レアル・マドリードについて語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第115回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、レアル・マドリードについて。新シーズン開幕前のプレシーズンマッチでは不調に苦しんでいたレアル・マドリード。しかし、シーズン開幕後の戦いはぶりは宮澤ミシェルも予想外だと語った。

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ラ・リーガが開幕して1ヶ月。日本では久保建英が移籍したマジョルカに注目が集まっているけれど、新シーズンが始まってからのレアル・マドリードを見ていると、レアルに残っていても出番はなかっただろうなって思っちゃうよね。

プレシーズンマッチでのレアル・マドリードはボロボロだったから、開幕したらもっと苦しむかなと予想していたんだけど、アウェーでの開幕戦でセルタに3対1で勝利。その後の2試合は引き分けたけど、国際Aマッチデーが明けたレバンテ戦と先日のセビージャ戦には勝利した。

すばらしいとは言えないけれど、それなりの戦いをしているよ。これは昨季終盤に監督に復帰したジネディーヌ・ジダンの手腕なんだろうな。

そのなかでもガレス・ベイルがすごいんだよ。オフシーズンにジダン監督から「戦力構想外だ」と言われた選手とは思えないんだよな。普通なら精神的に腐るだろうけど、そこを乗り越えた。何があったかはわからないけれど、体が引き締まっていることが、プレーには好影響をもたらしているんじゃないかな。

昔の良かった頃のベイルに戻りつつあるよ。第3節のビジャレアル戦は引き分けに終わったけれど、ベイルの同点弾がなければ勝ち点1さえ手にできなかったからね。それによってルーカス・バスケスに出番が回ってこないんだから、レアル・マドリードの選手層の厚さはやっぱすごいよ。

ベイル以外でも、主力選手たちが気持ちよくプレーしているように見えるね。カゼミーロはDFラインのなかに入らずに前で相手を潰しているし、クロースもモドリッチも悪くないし、マルセロもちゃんと使われている。

そのせいで昨季はレアル・マドリードの若返りの象徴のように言われたビニシウスは、すっかり出番がなくなっている。左サイドに限定して動くように指示され、難しい仕事になっているために去年のような輝きがないんだよな。

ジダン監督が古株を重用しているのは、もしかしたらプレシーズンマッチの出来が悪かったから、シーズン序盤戦は計算の立つベテランを起用しながら安定感をもたらそうとしているのかもね。

とはいえ、計算の立つメンバーを使っても、失点はこれからも多そうだな。チャンピオンズリーグのグループリーグ初戦のパリ・サンジェルマン戦は0対3で完敗。攻守でコテンパンにやられちゃった。セビージャ戦では完封したけど、今後この影響がラ・リーガでどう出るのかは心配な点だな。

ジダン監督は2016-17年シーズンからCL3連覇を成し遂げているけれど、当時のチームにはクリスティアーノ・ロナウドというスペシャルな点取り屋がいた。守備を固めてカウンターに徹することができたけれど、いまのチームにはそういう選手がいないんだよな。

ベンゼマはCFとして世界最高峰のひとりだし状態もいい、新たに獲得したエデン・アザールもいい選手なのは間違いない。ただ、C・ロナウドほどの得点力は望めないんだよな。結局、レアル・マドリードが失点を減らせないのは、そこなんだ。

レアル・マドリードは各ポジションに"個"の強さを追い求めているチームで、組織的にチーム力を高めるというタイプのクラブじゃない。だから、攻撃的な選手の守備面での貢献度は小さい。でも、いくらDF陣に世界的な選手を揃えていても、いまのサッカーでは前線からの守備がなければ、なかなか守りきれないんだよ。

ジダン監督が守備をどう立て直していくかは興味深いね。CLは同グループにパリSG以外だと、ブルッヘとガラタサライがいて、ラ・リーガではここから強豪クラブとの対戦が待っている。主導権を握る試合ができればいいけれど、そうじゃないと各タレントの能力頼みになっちゃうだけだから心配だね。

ただ、まだシーズンは始まったばかりなのに、良くても悪くても注目を集めるってのがレアル・マドリードの宿命ってことだよな。だからこそ、まずはラ・リーガのレベルに慣れるために久保がマジョルカを選んだことは良い選択だったと思うよ。

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