシャーにはならないんじゃないですか。4年前はそれまで勝てていなかったこともあって、結果を求められるなかで自分たちの力が通用するのかが不安でプレッシャーがかかっていました。そういう意味で、前回大会で3勝したことでマインドセットは変わっていると思いますし、環境や恵まれた日程を考えても、そこは強みでしかないのでは。

■場合によっては4連勝もあるかも

――ところで、前回大会は初戦の南アフリカ戦での大金星もあってラグビーフィーバーが巻き起こりました。大きな変化もあったのでは。

畠山 大会前はほとんどいなかったメディアが、大会後は急に増えたり、取り巻く環境は一気に変わりました。正直、それまでラグビーやっていた人って、それをどこかひた隠しにしているようなところがあったんですが、ようやくカミングアウトできるようになったというか(苦笑)。

――畠山さん自身もメディアなどに出る機会が増えた。

畠山 それまでは"ラグビー村"から出ることがなかったですからね(笑)。村の外の人に知ってもらえて話すことができると、相手の人も「じゃあ、今度ラグビー村に行ってみるか」となるじゃないですか。それが普及だと思うんです。

ただ、前回は現場が頑張りましたけど、マネジメントがうまくいかず、W杯の盛り上がりを国内リーグにつなげられなかった(苦笑)。今回はなんとかW杯の熱をその後に残してほしいです。

――あらためて決勝トーナメントに行くためのポイントは。

畠山 前回の日本は3勝しても行けませんでしたが、11年大会でのフランスは2勝2敗でも予選プールを突破し、決勝まで行きました。だから、最初に言ったボーナスポイントが大事なんです。

点差によって、トライ(5点+キックが入れば最大7点)を狙うのか、それともPG(ペナルティゴール/3点)を狙うのか。それがラグビーW杯の妙だったりするので、賢く戦わないと。前回みたいに100m走の勢いで42.195km走っちゃダメなんです(笑)。

――ただ、アイルランドかスコットランドの2強のどちらかを上回る必要はあります。

畠山 今までの実力だと彼らが優位かもしれませんが、日本も自信をつけていますし、今回はホーム開催ですから。しかもティア2(※ティアはランキングとは別のラグビー界の格付け。日本は、伝統と実力を誇る国で構成されるティア1に続く、中堅国のそろうティア2に属する)の国での初開催、プラス要素は山ほどあります。だから、単純な実力と過去の実績だけで測れません。

アイルランドにしても先日ウェールズに勝ちましたが、去年はイングランドにボコボコにされていて、そのイングランドは今年2月にウェールズに負けています。これはもうジャンケンと一緒ですから(笑)。

――確かに、02年のサッカー日韓W杯を振り返っても、初のアジア開催で環境の違いなどもあって、強豪国が早々に敗退するなど荒れた大会になったことを思い出します。今回も何が起きても不思議ではないということですね。

畠山 場合によっては4連勝もあるかも。こればかりは、やってみないと誰にもわからない。だから面白いんです。

●畠山健介(はたけやま・けんすけ) 
1985年生まれ、宮城県出身。早稲田大学を経てサントリーへ。2019年3月に退団。ポジションはPR(プロップ)。178cm、115kg。日本代表キャップ数78。W杯は11年、15年の計8試合に出場